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第七章 セドリック その四
(その頃の領都)②
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「義姉上が私と交換に⁈…なんてことを!」
アメリア拉致の件を聞かされたマイロは、驚いて声を上げた。
路上に放置されているところを保護されたマイロは、窶れ憔悴しきってはいたが、それでも義姉のことを聞くと飛び跳ねんばかりに立ち上がったのだ。
しかも、それを招いたのは自分の実母だというではないか。
「母上、なんと愚かな…」
今や、一刻も早く元気な顔を見せてやろうという気も起こらない。
その母は、未だマイロ保護の一報も知らされず部屋に軟禁されたままだ。
「僕が、油断さえしなければ…」
兄に認められたいとの一心で功を焦った自覚はある。
早く、一人前のサラトガ家の男として認められたかったのだ。
その後、マイロは母に会わないまま、アメリア捜索の協力をした。
目隠しをされてはいたが、思い出せる限り状況や犯人の特徴を伝えたのだ。
マイロの拉致現場から逃走した馬車は、港の外れで乗り捨てられていた。
盗難車だったため、当然そこから足はつかない。
両手足を縛られ目隠し猿轡をされたマイロは、その後袋に押し込められて荷車のようなものに乗せられたという。
「多分、山道を登り、山小屋のような場所に連れて行かれたんだと思う」
粗末な食事を与えられ、その時だけは猿轡を外されたらしい。
口を自由にさせられたということは、叫んでも周囲に聞こえないくらい山奥だったということだろう。
「僕は…、義姉上のことは全く知らなかった。目的とか、何を聞いても奴らは何も答えなかったんだ」
目隠しをされたままだったので、犯人グループの容貌は全くわからない。
声も発さないため正確な人数もわからないが、足音などから、少なくとも7~8人はいただろう。
アメリアが拉致されてからマイロが解放されるまで2日あったことから、てっきり一緒に拘束されているとばかりカリナたちは考えていたが、マイロはアメリアのことは知らなかったと言う。
つまり、また全く違う場所に、アメリアは拘束されているということだ。
「何故…、僕と義姉上を交換する必要があったんだろう」
首を傾げるマイロに、カリナは冷ややかに答えた。
「おそらく、狙いは最初から奥様だったのでしょう。しかし表向き奥様は邸に閉じこもったままですから」
開戦前の、サラトガ騎士団が守る邸に忍び込むのは不可能だし、万が一アメリアが夜間学校の教師をしたり周囲を散策しているのを調べられていたとしても、常に護衛がついていてセドリック自身が送迎をしていた時は無理だった。
しかし騎士団の半数以上が国境へ赴き、何よりセドリックが領都を離れた今が、拉致犯にとってチャンスだったのだろう。
「閣下が遠征に行った後は、奥様は閣下の言いつけを守って邸に籠っていらっしゃいました。だから、賊は邸に踏み入る計画を立てた。そして、大奥様に目を付け、マイロ坊ちゃまを拉致した…」
そう言葉を継いだのはトマスだ。
「じゃあ僕を拉致したのは、最初から義姉上と交換するため?母上なら絶対応じると見越して…」
「…おそらく」
「…どっちにしろ、港で拐かされた僕の失態だ…。でも、何故義姉上の拉致なんだろう。たしかに妻を人質に取られたら少しは動揺するだろうが、冷たいようだけど…、『王国の盾』と呼ばれる兄上が、妻1人の命と国や民を引き換えにするなんて考えられない。敵も、そんなことがうまくいくと考えるだろうか」
「そうですね。ただ…、奥様はサラトガ公爵夫人であると同時に、ランドル王国の王女でいらっしゃいますから」
「それこそ…、ソルベンティアにだって、義姉上の噂は届いているだろうに…」
マイロの言葉に、カリナは唇を噛んだ。
ランドル国王が年若い愛人を養女として手元に置き、飽きたらサラトガ公爵に下げ渡したという噂は隣国にまで届いていると思われる。
それこそ、人質の価値など無いと思われるほどに。
「でも、敵は邸にまで入り込んでくるような連中です。奥様のことも調べ上げていたのかもしれません。本当は噂は噂に過ぎず、サラトガ公爵にも妻として大事にされているということを」
「…そうか…。たしかに最近の兄上の義姉上を見る目は、優しかったな…」
そうぽつりと呟くと、マイロはキリッと顔を上げた。
「よし。僕もこうしてはいられない。義姉上捜索に加わろう」
「しかし、まだお体が…」
「大丈夫だよ。母の暴挙は僕にも責任がある。義母のしたことをなかったことには出来ないが、せめて息子として償わせてくれ」
小さく笑って動き出そうとするマイロに、カリナも苦笑して頷いた。
子は親を選べない。
義母を放置する兄にかわって、これまでマイロは母を何度も諌めてきた。
だから、あの元公爵夫人の子ながら至極常識的なマイロに、同情的な者は多い。
セドリックだって、マイロのことは可愛がり、目をかけている。
一通りマイロの供述を聞いた警備隊長たちは再びアメリア捜索のために邸を飛び出して行った。
カリナもマイロと連れ立って邸を出ようとしたのだが、そこに、王都からの遣いだという騎士が飛び込んできた。
それは、ひどくサラトガ公爵邸の者たちを驚かせた。
自らの親衛隊を率いた国王が間もなくこちらに到着するという先触れだったのだから。
アメリア拉致の件を聞かされたマイロは、驚いて声を上げた。
路上に放置されているところを保護されたマイロは、窶れ憔悴しきってはいたが、それでも義姉のことを聞くと飛び跳ねんばかりに立ち上がったのだ。
しかも、それを招いたのは自分の実母だというではないか。
「母上、なんと愚かな…」
今や、一刻も早く元気な顔を見せてやろうという気も起こらない。
その母は、未だマイロ保護の一報も知らされず部屋に軟禁されたままだ。
「僕が、油断さえしなければ…」
兄に認められたいとの一心で功を焦った自覚はある。
早く、一人前のサラトガ家の男として認められたかったのだ。
その後、マイロは母に会わないまま、アメリア捜索の協力をした。
目隠しをされてはいたが、思い出せる限り状況や犯人の特徴を伝えたのだ。
マイロの拉致現場から逃走した馬車は、港の外れで乗り捨てられていた。
盗難車だったため、当然そこから足はつかない。
両手足を縛られ目隠し猿轡をされたマイロは、その後袋に押し込められて荷車のようなものに乗せられたという。
「多分、山道を登り、山小屋のような場所に連れて行かれたんだと思う」
粗末な食事を与えられ、その時だけは猿轡を外されたらしい。
口を自由にさせられたということは、叫んでも周囲に聞こえないくらい山奥だったということだろう。
「僕は…、義姉上のことは全く知らなかった。目的とか、何を聞いても奴らは何も答えなかったんだ」
目隠しをされたままだったので、犯人グループの容貌は全くわからない。
声も発さないため正確な人数もわからないが、足音などから、少なくとも7~8人はいただろう。
アメリアが拉致されてからマイロが解放されるまで2日あったことから、てっきり一緒に拘束されているとばかりカリナたちは考えていたが、マイロはアメリアのことは知らなかったと言う。
つまり、また全く違う場所に、アメリアは拘束されているということだ。
「何故…、僕と義姉上を交換する必要があったんだろう」
首を傾げるマイロに、カリナは冷ややかに答えた。
「おそらく、狙いは最初から奥様だったのでしょう。しかし表向き奥様は邸に閉じこもったままですから」
開戦前の、サラトガ騎士団が守る邸に忍び込むのは不可能だし、万が一アメリアが夜間学校の教師をしたり周囲を散策しているのを調べられていたとしても、常に護衛がついていてセドリック自身が送迎をしていた時は無理だった。
しかし騎士団の半数以上が国境へ赴き、何よりセドリックが領都を離れた今が、拉致犯にとってチャンスだったのだろう。
「閣下が遠征に行った後は、奥様は閣下の言いつけを守って邸に籠っていらっしゃいました。だから、賊は邸に踏み入る計画を立てた。そして、大奥様に目を付け、マイロ坊ちゃまを拉致した…」
そう言葉を継いだのはトマスだ。
「じゃあ僕を拉致したのは、最初から義姉上と交換するため?母上なら絶対応じると見越して…」
「…おそらく」
「…どっちにしろ、港で拐かされた僕の失態だ…。でも、何故義姉上の拉致なんだろう。たしかに妻を人質に取られたら少しは動揺するだろうが、冷たいようだけど…、『王国の盾』と呼ばれる兄上が、妻1人の命と国や民を引き換えにするなんて考えられない。敵も、そんなことがうまくいくと考えるだろうか」
「そうですね。ただ…、奥様はサラトガ公爵夫人であると同時に、ランドル王国の王女でいらっしゃいますから」
「それこそ…、ソルベンティアにだって、義姉上の噂は届いているだろうに…」
マイロの言葉に、カリナは唇を噛んだ。
ランドル国王が年若い愛人を養女として手元に置き、飽きたらサラトガ公爵に下げ渡したという噂は隣国にまで届いていると思われる。
それこそ、人質の価値など無いと思われるほどに。
「でも、敵は邸にまで入り込んでくるような連中です。奥様のことも調べ上げていたのかもしれません。本当は噂は噂に過ぎず、サラトガ公爵にも妻として大事にされているということを」
「…そうか…。たしかに最近の兄上の義姉上を見る目は、優しかったな…」
そうぽつりと呟くと、マイロはキリッと顔を上げた。
「よし。僕もこうしてはいられない。義姉上捜索に加わろう」
「しかし、まだお体が…」
「大丈夫だよ。母の暴挙は僕にも責任がある。義母のしたことをなかったことには出来ないが、せめて息子として償わせてくれ」
小さく笑って動き出そうとするマイロに、カリナも苦笑して頷いた。
子は親を選べない。
義母を放置する兄にかわって、これまでマイロは母を何度も諌めてきた。
だから、あの元公爵夫人の子ながら至極常識的なマイロに、同情的な者は多い。
セドリックだって、マイロのことは可愛がり、目をかけている。
一通りマイロの供述を聞いた警備隊長たちは再びアメリア捜索のために邸を飛び出して行った。
カリナもマイロと連れ立って邸を出ようとしたのだが、そこに、王都からの遣いだという騎士が飛び込んできた。
それは、ひどくサラトガ公爵邸の者たちを驚かせた。
自らの親衛隊を率いた国王が間もなくこちらに到着するという先触れだったのだから。
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