7歳の侯爵夫人

凛江

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蜜月、やり直し

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森を抜けると、目の前には大きな湖が広がった。

「うわー、綺麗!
旦那様の目の色みたい!」

馬から下ろしてやると、コンスタンスは靴を脱ぎ捨て、湖へ向かって走った。

躊躇することなく湖に足を踏み入れると、
「冷たい!」
と声を上げる。

膝の上までスカートを持ち上げてはしゃぐ妻の姿に目を細めていると、
「旦那様も早く!」
とこちらに向かって手を振った。

オレリアンもブーツを脱ぎ捨てると、妻の元へ走り寄る。

「気持ちいい!ね、旦那様!」

「ああ!……そらっ!」

オレリアンは妻を軽々と抱き上げると、水の中でくるくると回った。

コンスタンスがキャッキャと声を上げる。

だが、目が回ったのか、藻に足が取られたのか、オレリアンはバランスを崩し、コンスタンスを抱いたまま水の中に尻餅をついた。

「もー!旦那様ってば!
濡れちゃったじゃない!」

「ハハッ!コニーはちょっとだろ?」

たしかに水深が浅いため、抱き上げられていたコンスタンスはそれほど濡れていない。

「でも旦那様が風邪ひいちゃうわ」

日向ひなたに出てれば乾くだろ?」

オレリアンは水に浸ったまま、妻を抱きしめ、微笑んだ。

「…コニー。
私の…、いや、俺のことも、名前で呼んでくれないかな」

夫にそう言われ、コンスタンスは目を輝かせた。

「もちろんよ!…オレリアン…、様?」

「コニーに呼ばれる『旦那様』も『オレリアン』もいいんだけどね…。
俺は実家では、両親や兄から『オレール』と愛称で呼ばれていたんだ」

「オレール!素敵ね!
じゃあ私もオレール様って呼ぶわ!」

「…様は…、いらないな」

「じゃあオレール!オレールね!」

コンスタンスはそう言うと夫の首に抱きついた。

「オレール!」

「うん」

「オレール!大好きよ!
これからもよろしくね!」

「うん、こちらこそよろしく。コニー」




翌日も、またその翌日も、オレリアンはコンスタンスを連れて馬で出かけた。

今日は山へ、今日は草原へ、そして今日は街へ、という具合に。

朝のうちにいわゆるデスクワークは終わらせ、弁当持参で出かけるのだ。

領内の視察も兼ねているから、行く先々で領民に声をかけ、農作物の出来や、仕事の具合、生活の様子などを聞いたりもする。

3ヶ月前までのコンスタンスも領内を廻ってはいたから、多くの領民は侯爵夫人と話したことがある。

だが今回夫と一緒に廻る夫人は以前の彼女と違いすぎて、領民たちは少なからず戸惑った。

今回の夫人は挨拶のみで会話に入ってくることは無いが、とにかくいつも夫の隣でニコニコしている。

以前の彼女はいかにも貴婦人然としていたが、今の彼女は見るもの聞くもの何にでも興味を示し、キョロキョロしたり触ってみたり食べてみたり…、なんというか、子供の様だ。

だがヒース侯爵はそんな妻をさも愛おしそうに見つめ、その睦まじい夫婦の姿は、やがて領内の名物にまでなった。


オレリアンは馬で出かけない日も、仕事が終われば妻を誘って庭で遊んだりカードゲームをして遊んだ。

使用人たちは皆そんな2人をあたたかく見守り、毎日、ヒース侯爵邸に笑いが絶える日はなかった。



こうしてオレリアンは毎日飽きることなく、幼妻(中身)の相手をして過ごした。

コンスタンスはよく食べ、よく学び、よく遊んで、楽しい毎日を送っている。


そして夜も。

コンスタンスは夫の腕枕で、毎晩健やかに眠っている。

一度別々の部屋でやすもうとしたら泣かれたため、オレリアンは諦めた。


オレリアンの寝不足の日々は続く。
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