砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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砂漠の旅編

実際のハイエナは夜行性です

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 残金9,500c

 旅に出る前にオウガを倒せてよかった。宿賃はともかく、燃料や飯代が高く付く。山の上で売ってるジュースとかスキー場のカレーが高いのと同じ理論だ。相場の倍ほどする。
 食料を買い込んで、戦車やトラックに寝泊まりするやつも多い。その方が安上がりだからな。
 でも俺は学生時代、貧乏旅行してた時でもそうだったが、飯だけはケチりたくなかった。飯屋が無いのなら仕方がないがな。

 翌朝キャラバン一行は旅立つ。俺はまだ寝てるロビタ叩き起こし、バイクのアクセルを回す。
 ロビタのやつ今度は瓶ビールのラッパを始めた。飲んでのは『タイガービール』か。暑い時は良いよな、あのビール。シンガポールにいた時はアレばっか飲んでたな。
 って、違うだろ。“飲み過ぎちゃいましたからね”とか出発前にほざいてたクセに。
 あぁ、飲み過ぎたからビールなのか。疲れるから止めよう。

 
 黙々とバイクを走らせると、時折クルマ同士でチカチカ信号機のライトが光る。信号で会話している様なのだが、内容が激しくくだらない。
 どこの街の女はしまりが良いとか、あの街の女は全部抱いたとか、あの女は俺が先だ、いや俺が先だとか、どこぞのBARの女はヤリマンだとか、俺は男が良いとか、ほんっとにしょーもない。
 しょーもないけど、重要な情報あるかもしれないので、一応チェックしておく。別に女の情報を仕入れたいわけではない。ホントだぞ。
 ちなみに最後にカミングアウトしたやつからは、微妙に皆んな距離を離している気がする。
 
 数時間走ると太陽が真上に上がる頃合いだ。いよいよ暑さは本格、砂漠は寒暖差が激しい。夜と昼の気温差は平均で30度。時には40度を越す事もしばしばだ。
 そんな中、先導するハローワークより信号が来る。どうやら前方より機獣らしい。と、判断するやいなや、スモークグレネードが数発撃たれ、煙幕が張られる。
 
 “錫乃介様、これはおそらく『ハイエナジーレーザー』が出たんですよ”
 
 名前通りビームとかレーザーが武器なのかな?

 “大きさ的に高出力の物では無いですが、人を焼き殺すレベルのは撃てる様です”

 なるほど、戦車に乗ってれば問題ないが、生身だと被害が出るか。

 “はい、あと燃料タンクが剥き出しになってるトラックとかも撃たれるとまずいです”

 
 編隊が変わっていく。装甲が厚めのテクニカルが前方に出て、軽トラや防弾仕様でない燃料タンクが外にあるトレーラーや、俺たちバイクは下がる。
 一行全体は速度を緩め、ハイエナ共を迎え撃つ。
 前方は煙幕で不可視である為、ハイエナが煙幕に到達した所で、煙幕に映る影を頼り、機関砲で斉射する。
 レーザーが飛んで来てるのか、地ベタに生える植物が時折燃えたり焦げたりする。なんせ弾なんて無いから目視もできないし音もわからない。突然あちこち焼けたりしてるのが、不気味で堪らない。
 
 
 「俺たちすることねーな」
 

 近くに寄って来ていたロボオに話しかける。


 「仕方ありません。私達にとって、ハイエナは天敵もいい所ですから」
 「ロボオ、お前は大丈夫だろ、そのボディなら。20ミリバルカンお見舞いしてこいよ」
 

 少し冗談めかして言ってみた。


 「私は大丈夫ですが、バイクがもちませんね」

 大丈夫なのかよ。

 「こういう時は一杯飲んで待ちましょう」

 と、またタイガービールをガッポガッポと飲んでいる。


 おまーはこういう時もへったくれもないだろ。
 
 その時ナビが反応する。

 “錫乃介様、信号です。2体抜かれたそうです。向かってきます前方2時”

 ブローニングM2032を言われるがままの方向に向け引き金を引くタイミングをみる。その刹那ロボオの右手が伸び、バルタン星人バサミの手の中から、20ミリ砲が火を噴いた。
 ダラララ!とまだ姿を表す前から、射撃を開始し、ハイエナが頭を出した瞬間には撃ち抜いていた。
 

 無駄玉多いなこいつ…でも、今回は仕方ないか。相手はレーザーだもんな。視認された瞬間、撃ち負けるしな。にしても、出番ねーな俺。
 
 「お見事」
 「アレは私が頂きますね。最近懐が寂しくて」

 そりゃ、そんだけ飲んでればな…


 ハイエナ達を殲滅したキャラバン一行は、再び走り始める。

 今度はアルミネートという、例によって集落のような場所が補給ポイントだ。
 ここは小さいがオアシスもあり、前回のエーライトより大き目だ。


 俺は補給を終わらせると、またダイナー『男達の挽歌』でモチローと飯を食っていた。何か銃撃戦が起きそうな店だな、と思いつつ。


 モチローはラーメンが無かったので、分厚い謎肉ステーキを食べている。
 俺も同じ物を食べていた。

 
 「んで、オウガはどうやって倒したんだ?トラップ使ったって言ってたけど」
 「言葉のまんまだけど、アイツとは2戦したんだ」
 「2戦?1戦目もあったのか」
 「あぁ、1戦目は廃墟で野営してたら、野良機獣犬が群れで逃げてきたからこりゃなんかあるってんで、スコープで覗いたら奴がいてさ、慌てて地雷を撒いたんだけど、それを飛び越えてきたから、最後の一つだった地雷をぶつけて、銃で地雷原諸共爆破して、確認もせずにトンズラこいたのさ」

 ステーキを食いながら、身振りを交えて説明すると、モチローは笑いながら唸っていた。うん、この肉もバッファローだな。固いしクセあるな。


 「ガハハハ、おめぇ危なかっしい戦い方するなぁ」
 「だってよ、武器なんてあのブローニングM2032の他だとウージー、M110、拳銃、マチェット、地雷しかないんだぜ。ブローニングがアイツにはゴム鉄砲みたいなもんだから、地雷使うしかねーべ」
 「それなのに、おめぇよく再戦したな」
 「したかったわけじゃねーさ。金がねーから稼がなきゃならねーじゃん。
 次の日雑魚狩りしようとしたら、生息地がその廃墟だってんだ。金ねーから機関砲も買えねーしさ。仕方なく手榴弾買い込んで行ったんだよ」
 「手榴弾は安いからな。そんな装備が貧弱なままだからこそ、奴がまた襲って来たんだな。高火力の機関砲持ってたら、オウガはまず姿を表さないからな」
 「そ。そんでもしまた襲われてもいい様に、見られていてもそれを逆手にとるトラップを廃墟に仕掛けてさ。まんまと、いや運良くだな。ハマってくれた」
 「ガハハ、たいした男だ。ここ数年ハンターユニオンが手をこまねいてた奴を、ポッと出のお前が片付けるとはな。まだハンター歴短いんだろ?」
 「まだなったばかりのピカピカ一年生だよ」
 「こりゃ良いや!ガハハハ!」
 

 大いに受けてくれたようだ。ステーキを食い終えた俺達はそのまま店を出て別れた。

 



 「交代だハローワーク。また錫乃介と会ったぞ」
 「ああ、どうだ奴は?」
 「すげぇなアイツ、オウガの奴を行き当たりバッタリで倒してるよ。しかもハンター歴まだ一年も経ってないってよ。」
 

 と言って、モチローは錫乃介から聞いた話を披露した。


 「一言で言うなら悪運が強い。しかし、それは何より戦場で1番大切な事だ。敵に回せば恐ろしい事この上ないな」
 「ガハハ、お前にしちゃえらい評価高いな」


 ハローワークの推察は当たっている。ヘナチョコながら、武装組織『ラスト・ディヴィジョン』が壊滅する糸口を作ったのは、紛れもなく錫乃介のゲリラ戦だったのだから。



 「錫乃介の旅は何が目的なんだろうな?」
 「ああ、特に無いって言ってたぞ。誘うか?」
 「いや、男の1人旅を邪魔するまい。何か崇高な目的があるのかもしれん」

 「そうかな?」

 
 ハローワークの推察は外れていた。錫乃介はこの旅の目的など、なーーんも考えていなかったのだから。
 
 残金9,250
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