1 / 39
嗚呼、異世界って怖い
しおりを挟む
ギルドからの帰り、家に入る前から生後6カ月の弟のギャン泣きが聞こえていた。
耳強化で遠くからでも聞こえる。
いつもなら、ギャン泣きと共に母の声もあった。
だが、今日は違う。
弟の泣き声しか聞こえない。
とうとう育児放棄して逃亡したか?
走って家に入る私が見たものは……倒れている母だった。
そう、室内で、母親マリーは、息絶えているようだった。
嗚呼、異世界って怖い
そう考えるのに、私の心はいつでも凪。
「怖い」と言っているがそこに感情はなく、前世の記憶から導き出している感情表現なだけ。
私の感情はどこへ行った?
思えば生まれてからずっと心は凪で、怒りも楽しさも幸せも悲しみも何一つ感じてこなかったな。
異世界転生したときに、チート能力をもらうかわりに、感情を差し出したのだろうか。
私は孫の顔を数人見て、旦那をあの世へ見送り、最期は病院で静かにこの世を去り、死んだ、と思ったらおぎゃあと生まれてきたこの世界は、剣と魔法の異世界だった。
私は生まれた瞬間から意識があったので、状況を確認するために情報をかき集めた。
母親が居て、兄が2人、レオとユーリ。父親は居なかった。
母は薄茶の髪で、瞳は赤っぽかった。
兄2人も薄茶の髪で、瞳は長男が緑、二男が赤っぽい。
父母の色をそれぞれ持っている。
父親の瞳は緑なのだろう。
私は父母の色をひとつも持っていなくて、どうやら母にあまり愛されていない。
ぶつぶつ独り言を言っていた。
母方に遠い東の端っこの国出身の人が居たらしく、彼らと同じ黒に近い濃い茶の髪と瞳を持ち、肌は透き通るような白い肌を持って生まれた私は、どうやら隔世遺伝とか、先祖返りとかいうらしい。
兄2人は私を妖精と言って可愛がってくれる。
この辺ではその遠い国の人を、その色合いや小柄で人当たりの良い所が「妖精」のようだと言って、彼らを大切にするんだそうだ。
私は魔法の世界に生まれたことを知って、手探りで多少苦労したけど、体内の魔力を循環させてみたり、放出してみたり、赤ちゃんなんて暇だからずっと訓練していた。
魔法は自由!
魔法は想像力!
そのうち想像した通りのことができるようになってきた。
まずはクリーン。
おしめの汚れも、体の汗や垢も。なんなら部屋の汚れも綺麗にして臭いにおいが無くなった。
狭くて汚くて臭い最悪な環境で、子どもの半数が長く生きられない中、こうした自衛ができて安心して生きている。
とはいえ、クリーンが魔法が使えるようになるまでは何度か死にかけたけどね。
身体強化もできるようになった。
目の強化で、窓の外の空を飛んでいた鳥?と目があったりした。
耳の強化で外の世界の音が全部入ってきたときは、異世界って、なんて怖い世界なんだって思ったよ。
噂話やエッチい音もあれば、暴力的な音も。
どこぞの教会では子どもの祝福。
犯罪を企てる話。
その企みが成功した話。
誰かが死んだ音
悲しんでいる音
何もかも聞こえた。
異世界。
治安が相当悪いようだ。
日本のような平和なところで生まれ育った私は、感情が欠落していても異常だなと思うくらい犯罪が多い。
領主は良い人でよく治めているようだが、隅々まで手が行き届くわけではないようで、毎日のように何かしらの犯罪が起きていた。
もし感情があったら、耳強化なんてすぐに止めていただろう。
怯えて外にも出なかっただろう。
そう思うと、感情の欠落はありがたかった。
だって、情報もお金になるし。
耳強化って結構役に立つんだね。
うまくやればきっと長めに生きられるだろう。
耳強化で遠くからでも聞こえる。
いつもなら、ギャン泣きと共に母の声もあった。
だが、今日は違う。
弟の泣き声しか聞こえない。
とうとう育児放棄して逃亡したか?
走って家に入る私が見たものは……倒れている母だった。
そう、室内で、母親マリーは、息絶えているようだった。
嗚呼、異世界って怖い
そう考えるのに、私の心はいつでも凪。
「怖い」と言っているがそこに感情はなく、前世の記憶から導き出している感情表現なだけ。
私の感情はどこへ行った?
思えば生まれてからずっと心は凪で、怒りも楽しさも幸せも悲しみも何一つ感じてこなかったな。
異世界転生したときに、チート能力をもらうかわりに、感情を差し出したのだろうか。
私は孫の顔を数人見て、旦那をあの世へ見送り、最期は病院で静かにこの世を去り、死んだ、と思ったらおぎゃあと生まれてきたこの世界は、剣と魔法の異世界だった。
私は生まれた瞬間から意識があったので、状況を確認するために情報をかき集めた。
母親が居て、兄が2人、レオとユーリ。父親は居なかった。
母は薄茶の髪で、瞳は赤っぽかった。
兄2人も薄茶の髪で、瞳は長男が緑、二男が赤っぽい。
父母の色をそれぞれ持っている。
父親の瞳は緑なのだろう。
私は父母の色をひとつも持っていなくて、どうやら母にあまり愛されていない。
ぶつぶつ独り言を言っていた。
母方に遠い東の端っこの国出身の人が居たらしく、彼らと同じ黒に近い濃い茶の髪と瞳を持ち、肌は透き通るような白い肌を持って生まれた私は、どうやら隔世遺伝とか、先祖返りとかいうらしい。
兄2人は私を妖精と言って可愛がってくれる。
この辺ではその遠い国の人を、その色合いや小柄で人当たりの良い所が「妖精」のようだと言って、彼らを大切にするんだそうだ。
私は魔法の世界に生まれたことを知って、手探りで多少苦労したけど、体内の魔力を循環させてみたり、放出してみたり、赤ちゃんなんて暇だからずっと訓練していた。
魔法は自由!
魔法は想像力!
そのうち想像した通りのことができるようになってきた。
まずはクリーン。
おしめの汚れも、体の汗や垢も。なんなら部屋の汚れも綺麗にして臭いにおいが無くなった。
狭くて汚くて臭い最悪な環境で、子どもの半数が長く生きられない中、こうした自衛ができて安心して生きている。
とはいえ、クリーンが魔法が使えるようになるまでは何度か死にかけたけどね。
身体強化もできるようになった。
目の強化で、窓の外の空を飛んでいた鳥?と目があったりした。
耳の強化で外の世界の音が全部入ってきたときは、異世界って、なんて怖い世界なんだって思ったよ。
噂話やエッチい音もあれば、暴力的な音も。
どこぞの教会では子どもの祝福。
犯罪を企てる話。
その企みが成功した話。
誰かが死んだ音
悲しんでいる音
何もかも聞こえた。
異世界。
治安が相当悪いようだ。
日本のような平和なところで生まれ育った私は、感情が欠落していても異常だなと思うくらい犯罪が多い。
領主は良い人でよく治めているようだが、隅々まで手が行き届くわけではないようで、毎日のように何かしらの犯罪が起きていた。
もし感情があったら、耳強化なんてすぐに止めていただろう。
怯えて外にも出なかっただろう。
そう思うと、感情の欠落はありがたかった。
だって、情報もお金になるし。
耳強化って結構役に立つんだね。
うまくやればきっと長めに生きられるだろう。
52
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる