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第二章 アメリア
新しい生活
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アメリアは夫であるセドリックから、後継を生むという責務以外自由に過ごしていいと言われていた。
だったら自由にさせてもらおう。
そう割り切った時、アメリアの中の何かが吹っ切れた。
面倒な公務も社交もなく、セドリックの邪魔にならないようにひっそりと暮らす。
なんて良いご身分なのだろうか。
まずアメリアは、公爵家で用意してくれた侍女を全て本邸に返して欲しいと侍女長のソニアに告げた。
ソニアは怪訝な顔をしていたが、嫌々世話をされても嬉しくないし、何より、誰にも構われないで育った子爵家の末娘だったアメリアは、自分のことは大抵自分で出来る。
離れに残った使用人はほんの少しの料理人と掃除婦だけ。
そうして気心知れたハンナと二人で暮らし始めたアメリアは、畑を耕して野菜の種を蒔いたり、草原にハイキングに行ったり、川に魚を釣りに行ったりと自由に過ごし始めた。
そう、何ごとも切り替えが大事。
アメリアは元々前向きな性格なのだから。
そうして好きなことを始めたアメリアに、何故か公爵家の人間の方が寄ってくるようになった。
アメリアの育てる野菜が気になったらしいソニアやカリナが農作業を手伝ってくれるようになり、最近では厨房に入って料理長と一緒に料理もするようになった。
公爵が付けてくれた護衛騎士たちは一緒にハイキングを楽しんでくれる。
そうしてちょくちょく外に出ていれば、自然と領民たちとも触れ合うようになる。
アメリアは外では、サラトガ公爵家の親戚と名乗っていた。
気品があって令嬢っぽいのにどこか純朴なアメリアを、領民たちは公爵家に行儀見習いにきた遠縁の娘だとでも思ったのだろう。
アメリアを見かければ領民たちは気さくに声をかけてくれた。
今やアメリアの周りにはいつも誰かがいて、話しかけ、笑いかけてくれるようになったのだ。
皆の目を見れば、アメリアを偏見の目で見ていないのは明らかだ。
言い訳もせず、未だ潔白を証明しようともしないアメリアをこうして受け入れてくれる皆の気持ちを、アメリアは嬉しく思った。
そして昨夜ー。
とうとうアメリアはセドリックに、『公爵夫人としての唯一の仕事』をさせてもらえた。
二ヶ月間ずっと姿を見せなかったセドリックがアメリアと晩餐を共にし、寝室をたずねてくれたのだ。
書物からの知識はあったものの、やはり昨夜は初めてのことで、思わず身を引き裂かれるような痛みと恐怖に泣いてしまった。
せっかく来てくれたセドリックにも悪いことをしてしまったと思う。
だが、多分回数を重ねるうちに慣れてくるものなのだろう。
翌朝、アメリアは普通に畑に出て農作業をしていた。
黙々と雑草を引いていると、無心になれるのだ。
グレイ子爵家にいる時も、何も考えたくない時や家族と会いたくない時はこうして畑に出たり部屋の掃除をしていた。
今アメリアの周りにはハンナをはじめ、ソニアや料理人たち、カリナや護衛騎士たちがいる。
皆何か察しているのか、アメリアを気遣わしそうに見てはいるのだが、話しかけてはこない。
そっと見守ってくれている皆の気持ちに、アメリアは胸があたたかくなった。
サラトガ公爵領に来て二ヶ月。
皆、初めて会った時とは比べようがないくらい優しくしてくれている。
優しい人たちに囲まれ、好きなように行動でき、ここでの生活は本当に幸せだと思う。
あんな夜を何度か我慢すれば、そのうち赤ちゃんだって授かることだろう。
このまま穏やかに時が過ぎればいい、そして公爵夫人としての義務が果たせればいい。
アメリアはそう思っていた。
だったら自由にさせてもらおう。
そう割り切った時、アメリアの中の何かが吹っ切れた。
面倒な公務も社交もなく、セドリックの邪魔にならないようにひっそりと暮らす。
なんて良いご身分なのだろうか。
まずアメリアは、公爵家で用意してくれた侍女を全て本邸に返して欲しいと侍女長のソニアに告げた。
ソニアは怪訝な顔をしていたが、嫌々世話をされても嬉しくないし、何より、誰にも構われないで育った子爵家の末娘だったアメリアは、自分のことは大抵自分で出来る。
離れに残った使用人はほんの少しの料理人と掃除婦だけ。
そうして気心知れたハンナと二人で暮らし始めたアメリアは、畑を耕して野菜の種を蒔いたり、草原にハイキングに行ったり、川に魚を釣りに行ったりと自由に過ごし始めた。
そう、何ごとも切り替えが大事。
アメリアは元々前向きな性格なのだから。
そうして好きなことを始めたアメリアに、何故か公爵家の人間の方が寄ってくるようになった。
アメリアの育てる野菜が気になったらしいソニアやカリナが農作業を手伝ってくれるようになり、最近では厨房に入って料理長と一緒に料理もするようになった。
公爵が付けてくれた護衛騎士たちは一緒にハイキングを楽しんでくれる。
そうしてちょくちょく外に出ていれば、自然と領民たちとも触れ合うようになる。
アメリアは外では、サラトガ公爵家の親戚と名乗っていた。
気品があって令嬢っぽいのにどこか純朴なアメリアを、領民たちは公爵家に行儀見習いにきた遠縁の娘だとでも思ったのだろう。
アメリアを見かければ領民たちは気さくに声をかけてくれた。
今やアメリアの周りにはいつも誰かがいて、話しかけ、笑いかけてくれるようになったのだ。
皆の目を見れば、アメリアを偏見の目で見ていないのは明らかだ。
言い訳もせず、未だ潔白を証明しようともしないアメリアをこうして受け入れてくれる皆の気持ちを、アメリアは嬉しく思った。
そして昨夜ー。
とうとうアメリアはセドリックに、『公爵夫人としての唯一の仕事』をさせてもらえた。
二ヶ月間ずっと姿を見せなかったセドリックがアメリアと晩餐を共にし、寝室をたずねてくれたのだ。
書物からの知識はあったものの、やはり昨夜は初めてのことで、思わず身を引き裂かれるような痛みと恐怖に泣いてしまった。
せっかく来てくれたセドリックにも悪いことをしてしまったと思う。
だが、多分回数を重ねるうちに慣れてくるものなのだろう。
翌朝、アメリアは普通に畑に出て農作業をしていた。
黙々と雑草を引いていると、無心になれるのだ。
グレイ子爵家にいる時も、何も考えたくない時や家族と会いたくない時はこうして畑に出たり部屋の掃除をしていた。
今アメリアの周りにはハンナをはじめ、ソニアや料理人たち、カリナや護衛騎士たちがいる。
皆何か察しているのか、アメリアを気遣わしそうに見てはいるのだが、話しかけてはこない。
そっと見守ってくれている皆の気持ちに、アメリアは胸があたたかくなった。
サラトガ公爵領に来て二ヶ月。
皆、初めて会った時とは比べようがないくらい優しくしてくれている。
優しい人たちに囲まれ、好きなように行動でき、ここでの生活は本当に幸せだと思う。
あんな夜を何度か我慢すれば、そのうち赤ちゃんだって授かることだろう。
このまま穏やかに時が過ぎればいい、そして公爵夫人としての義務が果たせればいい。
アメリアはそう思っていた。
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