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そうだ!奴隷を買おう

奴隷商館に行ってみた

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 カリヤさんに再度のお礼をしながら、その場を去ると少しばかり好奇の視線と嫉妬らしい視線とを感じた。前者は新規登録したばかりで金貨をホイホイ出しているのが気になったのであろう。後者はカリアさんに熱を上げている奴らなのだろうと思う。かなりの時間、美人受付嬢を占有していたから。しかし、オレが指名したわけでも彼女が座っている窓口へ故意に選んで行ったわけでもないので睨むのは止めて欲しい。
 いたたまれないのもあるし、今日の予定は詰まっているのでそそくさと冒険者ギルドを後にした。
 次は衛兵詰め所だ。街の中央、東西南北と五カ所あり日本の交番のような仕事もしていれば、ちょっとした役所仕事もこなしているという。東西南北それぞれ街門に設置されているのでオレが最初に別室呼ばれた場所も衛兵詰め所の一角だったそうだ。ちなみにオレが入ってきたのは西門だった。
 西門まで戻っても良いのだが、中央詰め所でも可能だということで身分証明書と保証金預かり証書を揃えてそちらに提出した。さっき払った金貨五枚が返ってきましたよ。そんな気持ちになった、違うのは分かってるから。
 最低限やらなければならなかったことが終わって浮き足立ちながらデンメル商館へ向かったのがいけなかったのか、紹介状を見せられた店員がいきなり閨OKな若い女性奴隷を紹介してきた。
 あんたも物好きだねと、後腐れなく妾館の方が良いと思うけど病気のこと考えると等々聞くに堪えない話を続ける。
 自分自身それほど短気な気質ではないと思っていたのだけれど、今回は我慢ならなかった。勝手な勘違いで連れてこられた女性奴隷に対しても失礼だ。彼女に上の者を連れてくるように頼んでオレはだんまりを決め込むことにした。これ以上口を開いたら大声で怒鳴りつけそうだったから。
 数分の後、慌てて来てくれたのか黒髪白髪交じりのダンディな男性が目の前で頭を下げてくれていた。館長のデンゴを名乗った彼に対し、怒りはないのだが監督責任は生じるだろうから、その謝罪は素直に受け取った。
 もともと、この通された個室は紹介状のない者や金払いが悪そうな客を案内する部屋だったそうで最初の一歩から対応が悪かったようだ。まあ、見た目二十歳そこそこの若造が大金持っているとは思わないだろうが、商売人としては思いっきり見る目のない店員は、他の従業員だろうか、なかなかカッコイイと思わせる男に裏へ引きずられて行った。
 お手数ですがと場所移動を案内されたのは、先ほどとは全く違う装飾で施された高級そうな個室であった。担当はそのままデンゴ館長が引き継いでくれるというので御願いすることにした。デンゴ館長は先ほどの男が持って行った紹介状をソファーテーブルを挟んだ向かい側でじっくり読んでいる。館長が開けるまで封も切られてなかった、何のための紹介状だよと男に対して内心で悪態をついてしまった。
「確認いたしました。こちらの不手際重ねてお詫び申しあげます。観る者が見ればお客様のお召し物や鞄の価値が分かりますので冷やかしではないことが理解できますでしょうに。教育不足でお恥ずかしい限りです」
「これ以上の謝罪は必要ないですよ。それに今回はそのことで怒りを感じたわけではありません。支払いができるかどうかは話していけば誤解は解けたでしょうから。
 私が怒りを覚えたのは、彼女がいる前で「飽きたらまた売りに出せば良い」だとか「妾館の方が若いまま楽しめて良いだとか」言うものですから。好んで奴隷になった方はいらっしゃらないでしょうし、あるじに身体を開くことを契約に可能とした方だって、それぞれ悩まれたでしょうし。彼の考え方は好きではないし、そういう考えがあったとしても彼女の前で言うことではないだろうと」
 冷静になれば恥ずかしい理由だった。少しばかり女性を神聖視しているところがあるのは自覚済みだ。
「理想論でしかないのかもですが、私の理想は終身雇用なのですよ」
 欲しいのは仲間なので、尚更だ。
「終身雇用ですか?」
 日本でも廃れてきた制度ではあるけれど、こちらでは制度そのものがないのだろうか。
「はい、どうしてもの理由がない限り手に入れた奴隷を手放すことはしたくはないですね。自由を奪うとかではないですよ」
「自由……お客様は相当お変わりのようですね」
 デンゴ館長が呆れながらも嬉しそうに言う。
「お客様に買われる奴隷は幸せ者です。先ほどの男はしっかり躾け直します」
「そうなると良いですね」
 男のことは頷くことだけで応えた。
「紹介状には知識人をということですが、詳しくお聞かせください」
 デンゴ館長がお仕事モードに入られた。オレは思いつく限り必死に伝える。
「はい、今までの会話からもきっと分かってしまったと思うのですが、私は少しみなさんと考え方が違うようです。そして山奥で一人の師に着いて暮らしていましたので常識に乏しいのです。
 生活するには困らない財産を残して頂いたのですが、常識知らずでは問題行動をおこしやすく思います。そこでオレに、じゃなかった私に、常識を教えることができて支えてくれるような方が必要だと思いました。
 奴隷の制度には慣れていないのですが、秘密を共有できて裏切らないのですよね。そんな仲間が欲しいのです。
 一緒に冒険したり、お店をしてみたりできたら良いですよね。年齢はこだわらないのですが、男性が好ましいです。女性には気を遣ってしまいそうで」
 そこまで一気に話すと、メモをしていたデンゴ館長が顔を上げて言う。
「夜伽は必要ないと?」
 やはり、そこに結局は行き着きますよね。
「興味がないわけではないのですが、私自身に少し問題がありますので」
 少しじゃねぇよ、大いなるトラウマを抉らないでいただきたい。
「なるほど、絶対拒否というわけでもないのですね」
 ボソッと言われたけれど、否定も肯定もしなかった。今回は男性が良いです。親友とか参謀とか憧れる。
「大事なこと忘れてました。私は鑑定士なので失礼になるかもしれませんが検討時に鑑定させてください」
「鑑定証がそれぞれ付いていますので問題ないですよ。安くない買い物ですのでじっくりご検討ください」
 鑑定と言いつつ天眼なので、渡される鑑定証より多くの情報が手に入るだろうがそこは内緒だ。
「希望から遠い者から順番にという手法もあるのですが、お客様には無駄ですし先ほどのお詫びもありますので当店一押しからご紹介させていただきます。
 その分、代金もそれなりにかかりますので妥協できる点でお決めになるのがよろしいかとご助言いたします」
 そう言われて最初に連れてこられたのは銀髪エルフだった。おとぎ話に出てきそうな美貌の男性エルフだった。彼に引き合わされて購入を断念しなければいけない現実に打ちのめされた客は相当数いただろう。
 天眼での鑑定結果は【代金:時価】と表記されている。
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