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【番外編】もう一度
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テルル国王セレンは困り果てていた。
最近周囲から『結婚』への圧が強いのだ。
二年前、セレンは最初の妻フレイアと離婚していた。
結婚当時王太子だったセレンの妻として、フレイアは素晴らしい王太子妃であった。
未来の王妃としても一人の女性としても、彼女は本当に得難い妻であったと思う。
自分がもっと正しい目で物事を見ていたら…と、今も当時を思い出すと胸が痛む。
自分の気持ちに気づいた時は、もう取り返しがつかない状態になっていた。
全て、傲慢で、濁った目で他人を見下していた自分のせいである。
だが、あの離婚を教訓に、驕らず、人の話をよく聞き、正しく判断することを、セレンは自らに課している。
とても切ない思い出ではあるが、自分の成長のため、そして彼女の幸せのためには必要な別れであったのだと、今ではそう理解している。
離婚発表直後、セレンは国王に即位した。
隣に王妃の姿はなく、一人での戴冠である。
そのような仕儀になったのも自分の不徳の致すところであり、また、しばらく妻帯する気もなかった。
そのくらいフレイアとの思い出は鮮烈であったし、妻となってくれた女性を幸せにしてやれなかった自分を不甲斐なく思っていたからである。
それに、そんな自分がまた誰かと寄り添っていく未来を容易に描けなかったこともある。
だがー。
即位して二年。
『正妃を』『世継ぎを』と望む民衆の声は日に日に大きくなっている。
クーデターの煽りでしばらくは大人しくしていた高位貴族たちも、近頃では年頃の娘がいれば妃に差し出そうと躍起になっていた。
宰相をはじめセレンの側近たちも挙って『そろそろ正妃様を』と望み、中には、離婚したフレイアと復縁してはと言い出す者まで現れた。
フレイアもまた、アルゴンに戻った後独身を貫いていたからだ。
このままではまたフレイアに迷惑がかかるし、何より国王である自分がいつまでも独り身でいるわけにもいかない。
それに、側近のノエルなどは『陛下が結婚しないとフレイア様も結婚しづらいのでしょう』などと言う。
また、セレンに世継ぎが生まれない限り、また異父弟たちを担ぎ上げようとする輩が出てくるかもしれない。
国王の結婚、そして世継ぎの誕生は最早義務であり、彼の想いとは全く別にある。
そんなことも、一度目の結婚の時の傲慢な自分は思い及ばなかったのだ。
小国アルゴンから嫁いできた王女を馬鹿にして、妾腹の娘だと蔑んだ。
あの当時は、大国の王太子である自分がそんな女と娶せられたことに腹を立てていた。
先代国王が決めたことを婚姻前に覆すことは出来なかったが、自分が即位さえすればどうとでもなると思っていたのだ。
(本当に、傲慢でどうしようもない男だった…)
物思いに耽りながら回廊を歩いていると、向こうから侍女が大きな花瓶を持って歩いて来た。
セレンを見て足を止めた侍女は、そのまま深々と頭を下げる。
「桜か…」
セレンは侍女の持つ花瓶を見て足を止めた。
王都アッザムを流れる川のほとりにはアルゴンから友好の証にと贈られた桜が植えてあり、民の憩いの場所になっている。
そしてそれは、時々こうして王宮内にも飾られる。
この花を見るたび、セレンは懐かしくも切ない想いでいっぱいになる。
また、この花の季節が巡ってきたのだ。
(そろそろ、前に進まねばなるまい)
深く息を吐いて呟くと、セレンは再び歩き出した。
セレンがやっと再婚話に耳を傾けるようになると、側近たちは妃候補探しに張り切り出した。
そして、他国の王族、自国の貴族から多数の候補者情報が集められた。
そんな中からセレンが興味を示したのが、クロム王女エリザベットだったのである。
長年婚約関係にあった男を亡くし、それから六年もの間独身を貫いているという王女。
未だフレイアを忘れられない自分が、同じく死んだ婚約者を忘れられない女性となら、分かり合えるような気がしたのかもしれない。
最近周囲から『結婚』への圧が強いのだ。
二年前、セレンは最初の妻フレイアと離婚していた。
結婚当時王太子だったセレンの妻として、フレイアは素晴らしい王太子妃であった。
未来の王妃としても一人の女性としても、彼女は本当に得難い妻であったと思う。
自分がもっと正しい目で物事を見ていたら…と、今も当時を思い出すと胸が痛む。
自分の気持ちに気づいた時は、もう取り返しがつかない状態になっていた。
全て、傲慢で、濁った目で他人を見下していた自分のせいである。
だが、あの離婚を教訓に、驕らず、人の話をよく聞き、正しく判断することを、セレンは自らに課している。
とても切ない思い出ではあるが、自分の成長のため、そして彼女の幸せのためには必要な別れであったのだと、今ではそう理解している。
離婚発表直後、セレンは国王に即位した。
隣に王妃の姿はなく、一人での戴冠である。
そのような仕儀になったのも自分の不徳の致すところであり、また、しばらく妻帯する気もなかった。
そのくらいフレイアとの思い出は鮮烈であったし、妻となってくれた女性を幸せにしてやれなかった自分を不甲斐なく思っていたからである。
それに、そんな自分がまた誰かと寄り添っていく未来を容易に描けなかったこともある。
だがー。
即位して二年。
『正妃を』『世継ぎを』と望む民衆の声は日に日に大きくなっている。
クーデターの煽りでしばらくは大人しくしていた高位貴族たちも、近頃では年頃の娘がいれば妃に差し出そうと躍起になっていた。
宰相をはじめセレンの側近たちも挙って『そろそろ正妃様を』と望み、中には、離婚したフレイアと復縁してはと言い出す者まで現れた。
フレイアもまた、アルゴンに戻った後独身を貫いていたからだ。
このままではまたフレイアに迷惑がかかるし、何より国王である自分がいつまでも独り身でいるわけにもいかない。
それに、側近のノエルなどは『陛下が結婚しないとフレイア様も結婚しづらいのでしょう』などと言う。
また、セレンに世継ぎが生まれない限り、また異父弟たちを担ぎ上げようとする輩が出てくるかもしれない。
国王の結婚、そして世継ぎの誕生は最早義務であり、彼の想いとは全く別にある。
そんなことも、一度目の結婚の時の傲慢な自分は思い及ばなかったのだ。
小国アルゴンから嫁いできた王女を馬鹿にして、妾腹の娘だと蔑んだ。
あの当時は、大国の王太子である自分がそんな女と娶せられたことに腹を立てていた。
先代国王が決めたことを婚姻前に覆すことは出来なかったが、自分が即位さえすればどうとでもなると思っていたのだ。
(本当に、傲慢でどうしようもない男だった…)
物思いに耽りながら回廊を歩いていると、向こうから侍女が大きな花瓶を持って歩いて来た。
セレンを見て足を止めた侍女は、そのまま深々と頭を下げる。
「桜か…」
セレンは侍女の持つ花瓶を見て足を止めた。
王都アッザムを流れる川のほとりにはアルゴンから友好の証にと贈られた桜が植えてあり、民の憩いの場所になっている。
そしてそれは、時々こうして王宮内にも飾られる。
この花を見るたび、セレンは懐かしくも切ない想いでいっぱいになる。
また、この花の季節が巡ってきたのだ。
(そろそろ、前に進まねばなるまい)
深く息を吐いて呟くと、セレンは再び歩き出した。
セレンがやっと再婚話に耳を傾けるようになると、側近たちは妃候補探しに張り切り出した。
そして、他国の王族、自国の貴族から多数の候補者情報が集められた。
そんな中からセレンが興味を示したのが、クロム王女エリザベットだったのである。
長年婚約関係にあった男を亡くし、それから六年もの間独身を貫いているという王女。
未だフレイアを忘れられない自分が、同じく死んだ婚約者を忘れられない女性となら、分かり合えるような気がしたのかもしれない。
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