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26話 覚醒
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ポタッ……ポタッ……
水晶のような輝く氷が深紅に染まり、
床は赤い絨毯に変わり果てる。
「そんな……ベネッタ……ベネッタぁぁぁ!」
ヒロの目には涙が滲み、
怒号のような叫び声が会場を包んだ。
「どうだい? これが僕の紋章の力”絶対零度《アブソリュートゼロ》”だよ。氷を自在に操れるし、なんだって作れる。それにその名に冠する通り僕の氷は絶対に溶けない。僕は氷で、氷は僕その者だ」
「”絶対零度《アブソリュートゼロ》”……」
ついにベルゼルの紋章の力が明かされた。
氷の魔法を扱うとかではなく、
氷そのものを支配しているということなのか……
そんな、
どうやって戦えばいいんだ?
ヒロは強い敗北感に襲われていた。
「な、なんと、ベルゼル選手によって作られた氷の牢獄がベネッタ選手を閉じ込め、巨大な氷の塊がベネッタ選手の体を押しつぶしました! ヒロ選手の声は虚しく響くだけとなっています、このまま勝負は決まってしまうのでしょうか!」
ラブの解説は誰の耳にも届いていなかった。
あまりに凄惨な光景に、
観客は思わず息を飲み込む。
『そこまでするのか……?』
ベルゼルの応援する声は誰一人いなかった。
「ベルゼル……お前ぇ!」
精神的に敗北を味わったとしても、
このまま黙ってみているわけにはいかない。
ヒロが立ち上がり、
身動きができない足の氷を力強く殴って砕くと、
ベルゼルに猛スピードで攻撃を仕掛けた。
今までを遥かに凌ぐ速さで動き、
握る拳は血が滲むほど力強く握られている。
しかし、
それでもベルゼルに攻撃は届かない。
ベルゼルの防御力は異様に高く、
周囲には氷でできた無数の鋭い刃が、
空中を漂っている。
それらは一つ一つがベルゼルの意思で自在に操れるようだ。
ベルゼルはヒロに向かって氷の刃を無数に放った。
ヒロの猛烈なスピードによってかえって威力を増した氷の刃は、
容赦なくヒロをズタズタに切り刻んでしまう。
「ぐあぁ!」
ヒロは血を流しながら、
勢い余って前のめりに倒れこむ―――
―――「決まりましたな……」
グルーディアは椅子に座りなおしながら、
鋭い目つきでヒロ達を眺めていた。
昔の血が騒ぐのか、
指で杖をトントンと音を鳴らして、
感情を抑えているようだ。
「まぁ、順当でしょう。ベルゼルの紋章は強力ですから、紋章を扱えないヒロにはどうしても分が悪いと言わざるを得ないでしょうね」
ゼゼルは軽く息を吐きながら、
腰を掛けなおす。
試合に熱中していたのだろう、
前のめりになったことで椅子のひじ掛けの部分が、
汗でビショビショになっている。
「いや、まだ勝負は終わっていない……」
ロゼの目は静かに、
そして力強くヒロを見つめていた。
(ヒロ……お前の力はそんなものじゃないだろう)
ロゼは机に置かれたグラスを手に取り、
口にゆっくりと運んだ―――
―――ガラガラガラッ
瓦礫をどかして誰かが立ち上がった。
「あぁっと! 試合はまだ終わっていない! 瓦礫に埋もれていた体に鞭を打って立ち上がったのは、ベルゼル選手に吹き飛ばされたダンテ選手だ!」
イヴの解説で、
その場にいた全員がダンテの埋もれていた瓦礫の方を向いた。
「うっ……ぐぅぅおぉぉ!」
ダンテは傷ついた体から血が滴り落ちる。
「ダンテ! お前、無事なのか!」
「見たらわかんだろ、無事なわけねえだろうが、はぁ……はぁ……」
ダンテはフラフラとよろめきながら剣を拾い、
ベルゼルに向かって剣を構える。
限界はとっくにきているだろうが、
ダンテの目はまだ闘志を失っていない。
「ダンテ! もういいお前体ボロボロだろ! 動かなくていい」
「バカか、そんなのできないことぐらいわかってるだろう……」
ダンテは肩で息をしている。
「君は全く懲りないやつだね、いいよ。面白いことを考えた」
ベルゼルが笑ってダンテに向かって手首をスナップさせた。
ベルゼルを取り巻く氷の刃は、
一斉にダンテに向かって放たれ、
ダンテの体を次々に切り刻む。
「ぐあぁ! ……ぐぅ、くそぉ!」
ダンテが氷の刃の渦に突進し、
被害を最小限に抑えながら、
ベルゼルに向かっていき、
攻撃を仕掛けるが、
いつもの動きじゃないダンテの攻撃はいとも簡単に避けられる。
「動きが遅いよ、少し遊んだらすぐに終わりそうだね」
ベルゼルはダンテの懐に入ると、
掌底を顎めがけて放った。
「ぐあぁ!」
空高く打ち上げられたダンテの体は、
周囲を氷の刃がグルグルと巡回し始める。
ダンテの体が地面に落下しようとすれば、
下から氷が体を浮かせ、
上下左右からダンテの体を切り刻んだ。
まるで氷の球体に閉じ込められたかのように、
ダンテを決して逃がさず、
徐々に体を裂いていく。
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
ダンテの悲痛な叫びが会場を包み込む。
「ダンテぇ! ベルゼル! やめろー!」
ヒロが体を使ってベルゼルに掴みかかるが、
ベルゼルの膝がヒロの顔に直撃する。
「ぐふぅ」
「はぁ、もうお遊びは終わりか、まぁ、割と楽しめたよ」
続けてベルゼルは氷の魔法で両手を強化して、
ヒロに連打を浴びせる。
ドガガガッ
殴られるたびに体が徐々に凍っていく。
(くそっ、俺のスキルはなんで発動しないんだ……!)
ヒロは自分に腹を立てていた。
仲間が傷つけられているのに、
何もできない自分に対する無力感がヒロを苛み、
心の中に絶望の雲が垂れ込めていた。
どれだけ体を痛めつけられようが、
スキルが発動する気配はなく、
ヒロは絶望の淵に置かれた。
身体は凍傷の影響で痛みすら感じなくなりつつあり、
仲間たちへの無力感と共に、
ヒロの心は冷たい氷に包まれていくようだった。
(助けたい……ダンテ、ベネッタ……俺が、俺がぁ!)
ヒロは仲間を救いたいと強く願った。
それは今までにない感情であり、
ベルゼルを倒すという強い私情によってヒロは動いていた。
ダンテやベネッタと特訓を積む中での努力も、
最初はベルゼルへの復讐心に駆られていたが、
今は仲間を救いたいという気持ちに変わっていたのだ。
そう願った瞬間、
ヒロの中で何かが変わった。
「うおぉぉぉぉぉ!」
「な、なんだ、急に紋章が……!?」
ベルゼルがヒロの額を力強く殴るが、
その時、
額の紋章が力強く光った―――
水晶のような輝く氷が深紅に染まり、
床は赤い絨毯に変わり果てる。
「そんな……ベネッタ……ベネッタぁぁぁ!」
ヒロの目には涙が滲み、
怒号のような叫び声が会場を包んだ。
「どうだい? これが僕の紋章の力”絶対零度《アブソリュートゼロ》”だよ。氷を自在に操れるし、なんだって作れる。それにその名に冠する通り僕の氷は絶対に溶けない。僕は氷で、氷は僕その者だ」
「”絶対零度《アブソリュートゼロ》”……」
ついにベルゼルの紋章の力が明かされた。
氷の魔法を扱うとかではなく、
氷そのものを支配しているということなのか……
そんな、
どうやって戦えばいいんだ?
ヒロは強い敗北感に襲われていた。
「な、なんと、ベルゼル選手によって作られた氷の牢獄がベネッタ選手を閉じ込め、巨大な氷の塊がベネッタ選手の体を押しつぶしました! ヒロ選手の声は虚しく響くだけとなっています、このまま勝負は決まってしまうのでしょうか!」
ラブの解説は誰の耳にも届いていなかった。
あまりに凄惨な光景に、
観客は思わず息を飲み込む。
『そこまでするのか……?』
ベルゼルの応援する声は誰一人いなかった。
「ベルゼル……お前ぇ!」
精神的に敗北を味わったとしても、
このまま黙ってみているわけにはいかない。
ヒロが立ち上がり、
身動きができない足の氷を力強く殴って砕くと、
ベルゼルに猛スピードで攻撃を仕掛けた。
今までを遥かに凌ぐ速さで動き、
握る拳は血が滲むほど力強く握られている。
しかし、
それでもベルゼルに攻撃は届かない。
ベルゼルの防御力は異様に高く、
周囲には氷でできた無数の鋭い刃が、
空中を漂っている。
それらは一つ一つがベルゼルの意思で自在に操れるようだ。
ベルゼルはヒロに向かって氷の刃を無数に放った。
ヒロの猛烈なスピードによってかえって威力を増した氷の刃は、
容赦なくヒロをズタズタに切り刻んでしまう。
「ぐあぁ!」
ヒロは血を流しながら、
勢い余って前のめりに倒れこむ―――
―――「決まりましたな……」
グルーディアは椅子に座りなおしながら、
鋭い目つきでヒロ達を眺めていた。
昔の血が騒ぐのか、
指で杖をトントンと音を鳴らして、
感情を抑えているようだ。
「まぁ、順当でしょう。ベルゼルの紋章は強力ですから、紋章を扱えないヒロにはどうしても分が悪いと言わざるを得ないでしょうね」
ゼゼルは軽く息を吐きながら、
腰を掛けなおす。
試合に熱中していたのだろう、
前のめりになったことで椅子のひじ掛けの部分が、
汗でビショビショになっている。
「いや、まだ勝負は終わっていない……」
ロゼの目は静かに、
そして力強くヒロを見つめていた。
(ヒロ……お前の力はそんなものじゃないだろう)
ロゼは机に置かれたグラスを手に取り、
口にゆっくりと運んだ―――
―――ガラガラガラッ
瓦礫をどかして誰かが立ち上がった。
「あぁっと! 試合はまだ終わっていない! 瓦礫に埋もれていた体に鞭を打って立ち上がったのは、ベルゼル選手に吹き飛ばされたダンテ選手だ!」
イヴの解説で、
その場にいた全員がダンテの埋もれていた瓦礫の方を向いた。
「うっ……ぐぅぅおぉぉ!」
ダンテは傷ついた体から血が滴り落ちる。
「ダンテ! お前、無事なのか!」
「見たらわかんだろ、無事なわけねえだろうが、はぁ……はぁ……」
ダンテはフラフラとよろめきながら剣を拾い、
ベルゼルに向かって剣を構える。
限界はとっくにきているだろうが、
ダンテの目はまだ闘志を失っていない。
「ダンテ! もういいお前体ボロボロだろ! 動かなくていい」
「バカか、そんなのできないことぐらいわかってるだろう……」
ダンテは肩で息をしている。
「君は全く懲りないやつだね、いいよ。面白いことを考えた」
ベルゼルが笑ってダンテに向かって手首をスナップさせた。
ベルゼルを取り巻く氷の刃は、
一斉にダンテに向かって放たれ、
ダンテの体を次々に切り刻む。
「ぐあぁ! ……ぐぅ、くそぉ!」
ダンテが氷の刃の渦に突進し、
被害を最小限に抑えながら、
ベルゼルに向かっていき、
攻撃を仕掛けるが、
いつもの動きじゃないダンテの攻撃はいとも簡単に避けられる。
「動きが遅いよ、少し遊んだらすぐに終わりそうだね」
ベルゼルはダンテの懐に入ると、
掌底を顎めがけて放った。
「ぐあぁ!」
空高く打ち上げられたダンテの体は、
周囲を氷の刃がグルグルと巡回し始める。
ダンテの体が地面に落下しようとすれば、
下から氷が体を浮かせ、
上下左右からダンテの体を切り刻んだ。
まるで氷の球体に閉じ込められたかのように、
ダンテを決して逃がさず、
徐々に体を裂いていく。
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
ダンテの悲痛な叫びが会場を包み込む。
「ダンテぇ! ベルゼル! やめろー!」
ヒロが体を使ってベルゼルに掴みかかるが、
ベルゼルの膝がヒロの顔に直撃する。
「ぐふぅ」
「はぁ、もうお遊びは終わりか、まぁ、割と楽しめたよ」
続けてベルゼルは氷の魔法で両手を強化して、
ヒロに連打を浴びせる。
ドガガガッ
殴られるたびに体が徐々に凍っていく。
(くそっ、俺のスキルはなんで発動しないんだ……!)
ヒロは自分に腹を立てていた。
仲間が傷つけられているのに、
何もできない自分に対する無力感がヒロを苛み、
心の中に絶望の雲が垂れ込めていた。
どれだけ体を痛めつけられようが、
スキルが発動する気配はなく、
ヒロは絶望の淵に置かれた。
身体は凍傷の影響で痛みすら感じなくなりつつあり、
仲間たちへの無力感と共に、
ヒロの心は冷たい氷に包まれていくようだった。
(助けたい……ダンテ、ベネッタ……俺が、俺がぁ!)
ヒロは仲間を救いたいと強く願った。
それは今までにない感情であり、
ベルゼルを倒すという強い私情によってヒロは動いていた。
ダンテやベネッタと特訓を積む中での努力も、
最初はベルゼルへの復讐心に駆られていたが、
今は仲間を救いたいという気持ちに変わっていたのだ。
そう願った瞬間、
ヒロの中で何かが変わった。
「うおぉぉぉぉぉ!」
「な、なんだ、急に紋章が……!?」
ベルゼルがヒロの額を力強く殴るが、
その時、
額の紋章が力強く光った―――
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