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高校二年生 夏
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『水無華蓮と別れた方がいい』
『ミライのボク』から来た最後のメールは、一ヶ月以上も前のことだった。神ヶ谷公園に行った日を最後にメールは送られてきていなかった。僕もすっかり存在を忘れていたが、図ったかのようなタイミングで来た。
久しぶりのメールが送られてきてから、一時間が経過した。アイスで頭を冷やして考えても、先輩と別れた方がいい理由なんて一つも見当たらなかった。
『どうして?』とだけ送っておこう。理由を聞かないと何事も判断はできない。たった一通のメールの言う通りに別れる選択はあまりに愚行だ。
三十分ほどが経った頃、返信が返ってきた。
『このまま付き合い続けることで、不幸になる』
どうして先輩と付き合い続けることで不幸になるのだろうか。
先輩とは喧嘩別れのような形に昨日はなってしまったけれど、それだけで僕が不幸になるとでも思っているのか?
『僕はちょっと喧嘩したくらいで不幸になんてならない』
『違う。そういうことではない』
核心に迫らない回答に僕は苛立ちを覚えていた。返信を待つ少しの時間ですら、何かしていないと落ち着かなかった。窓を開けて、空気を循環させる。
少し冷静になると、全てを知るはずの『ミライのボク』の真意を覆い隠した回答は意図的であるとも思えた。
僕を不幸にする何かが隠されているのだろう。
『不幸になるとわかっていても、聞きたいのか?』
不幸にはなりたくないな。不幸を望むやつなんていないだろ、と心の中で呟きながらも僕の回答は決まっていた。
『言って』
不幸にはなりたくないけれど、わざわざ現在の僕にそんなことを言ってくれるということは、僕が聞かなければいけない話なのだろう。そして、僕が先輩と別れたくなる内容が書かれるに違いない。
きっとこのことを伝えるために、メールを送ってきたのではないだろうか? 今までのメールも信憑性を増すためのもの。『過去の僕に信じてもらうのが先だ』みたいなことを以前に言っていた気がする。
だから、次のメールは僕を不幸にさせるには十分なもののはずだ。
僕は背筋が伸び、心臓の鼓動が速くなるのを感じながら待った。
スマホが振動し、一通の写真が送られてきた。
その写真を見た瞬間、強烈な吐き気に襲われ、冷や汗が止まらなかった。呼吸も上手くできているかわからない。
「どういうことだよ……」
乾き切った喉からやっとの思いで出た声は、ひどいものだった。自分の声だとは思えなかった。
写真に写っていたのは、先輩と見覚えのある男性が仲睦まじそうに笑顔でピースしている姿だった。どうやらどこかの部屋で撮ったものらしかった。ぬいぐるみや先輩のスクールバッグが転がっているのを見る限り、先輩の部屋のようだった。
後ろの白い壁にかかったカレンダーが指すのは、今年の九月一日。来月だ。
僕らの関係が来月には終わっているということだろうか? それとも、先輩が浮気しているということだろうか?
わからない。わかりたくもなかった。
先輩の隣で笑う男のことなんて知りたくもない。また、吐き気が襲ってきた。ゴミ箱を手元に寄せる。
ヴッ、とスマホが鳴った。
メールが届いた。差出人を見なくとも、誰からのメールかわかってしまう。
『水無華蓮は最低だ』
このメールを最後に、『ミライのボク』からメールが来ることはなかった。
『ミライのボク』から来た最後のメールは、一ヶ月以上も前のことだった。神ヶ谷公園に行った日を最後にメールは送られてきていなかった。僕もすっかり存在を忘れていたが、図ったかのようなタイミングで来た。
久しぶりのメールが送られてきてから、一時間が経過した。アイスで頭を冷やして考えても、先輩と別れた方がいい理由なんて一つも見当たらなかった。
『どうして?』とだけ送っておこう。理由を聞かないと何事も判断はできない。たった一通のメールの言う通りに別れる選択はあまりに愚行だ。
三十分ほどが経った頃、返信が返ってきた。
『このまま付き合い続けることで、不幸になる』
どうして先輩と付き合い続けることで不幸になるのだろうか。
先輩とは喧嘩別れのような形に昨日はなってしまったけれど、それだけで僕が不幸になるとでも思っているのか?
『僕はちょっと喧嘩したくらいで不幸になんてならない』
『違う。そういうことではない』
核心に迫らない回答に僕は苛立ちを覚えていた。返信を待つ少しの時間ですら、何かしていないと落ち着かなかった。窓を開けて、空気を循環させる。
少し冷静になると、全てを知るはずの『ミライのボク』の真意を覆い隠した回答は意図的であるとも思えた。
僕を不幸にする何かが隠されているのだろう。
『不幸になるとわかっていても、聞きたいのか?』
不幸にはなりたくないな。不幸を望むやつなんていないだろ、と心の中で呟きながらも僕の回答は決まっていた。
『言って』
不幸にはなりたくないけれど、わざわざ現在の僕にそんなことを言ってくれるということは、僕が聞かなければいけない話なのだろう。そして、僕が先輩と別れたくなる内容が書かれるに違いない。
きっとこのことを伝えるために、メールを送ってきたのではないだろうか? 今までのメールも信憑性を増すためのもの。『過去の僕に信じてもらうのが先だ』みたいなことを以前に言っていた気がする。
だから、次のメールは僕を不幸にさせるには十分なもののはずだ。
僕は背筋が伸び、心臓の鼓動が速くなるのを感じながら待った。
スマホが振動し、一通の写真が送られてきた。
その写真を見た瞬間、強烈な吐き気に襲われ、冷や汗が止まらなかった。呼吸も上手くできているかわからない。
「どういうことだよ……」
乾き切った喉からやっとの思いで出た声は、ひどいものだった。自分の声だとは思えなかった。
写真に写っていたのは、先輩と見覚えのある男性が仲睦まじそうに笑顔でピースしている姿だった。どうやらどこかの部屋で撮ったものらしかった。ぬいぐるみや先輩のスクールバッグが転がっているのを見る限り、先輩の部屋のようだった。
後ろの白い壁にかかったカレンダーが指すのは、今年の九月一日。来月だ。
僕らの関係が来月には終わっているということだろうか? それとも、先輩が浮気しているということだろうか?
わからない。わかりたくもなかった。
先輩の隣で笑う男のことなんて知りたくもない。また、吐き気が襲ってきた。ゴミ箱を手元に寄せる。
ヴッ、とスマホが鳴った。
メールが届いた。差出人を見なくとも、誰からのメールかわかってしまう。
『水無華蓮は最低だ』
このメールを最後に、『ミライのボク』からメールが来ることはなかった。
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