ダンシング・オメガバース

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文筆業とか言ってみたり

14 嬉しい便り

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 チェルト君に味噌を届けたら、食べ方を教えて欲しいと引き留められた。
 で、なんでか彼の家のキッチンに立っている。

 豚肉と玉ネギと人参があったので、豚汁っぽいスープを作ってみた。
「これ美味しいよ、ルノン君!」
 チェルト君がいつもの調子で褒めたたえてくれるものだから、僕も悪い気はしない。自然と口が軽くなる。

 笑い話として、とん挫したばかりの味噌汁パーティーについて語ったところ、チェルト君は「寒くなって来たしねえ」と顔をしかめた。やっぱ苦手なんだね、寒いの。
 僕からすると全員が全員、冬が苦手というのも妙な気がする。

「こっちってウィンタースポーツとかないの?」
「冬にスポーツだなんて、まっとうな人のすることじゃないよ」
 といいつつも、まったく存在しないというわけでもないらしい。

 だったら、次のエッセイで書いてみるのもいいかもな。フィギュアスケートなんて、ダンスと親和性があるんじゃないかな。スキーやスノーボードはどうだろう。

 こっちの人たちは寒いとのっそりしちゃうから、雪中サッカーとか雪中ドッジボールとかまで行くと、白目をむいちゃうかもな。
 そういう価値観の違いこそが面白いって思うんだよね。

   ◇
 一月も後半に入り、嬉しい便りが届いた。チェルト君の子供がふ化したらしい。

 ミラロゥとともに彼の家に遊びに行ったのは、二月に入ってからのことだった。
「もうかわいくてかわいくて」
 チェルト君はぐっすり眠る赤ちゃんをベビーベッドにそっと置いた。

 良かったねえと思う反面、本当に生んだんだなって驚いている。
 妊娠期間は短いし、卵から生まれるとか言うし、なじみのないことばかりだったので半信半疑だったのだ。

 よかった、ちゃんと人間の赤ちゃんだ。ホッとしたのも手伝って、僕はふにゃけた笑いを浮かべた。
「可愛いなあ」
 赤ちゃんは、どっちかというと、つがいさんに似ていた。
 そっちに似ちゃったかー。

「本当にそう思う?」
 失礼なことを考えたのがバレちゃった?
 笑顔が引きつりそうになる。まばたきしながらチェルト君を見ると、なにやら彼は真剣な表情だ。

「えっと、正直に言えば、はじめましての赤ちゃんよりもチェルト君の方が可愛いけど」
「え!?」
「え?」

 チェルト君が真っ赤になっちゃったなと思ったら、ミラロゥがグイっと僕を引っ張って腕の中に納めた。
 チェルト君もディビットさんに引き寄せられてる。

「急にどうしたの?」
 ミラロゥをポカンと見あげる。なんか、ため息つかれたんだけど。

「ミラロゥさんも苦労するね」
「なに、なんの話?」
「ルノン君がたらしだって話」

 どゆこと。
 さっぱりわからなくてキョロキョロしていると、チェルト君が咳払いで僕の注意を引いた。
「ボクもこの子のことはすごく可愛い。小さいころからデイビーの子供を産みたいって思ってたし」

 そりゃすごい。
 実のところ、僕にはない感覚だ。オメガではなく男として生きてきた時間が長いので、産みたいとは思えないのだ。ミラロゥもそれでいいと言ってくれる。

 僕の意識がそれかけたところで、チェルト君が「けど……」と小さな声で呟いた。
「ボクは小説も書きたい」
 チェルト君はずいぶんと心もとない顔をしていた。

「書けばいいんじゃない? っていうか、僕は読みたい」
 なんで諦めモードなんだろう。首を傾げてしまった。
 チェルト君も目をパチパチさせた。そんで困ったように笑った。どことなく、目元が潤んで見えたので僕はうろたえた。
 なにか、変なこと言ったかな。

「普通なら、オメガとしての務めを果たせって言われるよ。けどそっか、やっぱりルノン君は気にしないんだね」
 それってあれかな?
 産み育てよ、みたいなヤツ。

 なるほどね、なんとなく、チェルト君の言いたいことがわかったぞ。
「チェルト君。僕に頼みごとがあるんだよね? 僕にできることなら手伝うよ」
「ルノン君、ありがとう! 僕の面倒見て!」
「もちろん! ……てあれ? 子守じゃなくて?」

 ノリでハグでもしたいところだけど、僕らはお互いのつがいにがっちりホールドされているので、両手を上げたり下げたりしただけだった。
 それで冷静になったらしく、チェルト君は改めて僕に説明した。

「あ、うん。両方なんだ」
 彼が言うには、チェルト君は集中すると周りが見えなくなる性質らしい。だから、子供の声に気付かず無視しちゃうんじゃないかと恐れている。

 あとはどうしても家が荒れるので、簡単な掃除とか食事を作って欲しいそうだ。
 子育てなんてしたことないけど、そのくらいなら僕にもできそうだ。
 新作が読めるならお安い御用だよ!

 実際、チェルト君の集中力はすさまじかった。見ていて怖いくらいだった。そうして二カ月くらいで新作を書きあげてしまった。

 脱稿してテンションがぶちあがった彼は言った。
「よし、じゃあ、ミソシルパーティーしようか!」
「ほえ?」

「会場はいつものカフェを借り切ろう。ルノン君も知り合いたくさん呼んでね!」
 僕の企画は鮮やかに乗っ取られた。


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