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第三章

三上さんのお手伝い

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 翌日の放課後、いつものショッピングモールに来ていた。三上さんが俺を頼ったのは、頼り甲斐があるからではなく、頼れる人物が俺しかいないという消去法だろう。実際、適切なアドバイスをできるとは思えない。俺がプレゼントを選ぶ時には、須藤に手伝ってもらっていたし、俺がそっち側に回っても三上さんが望む働きができそうにない。
 しかし、頼まれて了承した以上、俺も誠心誠意尽くして、手を抜かず、考えていきたいと思う。マイナスに働かないようにだけ、気をつけよう。

「天野くん、隣からすごい視線を感じるんですけど......」
「そんなことないよねぇ、悟?」
「は、ははは」

 俺の提案は間違いだったかもしれない。楓も加えた三人で行かないかという提案を三上さんは快く受け入れてくれた。当然、楓も大賛成してくれた。
 何とも言えない空気感だ。プレゼントを選ぶ前にまずはこの二人に仲良くなってもらいたい。楓は誰のためのプレゼントか知らない。それを言っておいた方が良いのではないだろうか。

「三上さん、ちょっといい?」
「はい」
「私は?」
「ちゃんと楓には説明するから、ちょっとだけあそこのベンチで待っていて欲しい」

 唇を尖らせながら、大股でベンチまで歩いて行った。

「どうしました?」
「楓に言っちゃダメかな? 三上さんが俺に気がないことを示すために、今日プレゼントを買いにきた目的を伝えるのは」

 三上さんは少し悩んでいるようだった。そりゃあ、普段あまり話したことのないクラスメイトに言うのは躊躇われるはずだ。けれど、このままでは円滑にプレゼントを選ぶことはできない。俺が楓を呼んだわけだし、申し訳ないなと思う。
 
「そうですね。言いましょう」
「ごめん。ありがとう」
「いえいえ。彼女持ちの天野くんにお願いした私が悪いんですから、謝らないでください。南さんから本当に好かれているんですね」
「そうみたいだね。俺は自販機で飲み物買ってくるから、説明しといてもらえる?」
「はい」

 三上さんは楓が座るベンチの方へ歩いて行った。俺はすぐそこの自販機へ向かった。

 お茶と炭酸と柑橘系のジュースを買った。どういう飲み物が好きなのか聞いていなかったので、全く違う種類のものを三つ買っておいた。

 俺が戻ると、先ほどまででは考えられないアンビリーバボーな光景が目に入った。

「おっかえりー。ユッキーが好きな人は幼馴染の子なんだって! 幼馴染はいいよねぇ」

 楓のテンションが先ほどと明らかに違う。『ユッキー』というのは、三上さんのことだろう。三上さんの下の名前は、『由紀』だから。クラスで『ユッキー』と呼ばれているところを見たことがないので、おそらく楓が即興でつけたあだ名だろう。
 あだ名で呼ばれた三上さんは、少し照れくさそうにしていた。

「俺が自販機に行ってる間に何があったの?」
「お話を聞かせてもらって、恋する乙女を応援したくなったわけですよ」

 ニコニコしながら言う楓の豹変ぶりに、顔が引きつる。影響を受けやすくて、顔に出やすい。そういうところはずっと変わらないなぁ。大人の女性とは程遠い。

「楓ちゃんも選ぶの手伝ってくれるらしいです」

 いつの間にか、呼び方も変わっている。先ほどまでは、『南さん』と呼んでいたのに。楓の方は自然にあだ名で呼んでいるけれど、三上さんはまだ慣れないようで少しぎこちなかった。

「心強いな」
「大船に乗ったつもりでいてね」
 
 楓はえっへん、とふんぞり返った。


「天野くん......誕生日プレゼント何貰いましたか?」
「楓が持ってる漫画借り放題券......」

 忘れていた。楓がプレゼントを選ぶセンスが、特異であることを。
 楓がおすすめするものはどれも俺と三上さんを苦笑させるものだった。せっかくおすすめしてくれているので、三上さんも強く否定できないようだけど、明らかに表情が曇っていた。普段表情をあまり崩さない三上さんをあんな顔にさせるなんて、さすが楓だ。褒めてないけど。

「日本地図が描かれたTシャツってどう思いますか......?」
「びっくりさせることはできると思うよ。着てくれるかはわからないけど」

 楓は今、店の中を物色中なのでここにいない。プレゼントに関しては、俺が一緒に決めた方がマシな気がする。しかし、俺の中で楓を悲しませたくないという思いもあり、直接本人に告げるのは躊躇われた。どうすれば良いんだ......。

「楓を連れてきたのは俺だから、俺が何とかする。ちょっと待ってて」

 三上さんにそう言った俺は、楓を捜すことにした。容姿は目を引くようなものがあるので、店内でもかなり目立っており、すぐに見つかった。

「それは何?」
「これ? これはねー、見ての通り鉛筆削りだよ」

 見ての通り、ではない。ピアノの形をした鉛筆削りだ。手動の鉛筆削りは直方体の形をしたものしか見たことがなかったので、ちょっと面白かった。が、それを好きな人の誕生日にプレゼントするのは、どうなのだろう。
 プレゼントは気持ちだ。気持ちなのだけれど、高校生にもなって鉛筆削りを使う頻度はかなり少ないし、やはりプレゼントとしてはあまり相応しくないような気がする。

「楓は誕生日に鉛筆削りを貰ったら、嬉しい?」
「私はどうだろ。悟からのプレゼントならやっぱり何でも嬉しいかなー」

 ああ、そういや以前にそう言ってくれていたな。おそらく楓はプレゼントにそこまで執着がないのだろう。楓の気分を悪くさせずに説得するのは、骨が折れそうだ。

 三上さんの待たせているので、あまり時間はかけたくない。普通なら通じないであろうやり方でいこう。楓ならきっと大丈夫。

「俺も鉛筆削り楓から貰っても嬉しいな」
「おっ、じゃあ今年あげよっかなー」
「俺は嬉しい。嬉しいんだけど、今回三上さんがプレゼントする相手は俺じゃないんだ」
「そうだね」
「だから、一般的に貰って嬉しいものにした方がいいと思うんだ。楓のプレゼントを選ぶセンスは、常人のそれを超えてる。俺からすれば、さすがだ、と思う。でも、今回はそんな奇抜なものは必要ないと思うんだ。三上さんはこれから少しずつ距離を縮めていく必要がある。はじめはごくごく普通なものを渡すべきなんじゃないかな。ここは俺みたいな普通な人間が選ぶプレゼントの方が適している気がするんだ」

 楓は少し悩んでいるようだった。傷つけなかっただろうか。私役に立たなかったんだね......とブルーになったりしないだろうか。
 
 ちょっと内心そわそわしていると、楓がこちらを見て微笑んだ。

「私って昔からちょっとズレてると思ってたんだよね。悟にはちゃんと刺さってるみたいだけど、万人受けするわけじゃないみたいだねー。ここは悟に任せよう!」

 上手くいった。楓の気分を害することなく、プレゼント選びから撤退させることができた。

 楓と共に三上さんの元へ戻った。上手くいったことをアピールするために、小さく親指を立てておいた。それを見た三上さんも小さく頭を下げた。

「わかんないことがあったら悟に訊いてね! 頼りになるから!」

 楓は自分のことのように言った。嬉しい反面、ちょっと照れる。

「はい!」

 三上さんは笑顔で応じた。
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