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第30話「エルの戦い」
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今日はレミの誕生日。昨日と同じくプールで同級生達と遊ぶ事になっている。
プールは都合が良かった。自宅だと数人しか呼べないし、どこかで場所を借りるとお金がかかってしまう。
そして夕食には家族とロレイン兄妹に祝ってもらい、姉ちゃんには良い誕生日になった。
今は朝から両親がじいちゃんをヒューイット街へ送っていき、ロランはギルドに行っているので姉ちゃんの誕生日プレゼントを整理している。
プレゼントと言っても子供がする物だ。高価な物は無い。
「なかなかおさまらないね」
「う~ん・・これはどうしようかな?」
我が家には物があまり無い。一気に増えたのはコップやタオル、勉強道具である。
手作りの物は部屋の中に飾り、日用品はすぐに使う事にするが数が多い。
(あんなに子供が集まるとはなあ・・姉ちゃん人望あるな)
学塾での姉ちゃんは人当たりが良く勤勉である。しかも7歳での冒険者登録。
話に聞くと7歳から登録可能だが、早くても10歳ぐらいが普通らしい。
(そう言えばパパは、王都の学園に入ってから冒険者になったって言ってたっけ)
ママは学塾を卒業してから冒険者になったと聞いている。
「こんな物かな」
すぐに使う物と、保管する物を分ける。
「それじゃあそうじ?」
「うん。早く終わらせてギルドに行こう」
家事を済ませ洗濯物を部屋の中に入れる。俺がこの家を出てから部屋干し出来るスペースが作られていた。
「レミのプレゼントもった?」
「持ったよ」
そう言い、ロレインに貰った指輪をはめる。ちなみにじいちゃんのネックレスは、怪しすぎてお蔵入り。
ブレスレットに改造する予定だ。
俺が渡したプレゼントを被り、出発する。日に焼けてヒリヒリするので、日除けに良いらしい。
ーーーーー
姉ちゃんとリックに乗り軽く走らせていると、馬車と馬がこちらに向かっていた。
(馬に乗ってる人、護衛の冒険者?)
姉ちゃんはリックを止める。
馬車から金髪縦巻ロールのお嬢さんが下りてきた
(げえ)
「そっちから来てくれたのね。以外に遠くてうんざりしてたのよ」
「なんか用?」
フレアは杖を持つ
「平民になめられて黙ってるなんて恥なのよ」
(ヤバいな、姉ちゃんも居るし)
俺はリックから飛び降りる。ロバなので背が低く、俺でも頑張れば乗り降り出来るのだ。
(どうしよう・・フロストさんみたいに姉ちゃんを先に行かせるか)
すると姉ちゃんも降りてきて、俺の前を塞ぐ
「エディに何するつもり?」
姉ちゃんは彼らの言葉が分からないので、共用語で話しかける
「ちょっと痛い目みてもらうだけよ」
杖の先に魔法陣ができる
(容赦ねーな、この人)
魔法陣の先に氷の槍ができた
(痛い目?死にますよ?)
容赦なく槍を放つ
(姉ちゃん!?)
姉ちゃんの前に白い魔法陣が出来て、当たった槍が霧散する
「え?」
「はぁーはぁー・・で、できる」
(今の魔法陣は何だ?しかも無詠唱?)
フレアの顔が険しくなる
「何よ?その魔法陣?」
エディが家を出てからロランがエルに自衛できる魔法を教えていた。
誘拐未遂騒動があったり、エディにヤバい秘密が出来たりしたのが理由だ。
姉ちゃんは左手を前に出し、魔法陣を作る。
パチッ!
「きゃっ」
フレアは尻もちを付く
(電気・・でもかなり弱いな)
姉ちゃんを見る。魔法を2回使っただけだが、汗をかき、肩で息をしている
(まあ、ある意味実戦だ。今回はスキナーも居ない)
フレアは焦っている。見た事無い魔法に動揺しているのだ
「ピトフ!殺しなさい!」
「しかし・・」
フレアはピトフと呼んだ男を睨む
護衛の冒険者達が馬から降りた
(これ、マジでヤバいな)
俺は木の棒を拾う
「すまんな」
この国の言葉で一言だけ良い、冒険者たちは剣を抜いた
ーーーーー
(う~ん今日死ぬのかなあ・・)
絶体絶命の状況で、エディは前世の防犯ブザーを思い出していた
(あれがあったら、誰か助けに来てくれるかなあ)
冒険者達はゆっくり近づいてくる
(これは姉ちゃんではどうにも・・・ん?)
近づいて来るのだが・・
(やる気なさそうだな。普通、子供は殺したく無いか)
エルは考える。自分が使える魔法で、この状況に有効な魔法
(ん?)
左手の先に魔法陣を出し、彼らに向ける。
冒険者達は足を止めた。魔法に警戒してるのだ。
(この詠唱は何?体積?)
何も起こらないので再び冒険者達が歩み寄る。そして
「うおっ」
魔法陣がピトフの左足下に移ったと同時に、落とし穴のように嵌った。
マジックバッグの空間拡張と同等の魔法である。
ロランは巨大な獣も落とせるが、エルでは片足膝までぐらいで限界である。
再び左手先に魔法陣を出す。
「あの嬢ちゃん、結構やるな」
「下手すると足を痛めるわね」
「こんな一瞬で落とし穴は出来ない。あれは近代魔法だな」
ピトフが足を抜きながら魔法の正体に気づく
「近代魔法か・・さすがロバルデュー領だぜ」
「ちょっと、あなた達。早く殺りなさい」
ピトフは頷き、全員に目配せする
エディはスキナーの言葉を思い出していた。「一度見せちまったら、もう通用しねえよなあ」
(姉ちゃん・・)
今度は冒険者達が一斉に踏み込む。一人が嵌っても5人が辿り着ける。
だが冒険者達は驚愕の顔を見せる。
(え?)
発動していた魔法陣が、そのまま違う魔法陣に変わったのだ
「「「「「「バチッィ!」」」」」」
全員強烈な倦怠感で膝を着く。倒れ込む者も居た
(全員で来た所を狙った?その為の落とし穴?)
いや、まさかそこまで考えれないはず・・たまたま?
そして姉ちゃんは剣の魔法陣を出す
(姉ちゃん?やっべ、これハイになってるわ)
7歳の子供がキレた時の行動は、誰にも予想出来ない。
しかもエディを守る為に、目の前の敵を倒す事しか考えていない。
エルはいつもの素振りの様に剣を振りぬくと、ピトフの右腕が落ちた
ーーーーー
「ひっ」
フレアはピトフの腕が切られたのを見て震え上がる。
大の大人の冒険者6人が、7歳の子供に負けた。フレアにとっては衝撃であった。
もちろん冒険者達が最初から殺す気で、本気であれば、こんな結果にはならない。
エルの勝因は、冒険者達の殺したく無いと言う気持ちだ。
だが、フレアにはそんな事は分からない。彼女にとってエルは化物その物だった
「ねえちゃん?」
「はあー、はあー」
肩で息をし続ける。落ちたピトフの右腕を見ながら我に返って行く
「え?」
二の腕で切られ血が流れ続けるピトフを見て、姉ちゃんは震えだす
「あ・・え、エディ?」
「ねえちゃん・・・」
俺にも何も出来ない。どうして良いのかも分からない
「殺せ」
倦怠感と痛みで動けないピトフは、姉ちゃんに追い打ちをかける
「・・もう冒険者は出来ん、負けた以上・・帰国しても打ち首にされる」
「え・・あ・」
「殺せ」
姉ちゃんは震えて動けない。どうすれば良いのか考える・・だがこんな経験は前世を含めても無い
「そこまで!」
その一言で馬車の後ろ側を見る
「ろばーとさん!ロラン!」
他にセティとリミエ、ブラン含む衛兵が来ていた。ブランがフレアに近づく。
「フレア譲、貴女を逮捕します」
杖を取り上げ拘束する。お付きの二人も仕方ないと言う顔で衛兵に従った。
「ろ、ロラン~~」
姉ちゃんはロランに助けを求める。ロランはピトフと落ちた腕の切り口に魔法陣を作った。
「これは?」
「止血よ」
「ロランそんな事できるの?」
「ジェフリーさんに教えて貰ったの。人体の解剖の経験もあったしね」
ジェフリーさんパねえな。そう思ってるとロバートさんが来る
「今ならまだ間に合うでしょう。ジェフリー医師の所に運びましょう」
「え?くっつくの?」
「癒しの魔法で無理だとしても、あの人なら経験がありますよ」
そう言えば癒しの魔法ばかりに目が行ってたが、ジェフリーさんはとんでもない腕の持ち主なのだ
ーーーーー
セティとリミエは彼らの馬車でピトフを運ぶ。ロランは止血を、姉ちゃんは落ちた腕を持ち魔法陣を作って冷やしている。
無造作に腕を渡されビビっていた姉だが、ロランに自分のやった事の責任は取れと言われた。
まあ以前のロランだったら、お前が言うなって思っただろうな。
俺はリックに乗って馬車を追っている。リックも賢いのだ。ポルの影響だろうか?
そして治療院に飛び込んだ
職員達はピトフを見て驚く。怪我よりも止血の方にだ。
「やれやれ、急患が来ていたのですが・・」
そう言うジェフリーさんをリミエが引っ張って来た。一目で判断する
「時間がありませんな。ロラン、手伝ってくれますか?」
「医者じゃないよ?」
「あなたの魔法の手助けですよ。手と頭を洗って服を着替えてください。キャリー、ロランとエルに白衣を」
「は、はい」
「え?私も?」
「自分でやった事です。見届けなさい」
「・・・」
「将来同じ様な状況で、あなたが一人で治療する事になるかも知れませんよ?」
(そうか、癒しの魔法を覚える為に・・ロランは解剖の経験があるんだったな)
姉ちゃんは黙って手と頭を洗いに行く。ジェフリーさんはピトフの切り口を見る
「魔法の剣ですな。綺麗な切り口だ。それに剣の腕も良い」
「ねえちゃんが?」
「ええ、父親の血が濃いのでしょう。エルは良い腕前になりますよ」
(姉ちゃんは魔法使いより剣士が良いのかな?)
セティも話に入る
「7歳で冒険者6人相手ですからね。戦闘センスはエルザさん譲りでしょう」
(ん?どっちが良いの?分からなくなった)
リミエも入ってきた
「容赦の無さも母親譲りだね。あの歳で腕切っちゃうなんて」
「え?ママってそうなの?」
「エルザの事を知ってたら、名前を聞いただけで相手は震え上がるよ?」
(まじ?ママって怖いの?)
ピトフの治療が始まる。俺は待合室でリミエにママの武勇伝を聞いた。正直、今のママからは想像も出来なかった
ーーーーー
領主side
フレアの取り調べが終わり、ジャンは領館の独房から出る
(割と素直になったな。冒険者達が負けたのが効いたのだろう)
執務室に戻ると、ロバートや衛兵も取り調べを終え戻っていた。
「意外と早く終わりましたな」
「ああ、全く覇気が無くなっている。エルに負けたのが効いたな」
「どうなさいますか?」
「帰国させる。が、その前に向こうにも話を付けておきたいな」
「兵に行かせますか?」
「犯罪者の引き渡しだ。一応外交の形を取る」
「なら金板所持が必須ですな。しかしデリスですからね・・今の王宮は弱腰なので乗ってくれるでしょうか?」
「護衛にこちらで冒険者を雇うと付け加えてくれ。メンバーにオーサーを入れるとも」
「かしこまりました」
「ブラン」
「はい」
「彼女を牢屋敷に移動させる。一応伯爵家の娘だ。外には出せんがそこで自由にさせておく」
「承知しました」
領館は慌ただしい。王宮への報告、牢屋敷の準備、兵の配置、フレアと付き人の移動、護衛の者を冒険者ギルドの牢に移動。
護衛を冒険者ギルドに移すのは、エディが衛兵に殺す気が無かったから勝てたと彼らを擁護したからだ。
それにジャンも『その目』で全員見ているので、問題無いと判断した。
冒険者ギルドの牢なら社会奉仕活動を続け、もう十分と判断されればすぐに出られる。
もちろん逃げ出すと次は懲役刑となる。
ーーーーー
「あっ」
「ん?」「どうしたの?」
セティとリミエと一緒に昼食を食べてて、ある事を思い出した。
「きょうねえちゃんの友達のたんじょうび」
「ああ」
「プールね。私たちは行くから伝えておこうか?」
(セティも言ってくれるし頼もうかな?腕を繋ぐ手術って、すごい時間かかるよね?)
「おねがいします・」
セティは頷く
「任せな。師匠のご子息の頼みだ」
「はは・・」
苦笑いしか出ない。昨夜パパに聞いたら頭を抱えていた
(そう言えばママ・・ちょっと怖かったかも)
リミエが話した武勇伝の信憑性ができてしまった
ーーーーー
日がすっかり落ちる
(いつもの仕事のような感じ・・午後8時ぐらいかな?)
まだ手術が続いているので姉ちゃんを待っている
「エディ、まだ居たのか?」
領主とロバートさんが来た
「うん」
「まだ終わってない様だな」
「うん」
待合室を沈黙が支配する
「・・・フレアは強制的に帰国させる。しばらくは監禁しておくがな」
「ぼうけんしゃは?」
「ギルドに移動した。明日から社会奉仕活動だ」
「そう・・ありがとう」
「ずいぶん彼らに肩入れするな」
「嫌々やらされてたし、本気ださなかったからねえちゃんが勝ててピトフさんの手が・・」
「そうか」
話してると廊下が騒がしくなる。職員や看護師がバタバタ走り回っていた。
そして、血の付いた白衣を着たロランとエルが戻ってくる
「ねえちゃん、ロラン」
「終わったよ」
「疲れた~」
姉ちゃんはダウン寸前だった
そしてジェフリーさんもやって来る
「おや、お揃いだね」
「ぴとふさんは?」
「大丈夫、成功だ」
「ありがとう」
「彼らは君を襲ったんだろ?」
「う~ん・・でもありがとう」
ジェフリーさんが何故か優しい笑みを見せてくれた
プールは都合が良かった。自宅だと数人しか呼べないし、どこかで場所を借りるとお金がかかってしまう。
そして夕食には家族とロレイン兄妹に祝ってもらい、姉ちゃんには良い誕生日になった。
今は朝から両親がじいちゃんをヒューイット街へ送っていき、ロランはギルドに行っているので姉ちゃんの誕生日プレゼントを整理している。
プレゼントと言っても子供がする物だ。高価な物は無い。
「なかなかおさまらないね」
「う~ん・・これはどうしようかな?」
我が家には物があまり無い。一気に増えたのはコップやタオル、勉強道具である。
手作りの物は部屋の中に飾り、日用品はすぐに使う事にするが数が多い。
(あんなに子供が集まるとはなあ・・姉ちゃん人望あるな)
学塾での姉ちゃんは人当たりが良く勤勉である。しかも7歳での冒険者登録。
話に聞くと7歳から登録可能だが、早くても10歳ぐらいが普通らしい。
(そう言えばパパは、王都の学園に入ってから冒険者になったって言ってたっけ)
ママは学塾を卒業してから冒険者になったと聞いている。
「こんな物かな」
すぐに使う物と、保管する物を分ける。
「それじゃあそうじ?」
「うん。早く終わらせてギルドに行こう」
家事を済ませ洗濯物を部屋の中に入れる。俺がこの家を出てから部屋干し出来るスペースが作られていた。
「レミのプレゼントもった?」
「持ったよ」
そう言い、ロレインに貰った指輪をはめる。ちなみにじいちゃんのネックレスは、怪しすぎてお蔵入り。
ブレスレットに改造する予定だ。
俺が渡したプレゼントを被り、出発する。日に焼けてヒリヒリするので、日除けに良いらしい。
ーーーーー
姉ちゃんとリックに乗り軽く走らせていると、馬車と馬がこちらに向かっていた。
(馬に乗ってる人、護衛の冒険者?)
姉ちゃんはリックを止める。
馬車から金髪縦巻ロールのお嬢さんが下りてきた
(げえ)
「そっちから来てくれたのね。以外に遠くてうんざりしてたのよ」
「なんか用?」
フレアは杖を持つ
「平民になめられて黙ってるなんて恥なのよ」
(ヤバいな、姉ちゃんも居るし)
俺はリックから飛び降りる。ロバなので背が低く、俺でも頑張れば乗り降り出来るのだ。
(どうしよう・・フロストさんみたいに姉ちゃんを先に行かせるか)
すると姉ちゃんも降りてきて、俺の前を塞ぐ
「エディに何するつもり?」
姉ちゃんは彼らの言葉が分からないので、共用語で話しかける
「ちょっと痛い目みてもらうだけよ」
杖の先に魔法陣ができる
(容赦ねーな、この人)
魔法陣の先に氷の槍ができた
(痛い目?死にますよ?)
容赦なく槍を放つ
(姉ちゃん!?)
姉ちゃんの前に白い魔法陣が出来て、当たった槍が霧散する
「え?」
「はぁーはぁー・・で、できる」
(今の魔法陣は何だ?しかも無詠唱?)
フレアの顔が険しくなる
「何よ?その魔法陣?」
エディが家を出てからロランがエルに自衛できる魔法を教えていた。
誘拐未遂騒動があったり、エディにヤバい秘密が出来たりしたのが理由だ。
姉ちゃんは左手を前に出し、魔法陣を作る。
パチッ!
「きゃっ」
フレアは尻もちを付く
(電気・・でもかなり弱いな)
姉ちゃんを見る。魔法を2回使っただけだが、汗をかき、肩で息をしている
(まあ、ある意味実戦だ。今回はスキナーも居ない)
フレアは焦っている。見た事無い魔法に動揺しているのだ
「ピトフ!殺しなさい!」
「しかし・・」
フレアはピトフと呼んだ男を睨む
護衛の冒険者達が馬から降りた
(これ、マジでヤバいな)
俺は木の棒を拾う
「すまんな」
この国の言葉で一言だけ良い、冒険者たちは剣を抜いた
ーーーーー
(う~ん今日死ぬのかなあ・・)
絶体絶命の状況で、エディは前世の防犯ブザーを思い出していた
(あれがあったら、誰か助けに来てくれるかなあ)
冒険者達はゆっくり近づいてくる
(これは姉ちゃんではどうにも・・・ん?)
近づいて来るのだが・・
(やる気なさそうだな。普通、子供は殺したく無いか)
エルは考える。自分が使える魔法で、この状況に有効な魔法
(ん?)
左手の先に魔法陣を出し、彼らに向ける。
冒険者達は足を止めた。魔法に警戒してるのだ。
(この詠唱は何?体積?)
何も起こらないので再び冒険者達が歩み寄る。そして
「うおっ」
魔法陣がピトフの左足下に移ったと同時に、落とし穴のように嵌った。
マジックバッグの空間拡張と同等の魔法である。
ロランは巨大な獣も落とせるが、エルでは片足膝までぐらいで限界である。
再び左手先に魔法陣を出す。
「あの嬢ちゃん、結構やるな」
「下手すると足を痛めるわね」
「こんな一瞬で落とし穴は出来ない。あれは近代魔法だな」
ピトフが足を抜きながら魔法の正体に気づく
「近代魔法か・・さすがロバルデュー領だぜ」
「ちょっと、あなた達。早く殺りなさい」
ピトフは頷き、全員に目配せする
エディはスキナーの言葉を思い出していた。「一度見せちまったら、もう通用しねえよなあ」
(姉ちゃん・・)
今度は冒険者達が一斉に踏み込む。一人が嵌っても5人が辿り着ける。
だが冒険者達は驚愕の顔を見せる。
(え?)
発動していた魔法陣が、そのまま違う魔法陣に変わったのだ
「「「「「「バチッィ!」」」」」」
全員強烈な倦怠感で膝を着く。倒れ込む者も居た
(全員で来た所を狙った?その為の落とし穴?)
いや、まさかそこまで考えれないはず・・たまたま?
そして姉ちゃんは剣の魔法陣を出す
(姉ちゃん?やっべ、これハイになってるわ)
7歳の子供がキレた時の行動は、誰にも予想出来ない。
しかもエディを守る為に、目の前の敵を倒す事しか考えていない。
エルはいつもの素振りの様に剣を振りぬくと、ピトフの右腕が落ちた
ーーーーー
「ひっ」
フレアはピトフの腕が切られたのを見て震え上がる。
大の大人の冒険者6人が、7歳の子供に負けた。フレアにとっては衝撃であった。
もちろん冒険者達が最初から殺す気で、本気であれば、こんな結果にはならない。
エルの勝因は、冒険者達の殺したく無いと言う気持ちだ。
だが、フレアにはそんな事は分からない。彼女にとってエルは化物その物だった
「ねえちゃん?」
「はあー、はあー」
肩で息をし続ける。落ちたピトフの右腕を見ながら我に返って行く
「え?」
二の腕で切られ血が流れ続けるピトフを見て、姉ちゃんは震えだす
「あ・・え、エディ?」
「ねえちゃん・・・」
俺にも何も出来ない。どうして良いのかも分からない
「殺せ」
倦怠感と痛みで動けないピトフは、姉ちゃんに追い打ちをかける
「・・もう冒険者は出来ん、負けた以上・・帰国しても打ち首にされる」
「え・・あ・」
「殺せ」
姉ちゃんは震えて動けない。どうすれば良いのか考える・・だがこんな経験は前世を含めても無い
「そこまで!」
その一言で馬車の後ろ側を見る
「ろばーとさん!ロラン!」
他にセティとリミエ、ブラン含む衛兵が来ていた。ブランがフレアに近づく。
「フレア譲、貴女を逮捕します」
杖を取り上げ拘束する。お付きの二人も仕方ないと言う顔で衛兵に従った。
「ろ、ロラン~~」
姉ちゃんはロランに助けを求める。ロランはピトフと落ちた腕の切り口に魔法陣を作った。
「これは?」
「止血よ」
「ロランそんな事できるの?」
「ジェフリーさんに教えて貰ったの。人体の解剖の経験もあったしね」
ジェフリーさんパねえな。そう思ってるとロバートさんが来る
「今ならまだ間に合うでしょう。ジェフリー医師の所に運びましょう」
「え?くっつくの?」
「癒しの魔法で無理だとしても、あの人なら経験がありますよ」
そう言えば癒しの魔法ばかりに目が行ってたが、ジェフリーさんはとんでもない腕の持ち主なのだ
ーーーーー
セティとリミエは彼らの馬車でピトフを運ぶ。ロランは止血を、姉ちゃんは落ちた腕を持ち魔法陣を作って冷やしている。
無造作に腕を渡されビビっていた姉だが、ロランに自分のやった事の責任は取れと言われた。
まあ以前のロランだったら、お前が言うなって思っただろうな。
俺はリックに乗って馬車を追っている。リックも賢いのだ。ポルの影響だろうか?
そして治療院に飛び込んだ
職員達はピトフを見て驚く。怪我よりも止血の方にだ。
「やれやれ、急患が来ていたのですが・・」
そう言うジェフリーさんをリミエが引っ張って来た。一目で判断する
「時間がありませんな。ロラン、手伝ってくれますか?」
「医者じゃないよ?」
「あなたの魔法の手助けですよ。手と頭を洗って服を着替えてください。キャリー、ロランとエルに白衣を」
「は、はい」
「え?私も?」
「自分でやった事です。見届けなさい」
「・・・」
「将来同じ様な状況で、あなたが一人で治療する事になるかも知れませんよ?」
(そうか、癒しの魔法を覚える為に・・ロランは解剖の経験があるんだったな)
姉ちゃんは黙って手と頭を洗いに行く。ジェフリーさんはピトフの切り口を見る
「魔法の剣ですな。綺麗な切り口だ。それに剣の腕も良い」
「ねえちゃんが?」
「ええ、父親の血が濃いのでしょう。エルは良い腕前になりますよ」
(姉ちゃんは魔法使いより剣士が良いのかな?)
セティも話に入る
「7歳で冒険者6人相手ですからね。戦闘センスはエルザさん譲りでしょう」
(ん?どっちが良いの?分からなくなった)
リミエも入ってきた
「容赦の無さも母親譲りだね。あの歳で腕切っちゃうなんて」
「え?ママってそうなの?」
「エルザの事を知ってたら、名前を聞いただけで相手は震え上がるよ?」
(まじ?ママって怖いの?)
ピトフの治療が始まる。俺は待合室でリミエにママの武勇伝を聞いた。正直、今のママからは想像も出来なかった
ーーーーー
領主side
フレアの取り調べが終わり、ジャンは領館の独房から出る
(割と素直になったな。冒険者達が負けたのが効いたのだろう)
執務室に戻ると、ロバートや衛兵も取り調べを終え戻っていた。
「意外と早く終わりましたな」
「ああ、全く覇気が無くなっている。エルに負けたのが効いたな」
「どうなさいますか?」
「帰国させる。が、その前に向こうにも話を付けておきたいな」
「兵に行かせますか?」
「犯罪者の引き渡しだ。一応外交の形を取る」
「なら金板所持が必須ですな。しかしデリスですからね・・今の王宮は弱腰なので乗ってくれるでしょうか?」
「護衛にこちらで冒険者を雇うと付け加えてくれ。メンバーにオーサーを入れるとも」
「かしこまりました」
「ブラン」
「はい」
「彼女を牢屋敷に移動させる。一応伯爵家の娘だ。外には出せんがそこで自由にさせておく」
「承知しました」
領館は慌ただしい。王宮への報告、牢屋敷の準備、兵の配置、フレアと付き人の移動、護衛の者を冒険者ギルドの牢に移動。
護衛を冒険者ギルドに移すのは、エディが衛兵に殺す気が無かったから勝てたと彼らを擁護したからだ。
それにジャンも『その目』で全員見ているので、問題無いと判断した。
冒険者ギルドの牢なら社会奉仕活動を続け、もう十分と判断されればすぐに出られる。
もちろん逃げ出すと次は懲役刑となる。
ーーーーー
「あっ」
「ん?」「どうしたの?」
セティとリミエと一緒に昼食を食べてて、ある事を思い出した。
「きょうねえちゃんの友達のたんじょうび」
「ああ」
「プールね。私たちは行くから伝えておこうか?」
(セティも言ってくれるし頼もうかな?腕を繋ぐ手術って、すごい時間かかるよね?)
「おねがいします・」
セティは頷く
「任せな。師匠のご子息の頼みだ」
「はは・・」
苦笑いしか出ない。昨夜パパに聞いたら頭を抱えていた
(そう言えばママ・・ちょっと怖かったかも)
リミエが話した武勇伝の信憑性ができてしまった
ーーーーー
日がすっかり落ちる
(いつもの仕事のような感じ・・午後8時ぐらいかな?)
まだ手術が続いているので姉ちゃんを待っている
「エディ、まだ居たのか?」
領主とロバートさんが来た
「うん」
「まだ終わってない様だな」
「うん」
待合室を沈黙が支配する
「・・・フレアは強制的に帰国させる。しばらくは監禁しておくがな」
「ぼうけんしゃは?」
「ギルドに移動した。明日から社会奉仕活動だ」
「そう・・ありがとう」
「ずいぶん彼らに肩入れするな」
「嫌々やらされてたし、本気ださなかったからねえちゃんが勝ててピトフさんの手が・・」
「そうか」
話してると廊下が騒がしくなる。職員や看護師がバタバタ走り回っていた。
そして、血の付いた白衣を着たロランとエルが戻ってくる
「ねえちゃん、ロラン」
「終わったよ」
「疲れた~」
姉ちゃんはダウン寸前だった
そしてジェフリーさんもやって来る
「おや、お揃いだね」
「ぴとふさんは?」
「大丈夫、成功だ」
「ありがとう」
「彼らは君を襲ったんだろ?」
「う~ん・・でもありがとう」
ジェフリーさんが何故か優しい笑みを見せてくれた
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だが今のアクアオッジは寒い土地ながらも美味しい食べ物で有名になりつつある。近隣諸国からもわざわざ観光で人々が訪れるほどになっていた。
けれどまだまだ面倒な土地をひとまとめにして厄介払いしたような領土を、アクアオッジ辺境伯が頑張って治めている。
平らな土地が少ない・山が多い・海に面した土地は漁獲量が増えてきた・人がまだまだ少ない・魔物の森と面しちゃってる・魔王の国と面しちゃってる・東の隣国がキナ臭い・勇者に目を付けられている(New!)・国土の北部なので寒い・王都からちょっぴり遠い, etc.…
アクアオッジ領のあるこの国はラザナキア王国という。
一柱たる女神ユニティと四大|精霊《エレメント》たる地・水・風・火、それぞれの精霊王が興した国なのである。
ラザナキア国民には【スキルツリー】という女神の加護が与えられる。
十歳になると国民は教会に行き、スキルツリーの鑑定をしてもらえるのだ。
ただスキルツリーの鑑定をしてもらうのにお布施が必要だった。
しかも銀貨七枚もする。十年前のアーサーの時代は五枚だったが値上がりしていた。世知辛い。
銀貨四枚はだいたいセバスチャンの一日分の給与相当である。セバスチャンって誰?執事長。
執事一人しかいないけれど、執事長。セバスチャンの御眼鏡にかなう後継者がなかなか現れないからである。
メリルが十歳になったとき両親から鑑定代をもらったが、欲しいものがあったのでこっそりと懐にしまった。
両親には自分のスキルのことを【魔法スキル?】と伝えてある。きちんと鑑定したわけじゃないので、疑問形なのは仕方ない。
メリルの家族は全員の【スキルツリー】がとんでもなくて、今やアクアオッジ辺境伯一家は超、のつく有名人だらけだ。
そんな中にあってメリルのスキルはとんでもないみそっかすだった。【魔法スキル?】と言えばカッコいいけれど、メリルが放つ魔法は誰がどう見ても……しょっぱい威力でしかないのだ。
メリルは今日も『三枚の銀貨』に向かって深々とおじぎをする。
「わたしの魔法がしょぼしょぼじゃなくなりますように」
このお話は執筆中の長編『辺境伯一家の領地繁栄記』から、アクアオッジ一家を知って頂くための中編シリーズです。
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※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!

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