砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
109 / 262
マリーゴールドから“悲しみ“と“絶望”の花言葉が無くなった日

彼女の思い出

しおりを挟む
 ウィンチェスターM1892ランダルカスタムのマガジンチューブを空にすると、一歩下がって錫乃介に向かって顎をしゃくる女戦士。フィルターなんてあるわけ無い紙巻のシケモクをプッと吹き捨て弾を込める。
 その間錫乃介が前に出て、迫り来るセキュリティロボにショットシェルを叩き込む。
 ここは地下8階層、いくつかの客室を確認しながら、中階層と呼べる所まで潜り込んできたが、機獣化したセキュリティロボの攻勢が増してきていた。


 「コイツら姿は変わってないけどレベル上がってね?」


 錫乃介が指摘する様に、人間サイズのガンタ○ク、という形状に大きな変化は無いが、手にしているのがハタキ状の電磁警棒から、リボルバー式のスタンガンになっていた。
 発射式のスタンガンというと、アメリカのテーザー社(現アクソン社)が開発した、有線の電極を射出するテーザーガンが有名だが、このセキュリティロボが持つスタンガンは電磁パルスを纏った弾丸を射出する無線式であり、ショックガンと呼ばれていた。
 有効射程はテーザーガンが10メートル程だったのに対し、ショックガンは100メートル以上と拳銃並みの射程距離を示した為、世界中の警察機構や警備会社で導入が進められ始めていた非致死性兵器である。
 錫乃介達にこのショックガンから放たれる、プラズマを放つ電磁パルス弾がビュンビュン飛んでくる。
 強化した動体視力なら視認して避けられるレベルで比較的低速とは言えるが、なんせ数が多い。しかも、地面に落ちた弾でもしばらくの間は感電力が残っているため無視できないのが厄介だ。

 
 「セキュリティレベルが上がってるね。レベル2だよ」

 「レベル2ってどんな相手が想定されてんの?」

 さぁね、とマリーは首を傾げ肩をすぼめる。


 “要人警護や公安の監視対象相手が主な任務のロボです”

 要人警護はいいとして、公安監視対象相手のロボがなんでこんな五つ星のリゾートホテルにいるのかなぁ。

 “そりゃ中国ですから。このロボ自体が中国国家安全部所属の兵器なんですよ”

 まいったね、のんびり民主化運動もできねえな。

 “中国でのんびり民主化運動するってどんなシチュエーションですか”

 
 今のところ冗談をナビと言う余裕はあるが、帰路を考えると残弾も心許ない。とりあえず、目の前まで迫るセキュリティロボをフルオートの散弾銃で一掃して片付けると、攻勢は落ち着いた。

 ひとまず手近な部屋に入ると、グレーな色調のモノトーンでシックに抑えられたデザインだった。
 ここまで来る間に様々なデザインの部屋に入った。中華風なデザインだったり、メルヘンチックだったり、ウッディだったり、総大理石の部屋だったり、和室まであった。いずれも五つ星ホテルの名に恥じない豪華な内装であったが、今入った部屋はそれらに比べれば少々地味と言えた。


 部屋の中央にある、古ぼけたクィーンサイズのベッドにどかりと座り紙巻を咥え火を付けるマリー。
 錫乃介は無言で一本催促のジェスチャーをする。貰った紙巻に火も付けてもらい、ドア側に立つと警戒に当たる。

 
 「ここいらが潮時だね。今まで確認した部屋にあった金目の物を中心に回収するよ。置物、時計、小形の電化製品、布類、持てそうな物は何でもだ。経路はこうで……こう行く……」
 
 マリーは電脳でオートマッピングしていたここまでの経路をタブレットに写し出し説明する。


 「成る程ね、そんでセキュリティロボを掻い潜って往復を重ねると……難儀な仕事だ」

 紙巻を咥えたまま、紫煙を鼻から出しタブレットを視認する錫乃介。


 「そうさ、回収屋はなかなか骨が折れるわりに危険が多い。1人じゃ効率悪くて尚更割りに合わないんだ。ハンターだけの方がまだマシかもね……いや、どっちもどっちで大して変わらないか」

 マリーもまた紙巻を咥えたまま鼻から煙を吹き出している。


 「元はパーティでも組んでたりして回収屋をやってたのか?」

 何の気無しに尋ねる。


 「ああ、そうだね……まだアタシも妙な二つ名が付く前だったがね」

 そこで言葉を切ると、マリーは立ち上がりテラス側にゆっくりと移動する。テラスと部屋を仕切る分厚いガラスドアはヒビはあるものの、まだ全体は残っている。

 
 「なんだ、自分以外全員死んだってところか?」

 錫乃介もまたテラス側に移動しマリーの隣に立つと、外を眺めながら懐から何かを取り出した。
 マリーは錫乃介を横目に見ながら、悲しそうな笑いをフッと浮かべる。


 「ああ、旦那と息子さ。勘のいい嫌な男だね……旦那みたいだ、ねっ!」

 足を振り上げハイキックでドアガラスを蹴り破ると、そのまま外に飛び出し空中にその身を預ける。
 
 錫乃介は取り出した何かを部屋にコロリと転がすと、マリーに追随してテラスからダイブする。と、一拍の間を置いて部屋は爆炎を上げる。キラキラとガラス片や細かい瓦礫が飛び散り、辺りに降り注ぐ。


 ホテルは地上2階地下14階構造であり、その地下11階部分の一部が円形状のテラスの様になっており、そこが迫り出していた。
 地下8階層から地下11階層へのダイブなので10数メートルはあるが、植込みと草花が乱雑に咲き乱れていたため、それに背嚢とワンショルダーバッグをクッションに錫乃介達は着地する。電脳による身体強化ももちろん同時だ。

 無事着地したマリーは上空から降り注ぐガラス片を気にも止めずに立ち上がる。

 
 「勘がいいじゃないか」

 ニヤリと笑うマリーはワンショルダーバッグを背負い、まだ火が付いている紙巻を指で摘んで口から煙を吐く。


 「俺の電脳は無駄に高性能でね。ロボが突入準備してるから、手榴弾転がして外に出ろってよ」

 錫乃介もまた紙巻を咥えたままニヤリと笑う。


 「さて、帰路のプランも無駄になったし、どうやって戻るかね」

 「その前にさ、とりあえず手貸して」

 
 錫乃介は着地に失敗して植込みに突っ込み衣服が絡め取られ動きがとれなくなっていた。


 「締まらない奴だね、息子みたいだ」


 ニヤニヤと、そして懐かしい思い出の残像をその目に写しながら錫乃介には聞こえない様に呟き、マリーは手を差し伸べるのであった。




 “アクション映画みたいなシチュエーションなのにどうして格好良く締められないんですか?”

 う~ん。どうも俺はハリソン・フォードより、ジャッキー・チェン側みたいだ。

 “ジャッキー・チェンを貶めないでください”

 俺だってノンスタントで身体張ってるのになぁ。

 
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

DEADNIGHT

CrazyLight Novels
SF
総合 900 PV 達成!ありがとうございます! Season 2 Ground 執筆中 全章執筆終了次第順次公開予定 1396年、5歳の主人公は村で「自由のために戦う」という言葉を耳にする。当時は意味を理解できなかった、16年後、その言葉の重みを知ることになる。 21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。 そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。 2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。

データワールド(DataWorld)

大斗ダイソン
SF
あらすじ 現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。 その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。 一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。 物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。 仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。 登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。 この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

処理中です...