77 / 101
第七章 セドリック その四
(その頃の領都)①
しおりを挟む
セドリック率いるサラトガ騎士団が全軍でノートン軍の本陣を攻め始めた頃ー。
マイロが拉致され、翌日にはアメリアまで拉致され、領都のサラトガ公爵邸に残った者たちは途方にくれていた。
もちろん方々手を尽くして探してはいるが、まるで足取りが掴めないのだ。
アメリアの侍女ハンナは泣き腫らした目のまま周囲を探し回り、侍女長のソニアが危ないからと止めてもやめようとしない。
目の前でアメリアを拐われた護衛騎士のバート、エイベル、そしてカリナは、夜も寝ていないのではと思われるほど領都内を駆けずり回っている。
先代公爵夫人の指示とはいえ邸の警護が手薄だったことを悔いている警備隊長も、夫人の侍女が入れ替わっていることに気づかなかったトマスとソニアも、皆、それぞれに後悔した。
先代公爵夫人を、ここまでのさばらせてはいけなかったのだ。
そんな中、軟禁されている先代公爵夫人だけは元気で、部屋から出られないというだけのいつもの暮らしを続けている。
時々「部屋から出せ」「宝飾品や服装品の商人を呼べ」「贔屓の吟遊詩人を呼べ」などと癇癪をおこしはするが、出される食事は平らげ、相変わらず着飾っている。
愛息子マイロが帰って来ると信じ、彼さえ帰ってくればまた元通りの生活に戻れると確信しているのだろう。
その先代公爵夫人は、アメリア拉致犯については、知らないの一点張りだった。
マイロが拉致されて泣き喚いていたところへ、侍女を通じて、犯人の方から接触してきたというのだ。
アメリア拉致に手を貸せば、かわりにマイロを返してやると。
そして、双方のパイプ役になっていたはずの侍女は、事件の直前に姿を消していた。
拉致犯に手を貸した先代公爵夫人を詰る皆を前に、彼女は冷たくこう言い放った。
「あんな女がいなくなったからって、何が問題なの?国王の手垢がついた女を下げ渡され、セドリックだって嫌がっていたじゃないの。それより、サラトガ公爵の高貴な血を引くマイロの方がよっぽど大事だわ」
しかし、アメリア拉致から丸一日過ぎても、マイロは帰って来なかった。
愚かな先代公爵夫人は漸く自分がただ騙されて利用されたと思い始めたのか、今度は部屋から出せと奇声を発し始めた。
愛息子の名を叫び、泣き声が邸に響き渡る。
一方娘のイブリンは、大人しく部屋に閉じこもっていた。
やっと、母の仕出かした事の重大さを理解したのだろう。
そうしている間に、サラトガ騎士団が全軍でノートン軍の本陣を攻め始めたとの一報があった。
領都と国境では早馬を飛ばしても丸一日ほどかかるためタイムロスがある。
だから今頃は勝っていることだろうと、サラトガ邸ではセドリックの勝ちを確信していた。
半日後には、きっと戦勝の報せが届くことだろう。
しかし、アメリアとマイロの拉致犯からは未だ接触がない。
サラトガ軍の戦勝がアメリアたちの身にどう影響するのか…カリナたちはさらに身を粉にして、2人の捜索を続けた。
そしてその数刻後、事態が動いた。
領都の外れで、マイロが保護されたのだ。
両手を縛られ、目隠しをされたままで。
マイロが拉致され、翌日にはアメリアまで拉致され、領都のサラトガ公爵邸に残った者たちは途方にくれていた。
もちろん方々手を尽くして探してはいるが、まるで足取りが掴めないのだ。
アメリアの侍女ハンナは泣き腫らした目のまま周囲を探し回り、侍女長のソニアが危ないからと止めてもやめようとしない。
目の前でアメリアを拐われた護衛騎士のバート、エイベル、そしてカリナは、夜も寝ていないのではと思われるほど領都内を駆けずり回っている。
先代公爵夫人の指示とはいえ邸の警護が手薄だったことを悔いている警備隊長も、夫人の侍女が入れ替わっていることに気づかなかったトマスとソニアも、皆、それぞれに後悔した。
先代公爵夫人を、ここまでのさばらせてはいけなかったのだ。
そんな中、軟禁されている先代公爵夫人だけは元気で、部屋から出られないというだけのいつもの暮らしを続けている。
時々「部屋から出せ」「宝飾品や服装品の商人を呼べ」「贔屓の吟遊詩人を呼べ」などと癇癪をおこしはするが、出される食事は平らげ、相変わらず着飾っている。
愛息子マイロが帰って来ると信じ、彼さえ帰ってくればまた元通りの生活に戻れると確信しているのだろう。
その先代公爵夫人は、アメリア拉致犯については、知らないの一点張りだった。
マイロが拉致されて泣き喚いていたところへ、侍女を通じて、犯人の方から接触してきたというのだ。
アメリア拉致に手を貸せば、かわりにマイロを返してやると。
そして、双方のパイプ役になっていたはずの侍女は、事件の直前に姿を消していた。
拉致犯に手を貸した先代公爵夫人を詰る皆を前に、彼女は冷たくこう言い放った。
「あんな女がいなくなったからって、何が問題なの?国王の手垢がついた女を下げ渡され、セドリックだって嫌がっていたじゃないの。それより、サラトガ公爵の高貴な血を引くマイロの方がよっぽど大事だわ」
しかし、アメリア拉致から丸一日過ぎても、マイロは帰って来なかった。
愚かな先代公爵夫人は漸く自分がただ騙されて利用されたと思い始めたのか、今度は部屋から出せと奇声を発し始めた。
愛息子の名を叫び、泣き声が邸に響き渡る。
一方娘のイブリンは、大人しく部屋に閉じこもっていた。
やっと、母の仕出かした事の重大さを理解したのだろう。
そうしている間に、サラトガ騎士団が全軍でノートン軍の本陣を攻め始めたとの一報があった。
領都と国境では早馬を飛ばしても丸一日ほどかかるためタイムロスがある。
だから今頃は勝っていることだろうと、サラトガ邸ではセドリックの勝ちを確信していた。
半日後には、きっと戦勝の報せが届くことだろう。
しかし、アメリアとマイロの拉致犯からは未だ接触がない。
サラトガ軍の戦勝がアメリアたちの身にどう影響するのか…カリナたちはさらに身を粉にして、2人の捜索を続けた。
そしてその数刻後、事態が動いた。
領都の外れで、マイロが保護されたのだ。
両手を縛られ、目隠しをされたままで。
10
お気に入りに追加
1,228
あなたにおすすめの小説
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
貴公子アドニスの結婚
凛江
恋愛
公爵家の令息アドニスは、二度の婚約解消を経て三度目の婚約を目指している。
三つの条件を満たしさえすれば多くは望まないのだが…。
※あまり内容もなく趣味で好き放題書いた話です。
昨年一度非公開にしましたが、再度公開します!
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる