さげわたし

凛江

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第四章 アメリア その二

義母との茶会①

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「本当に、よくよくお気をつけくださいませね」
今から本邸に向かうアメリアに、ソニアが何度も念を押すように訴える。
ずっと無関心を貫いていた義母が突然お茶に誘ってきたのには、何か思惑があるだろうとソニアは言うのだ。
しかし今までほとんど義母と関わらずに暮らして来たアメリアにとっては、彼女の何にそれほど警戒する要素があるのかわからない。

「まさか、あの方が私に危害を加えるとは思えないのだけれど」
だって義母に誘われた茶会の席でアメリアに何かあれば、一番先に疑われるのは義母ではないか。
だいたい、王室から降嫁してきた形のアメリアに、危害を加える理由も見当たらない。

「注意するに越したことはないという話ですよ。いくら先代夫人が愚かでも毒を盛ったりはしないでしょうが、妊娠しにくくさせるお茶を飲ませるくらいの嫌がらせはするでしょう。いいですか奥様。出されたものを飲み切ったりしてはいけませんよ」

ソニアの言葉に、アメリアは思わず苦笑する。
以前から感じてはいたことだが、侍女長ソニアと先代夫人の仲は、かなり険悪らしい。

嫁入り当初セドリックから後継を生むこと以外の仕事はないと言い放たれていたアメリアは、必要以上にサラトガ公爵家の人間関係に関心を持つのを避けてきた。
たまたま義弟マイロとは親しく話すようになっていたが、セドリックにも言われていた通り、義母や義妹に接することなく過ごしてきたのだ。

だがアメリアが望まなくとも、ハンナやカリナ、その他の使用人からこの家の事情は聞こえてくる。
だからわざわざ聞き耳を立てなくとも、セドリックと義母の関係、そして使用人たちとの関係は否応なくアメリアの耳に入ってきていたのだ。

元々貴族の娘だった義母は、実家が没落し、援助を求めてサラトガ公爵の後妻におさまったらしい。
そんな経緯を気の毒に思ったのか、また若い後妻の色香に惹かれたのか、義父はたいそう義母を可愛いがり、好き放題させていたという。
二人の間にはマイロとイブリンという子どもたちも生まれ、先妻の子であるセドリックは一人、疎外感を感じていただろう。

義母はサラトガ公爵家の後継に自分の生んだ愛息子マイロを望み義父に働きかけてもいたらしいが、セドリックの器量を認めていた義父はそれだけは譲らなかった。
そのため義母が連れてきた侍女たちと元々いたソニアたちとの間に軋轢が生まれたのも仕方のないことだろう。
セドリックを守ってきたソニアたちにとって、彼を廃嫡するなど到底許せないことであるから。

義母は贅沢三昧で優雅に暮らしていたが、だが、二年前に義父が亡くなってセドリックが当主になってからは予算を削られてしまった。
元々贅沢三昧だったものをそれ相応のレベルにしただけのことらしいが、当然義母が不満を抱いているというのは、ソニアの話だ。

(家族愛が薄いという境遇だけは私と似ているのね)
セドリックの境遇を聞いた時、アメリアはそう思った。
義母や弟妹たちに父の愛情を奪われ孤立していたセドリックと、義理の家族とは知らずにずっと疎外感を持ちながら育ってきたアメリア。

それでも、彼とはやはり違うとも思う。
セドリックには、トマスやソニア、そして彼を慕う部下や領民たちがいる。
どこに行っても厄介者で嫌われ者の自分とは、決定的に違うのだ。
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