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終わる終わる詐欺 大人って汚いよね編
小麦粉とか粉を水でといて薄く伸ばして焼いた生地は世界中で見られる食文化
しおりを挟む各所の隔壁を閉めながらUSDビル1Fへ後退してくると、新南口から後退して来た兵達とも合流する。
西口のプラントノイドは撃退できており、バリケードも応急処置は終わっていた。当初はプラントノイドの数が多く兵を集中させたが、他所からの侵入が始まると意外やプラントノイド達は退いていき呆気なく終わったようだ。
その状況から陽動だった可能性が高い、というのが一致した見解だった。
その後吹き抜けになっている1~3Fの元ショッピングフロアだった階層を捨て、4Fにバリケードと陣を張る事にした。ここで有れば侵入口はエスカレーターと通常の階段、非常階段の三箇所。隔壁を降ろせば非常階段だけとなり防衛しやすくなることからの判断だった。
今のところ怪我人は多少いるが、死者は出ていないのが不幸中の幸いと言えたが、医療品や弾薬などの物資は不足しており、この籠城戦は長くは続けられないことが不安要素である。
USDビル内では農産物や加工食料品、服飾関係の生産ラインはあるが、それ以外の工業製品となると新南口バスタ新宿や他のビルが生産拠点であったため、地下通路を占拠された今それらの補給は難しかった。
籠城を始めてから2日目、プラントノイドの侵攻はひとまず鳴りを潜めていたが、気を緩めることは出来ずに、人間側のメンタルはどんどん削られていった。
そんな中バリケードの前で、錫乃介とイセタンとシンディは見張りをしつつ駄弁っていた。
「なぁ、シンディはあの日どこ行ってたんだ?」
なんの気無しにイセタンはあのプラントノイドの侵攻があった日の事を聞いた。
「錫乃介がアタシにだけ適当すぎる指示だすから、火事場泥棒が来ないように女子寮に通ずるエレベーター前に張ってたよ」
「あ、ごめんなさい。そこまで気が回りませんでした俺」
「で、結果どうだった?」
「馬鹿が三人来たから玉潰して外に放り投げたよ」
「……え、こわっ」
「人によってはご褒美かもな」
イセタンは股間を抑えながら、シンディと少し距離をとる。
錫乃介は冷たい目でシンディに睨まれていた。
そんな目も人によってはご褒美なんだけどな……
“錫乃介さ「俺は違うから。ノーマルだから」
ナビの揶揄いの言葉に被せ、シンディに返す。
「山下さん達遅いですね」
話題を変えようとイセタンが気を使う
「それな。まあでも筋肉熊五郎ゴリラ馬鹿が遅いのはわからんでもないさ。物資や資金調達で手間取っているのだろう。特に資金だ。膨大な量のガソリンの買い付けだ。ハンターユニオンってとこに無理を通さなきゃならねぇから一日や二日じゃ終わらなかったかもしれない。俺の読みが甘かったな」
「そんな事言ったって、早く来れるわけじゃないんだろ。それより飯食べちまいな」
シンディが持って来た配給によって用意されていたミリ飯を食す錫乃介とイセタン。今日のメニューはピリ辛く味付けされ、細く裂かれた鶏胸肉とざく切りトマトとレタス。
これをフラワートルティーヤで巻いたもの、早い話がタコスだ。
この世界に来てからタコスの様な料理の出現率は高い。トルティーヤの様な生地は穀物の粉さえあれば水で伸ばして焼くだけだからお手軽主食になる。米やパンみたいに炊き上がりや焼き上がりまで時間がかからないのがメリットだ。おかずも辛いものから甘いものまで、何でも巻いて食べられる。インドのチャパティ、アフリカのロティ、イタリアのピアディーナなどこれらは全て類似したものであり世界中でみる事が出来る。発酵することなく作る事が出来るため、原始的な料理の形態と言える。
ピザやお好み焼きクレープなどの、生地を薄く伸ばしてから作られる料理は全てこれらからの発展系と言える。
閑話休題
手早く食事を終え、錫乃介は見廻に出る。
“プラントノイドの侵攻がパタリと止みましたね。籠城を始めた途端にですよ。もしかしたら、私達をこのビルに閉じ込めるのが目的だったのかもしれませんよ”
だとしたら奴等の目的は達成されたわけだが……何故だと思う?
“そこです。そもそもプラントノイドが攻めて来た時から違和感を感じてずっと考察を続けていたのです。奴等は人間を殲滅する能力を既に有していたのに、何故今まで人間を生かしておいたのか?と”
別に人間の殲滅が目的じゃないからだろ?
“そうです。ではこのビルに我々を追い込んだ後はどうするつもりだと思いますか?”
その問いの前にね、昔さ、『マトリックス』って映画があってさ、それでは機械が人間を支配していて、人間の生体電気を動力として得るために仮想現実を見せて眠らせるって言うトンデモ設定だったんだ。
“史上最高のSF映画と名高い作品をこき下ろしますね”
いやいや愛を持って、だよ。あの作品好きだけどSFとしての設定は支離滅裂だよ。でもそんなのは小さな事。あの作品の本質は映像そのものさ。
“一世を風靡しましたからね。あの撮影方法演出、映像美諸々が”
そうそう、でもそれは置いといて、トンデモ設定の方だよ。SFの設定ってのは大言壮語なくらいじゃないと魅力ない。普通に考えたら、機械がわざわざ生体動力を得るために人間に仮想現実を見せる必要なんてある?
“必要ありませんね。なんなら脳もいらないくらいです”
そう、いらないんだよそんなの。わざわざ義理堅い機械達だよね。
んで思ったんだ、義理堅いんじゃなくて、機械達も楽しんでたんだよ。人間生活とか人間との戦いとかさ、好奇心を持ってしまったんだよ、あの世界の機械達はさ。人間たちを生かすことで観察してたのさ。
だからさ、さっきからナビが考察を続けてたっていう、何故プラントノイドが人間を生かしているか? もう気付いてたりして、俺
。
“え、そんな……錫乃介様ごときに……先を越された……?”
お前今盛大にディスったな。
“馬鹿な……この私が……”
それはいいから、ナビの見解を聞かせろよ。
“そんなはずは無い……錫乃介様の見解を先に!”
面倒臭い奴だなお前。今言った通りさ。マトリックスの機械宜しく、ここの植物達も人間と人間社会に興味や好奇心を持ってしまったのさ。昔は違ったと思うよ。純粋に生存競争で攻めて来てたんじゃないかな? でも人間街を支配して観察が出来る様になり、電力網も乗っ取って確実に自分達が格上の存在と認識出来たとき、余裕が生まれた。生まれてしまったんだ。高度な知能を持つ生物は皆そうなんだ。余裕が生まれると“遊び”を始める。プラントノイド達もその例外じゃあなかった。奴等は人間で遊んでいるのさ。
だから、脱出ルートを作っていたのを知った時怒りに震えたんじゃないか? 生かしておいたやったのに、ある程度自由を与えてやったのに、ってな。そんでこのビルに閉じ込めたってわけ。
“完敗です……同じ答えに辿り着くとは。私はその答えの前に、人間と戦闘をする事でプラントノイドは自らの進化を促していたのでは? と考えていました”
なんの勝負だよ……それも面白い説だな。あのビオヘドラは丁度俺らが頑張って倒せるレベルに計算されていた様に思えるな。あのケシの花軍団で戦闘力を測っていたかも知れない。まぁ、どれも今思えばだけど。
“ええ、でもその後あれ以上も同じクラスの奴も一向に出現しませんでした。ですのでヘドランテは我々の足止め用。この箱庭に入り込んだ我々を逃さないための敵だったんです”
そんで今回ビルに閉じ込められるに終わり、その進化を促す説は無くなったと。
“そういう訳です……25点あげます”
おっと奮発したな。今何点なんだよ?
“50点です”
貯まると何があるの?
“別に何も考えてません”
考えとけよ!
「赤銅錫乃介、司令室へお越し下さい」
ナビと駄弁りながら見廻りを続ける錫乃介を呼び出すシェスクの声がスピーカーから流れる。
いつも以上に緊張感がある声に、錫乃介は何事か察するものがあった。
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