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はじまり
4 『お買い物』
しおりを挟む予想もしていないぐらい神秘的な場所に出てしまったが、もはや月光が出ているということはしっかりがっつり夜だ。
このまま夜を明かすわけにはいかない。
急いでスキルウィンドウを呼び出した。
『買い物するジャンルを選択してください
ホームセンター 100円均一
レベルが上がると新しいジャンルが解放されます
すべてのジャンルが解放されると新しい店舗が追加されます』
ホームセンターを選択する。
すると『商品区分を選択してください』の文字に続き建築、農業、工具・塗料・補修材、作業衣類、ガーデニング・石材、物置・住宅、家電、食品などなどホムセン先生の多岐にわたる選択肢の中から、物置・住宅を選択し、先ほど目星をつけていた商品をすべてカートへ放り込んだ。
『ん? そういえば俺の所持金ってどういう扱いになるんだ?』
商業ギルドに所属している俺の所持金は基本的にギルドカード内にため込んであり、商業ギルドカードは冒険者ギルドのカードとは違い、魔法によって商売する人間にとって理になる創意工夫が加えられている。ギルドカード内の所持金のその場での引き出し、逆に預け入れ、コンビニのような簡単な商品の遠隔売買等々、商人には欠かせない機能満載のとんでもカードだったりするのだが、この場合自分でお金を引き出しておくべきなのか? それともギルドカード内の口座も俺の財産扱い?
なんていろいろ考えていたら一つの可能性に思い至った。
―――――さすがにスキルとはいえ自分の意志以外で引き出した可能性があると魔法が判断したらギルドの防犯装置が作動してしまうのでは??
俺はそっと自分の荷物からギルドカードを取り出した。
些細な手間惜しんで通報されるのダメ、絶対。
さて、このギルドカードにため込んでいる貯金額だが、実はざっと日本円換算で300万ほどあったりする。
これを多いと思うか少ないと思うかは人それぞれだ。
これが日本なら普通車一台と諸々のオプションでおおよそ吹き飛ぶ額、田舎なら首都圏より最低賃金が安いにもかかわらず一家に車が2、3台いるわけだからそれを基準にすると生活のための足の2分の1か3分の1程度の金額にしかならない。
実際、ここでも荷馬車や馬車を用意するとなれば俺が持っている額でも買えてちっちゃいのや、ぼろいのが2、3台、新しくていいやつなら普通に足が出る程度の金額でしかない。
元々、いざ追い出されてもいいように工面していたお金なのだが想定よりちょっと少ない。なぜならもし追い出されたら売買をしていた街での永住権を買わないといけない。もちろん住むだけならアパートのようなもの賃貸もあるが、アパートに暮らしている人間は長期の宿を借りているという方の抜け穴で暮らしているだけで、法的にそこで生活している人間とはみなされない。いつかいなくなる、という建前で暮らしているので税が軽い代わり受けられる保証も少ない。俺みたいな餓鬼が永住権を手放して生きていけるほど簡単な作りになっていない世の中だ。
ちなみにその永住権というのが、元々別の村や街で暮らしていたという記録さえ確認できれば本来の費用より安く済むのだが、その額がちょうど俺の持っている貯金の半額ほど。住居はどんなものが来ても文句を言わないなら4分の1ほど、それにギルドの拠点変更の申請は無料なのだが、自分の登録されいる地域が変更になると確認のための施設が変わるので登録料と代行料で変更申請に6分の1ぐらいの金額がかかる。この時点で手元に残るのが日本円換算で25万ほどしかなく、新生活に必要なものを揃えたらおおよそなくなる。でも翌日からの生活費と半年後の税金を考えると半年後ぐらいに破綻する計算だ。
しかし、俺は幸運にもスキルで住む場所と食料、それから永住権の問題がクリアされた。
ちなみに村の永住権はあくまでどの管轄の人間かという記録なので、俺が他の街で活動している記録さえ残っていれば消されることがないし、もし田舎のごたごたで消そうものなら一気に役人の首切りなので抹消されないはず。
つまり対外的にはあの村の人間として活動して、村の中では勝手にお通夜しといてくれれば、住居と新生活グッズで100万ほど使って後は全部今後の生活や活動費のために使えるわけだ。
というわけでギルドカードから150万ほど引き出して、カートに入れた商品にオプションまできっちりついているか確認して、設置場所を選択してからを購入する。
すると目の前に、ちょっと神秘的なはずの空間にちっとも似つかわしくない立方体の建造物が三つぽんと現れた。
あんまり似合わないからふへへっと変な笑いが思わず飛び出したけど、お腹もすいたしもうへとへとだったので、とっとと物置の中へ撤収したのだった。
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