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エルフの森編

第40話 『抜く』力

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 ソウタ達はまず方角を知るところから始まる。東の方向にエルフが資源を採掘する洞穴がある事を聞いたソウタ達は、フィルとアエルの指導の元、森での生き方を伝授してもらっていた。

「それじゃ、この森では僕らが先生っすからね、ちゃんという事を聞くっすよ?」

 フィルは人差し指を立て、全員の前にたった。

「は~い」

 ソウタ達の気の抜けた返事にフィルが目くじらを立てて叱る。

「はい、そこ! それじゃこの森は攻略できないっすよ!」

 フィルはソウタを指さすが、アエルがフィルの頭を軽くこづいた。

「フィルも調子に乗りすぎ! すみませんみなさん、フィルはいつも叱られてばかりで多分サラザールさんみたいにしたかっただけだと思います」

 アエルは頭を下げ、フィルの素行を謝罪した。

「いや、大丈夫だよ。フィルったもしかしてサラザールの真似をしてるの?」

「いや、あれは多分だいぶ誇張してるな」

「どうでもいいから、早く知識蓄えようよ」

 ソウタと神さまが会話をしている中、一刻も早く知識を蓄えたいシーナがくぎを刺した。

「それじゃ、まずは方角を知る方法ですね。いくつかあるんですけど、木の苔の生え方でわかります」

 そういってアエルは1つの木の近くまで駆け寄り、そっと手を添えた。

「木の苔の生え方?」

 ソウタ達はまじまじと見つめるが特に変わった様子はない。木に苔が生えているが、なにか特徴でもあるのだろうが、ソウタ達はいくら考えても答えが出てこない。

「う~ん、神さま、わかる?」

「バカか、私は神さまだぞ? 自分でどうにかするんだな」

「とかいって、わかんないんだろ?」

「ねぇ、ソウタ! 真面目にやって!」

 ソウタはついにシーナに叱られ、下を向いた。落ち込んでいるソウタを見て神さまはクスクスと笑いをこらえ、ソウタは神さまを強く睨む。

「木を1つだけ見るのではなく、全体を見てください、なにか気づくはずですよ?」

「全体~?」

 ソウタ達は木の周辺をくまなく探した。やはり特に変わった様子はないようだ。するとシーナがある事に気づく。

「あ、苔の生えてる方向が全部一緒だ」

 シーナの言った通り、ソウタの周りにある木は全てある一定の方向に向かって苔が生えている。

「シーナさん正解です! この辺りはまだ光が当たる方なので、太陽の光って西から東に動くんですけど、その時に光に当たらないのは北の方向、つまりジメジメしてる方向が北ってことですね」

 シーナの着眼点にソウタと神さまは拍手を送った。

「おぉ~、さすがシーナ!」

「へへっ、まぁね~」

 シーナはまんざらでもない表情を浮かべ、アエルは次に歩き方を伝授した。

「次は歩き方ですね」

「歩き方? 別に普通に歩くだけじゃダメなの?」

 アエルは首を縦に振った。

「ダメです、サラザールさんも言ってましたが、密猟者を討伐する隊はサラザールさんだけではないし、モンスターもいますからね、足跡がつけばそれを辿られて背後から攻撃を受けます。情報は武器ですから」

 アエルはフィルの背中をグッと押した。

「な、なんだよフィル!」

「サラザールさんに教えてもらった歩き方をやってみて?」

「そういうことかよ、ったく、ほいっ」

 フィルはそう言いながら、ひょいひょいと身軽に移動した。

「なるほど、木の根の部分をなるべく歩くのか」

「たしかに、それなら足跡はつきずらいね」

「でも、それでも根の部分に足跡はつくので、歩く時はなるべく力を抜くんです、ちょっと難しいですよ?」

 ソウタ達はフィルと同じように見様見真似で移動してみるが、思いのほか上手くいかない。どうしても踏み込むときに力が入り、足跡もしくは泥を根につけてしまう。

「うわぁ、難しいなこれ」

「うん、『抜く』って感覚がまだ掴めないな」

 そんな中、ハウルはひょいひょいと足を器用に使って移動する、身のこなしが軽く、足跡もついていない。それに気づいたシーナがハウルを指さす。

「見て! ハウルができてるよ?」

 ソウタはブスッとした表情をしていたが、ハウルの動き方を見て。突然なにか掴んだのだろうか、ソウタは再度挑戦した。

「もしかして、……こうか?」

 ソウタが行ったのは着地の際に膝で上手く反動を逃がすことだった。着地の際にどうしても力を入れるのを、膝を使って上手く力を逃がす、そう『抜く』のだ。

(これ、俺の力の制御にも生かせるかも?)

 ソウタはそう感じた。この森での生活はソウタを成長させる絶好の場所だ。今までは力任せの攻撃ばかりだったのが、何処に力を入れて、余分な力を『抜く』ことができれば、もっと長いこと戦う時間を維持できるかもしれないからだ。

「凄い、ソウタ! どうやるの?」

「へへっ、膝を上手く使うとできるよ! シーナもやってみな? ハウル待て!」

「ワン!」

 ソウタとハウルは追いかけっこを始め、フィルとアエルにやめるよう注意される。

「あ、離れたらダメっすよ~」

「アンタも追いかけたらダメでしょうが!」

 こうして、ハントの森の初日が無事終わりを告げた―――
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