さげわたし

凛江

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王女アメリアの降嫁

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アメリア王女はランドル国王クラークの遠縁にあたるグレイ子爵の末娘で、三年前に国王が養女に迎え入れていた少女である。
当時アメリアは十四歳。
まだ社交界にデビューはしておらず、しかも深窓の令嬢として邸内に大事に囲われていたのか、彼女の存在を知る者はほとんどいなかった。

三年前アメリアが国王の養女に迎えられた時はあまりにも唐突で、しかも経緯いきさつも有耶無耶だったため、貴族の間でかなりざわついたものである。
すでに妃との間に王子と王女一人ずつをもうけている国王が何故今養女を迎えるのかと。
しかも若き国王とアメリアは十三歳しか年齢が離れておらず、養女にすること自体不自然ではないかと。

だから、口さがない人たちは噂した。
実はアメリア王女は、国王の秘密の恋人なのではないかと。

ランドル王国は一夫一婦制で、それは国王にも当てはまる。
表立って側室や愛妾を持てない国王が、養女という形で恋人を王宮に入れたのではないかというのである。

もしかしたらアメリアはランドル王の隠し子ではないかという噂も立ったが、それにしても王と彼女は十三歳しか離れていないのだから、さすがにそれは無いだろうと思われた。
クラーク王は先王の急な早逝で十二歳で即位し、十三歳当時といえば引き継ぎで大変な時期だった。
たしかにそんな少年王を支える恋人がいても良さそうなものではあるが、それは当時の婚約者である現王妃がその役割を果たしていたらしい。

隠し子説が立った時、現王妃の侍女たちが泣いて否定したものだ。
王と王妃は婚約時代からとても仲睦まじく、王に王妃以外の恋人などいなかったと。
実際、クラーク王は即位当時年相応の幼さを残し、早熟な少年ではなかったともいう。
政略結婚ではあるが有力な公爵家の令嬢である婚約者を大事にしていて、婚姻後もそれは変わっていない。
一夫一婦制とは言え陰で愛妾を持つ貴族も多い中、王に浮いた話は何年もの間全く無いのだ。
国王は、国民の規範になるべく愛情溢れる家庭を築いていたのである。

ところが三年前、その清廉潔白な国王にとうとうケチがついた。
突然、たいして血が近くもない遠縁の娘である子爵令嬢を養女に迎え、王女と呼ばせ始めたのだ。
アメリア王女を王宮に迎え入れてからのクラーク王と彼女の様子はそこここで見られている。
王はアメリアをとても可愛がり、彼女といる時はいつも笑顔であると。
その顔はともすれば、王妃や子供たちといる時よりもずっと幸せそうであると。

その噂は当然国民にも流れていく。
これはとうとう国王も愛妾ができたのか、王もやはり普通の男だったのかと。
そしてそんな二人に嫉妬する様子も見せずアメリア王女を義娘として丁重に扱う王妃に、皆同情した。

そして今回。
ランドル国王クラークはアメリア王女を英雄セドリックに降嫁させると告げた。
もし養女を迎えたことが、こうして戦功を挙げた部下に褒賞として贈る娘が必要だと見越してのことだったとしても、アメリアよりもっと王家と血が近い貴族令嬢はたくさんいる。
だからまた、国民は好き好きに噂する。
アメリア王女はやはり国王の秘密の恋人だったのだ。
そして国王はアメリアに飽き、セドリックに下げ渡したのだろうと。
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