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音楽の国のエンターテイメント

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 ホカホカの炊きたてご飯に、梅干しを一粒。
 こんがり香ばしい焼き魚。
 味噌汁はモルント肉で豚汁風。
 葉物野菜はサッと湯がいて、生姜醤油で和えたお浸しに。

 典型的な和食の朝ごはんだ。

 焼き魚に醤油を垂らすと、私の胃が早く食べろと収縮する。

「う~~っ、醤油の香りがたまらない」

 最近、イシカワ邸の食事に、和食が登場するようになった。

 ちなみに、デザートは冷やしぜんざいだ。



 昼食は、ジューシーなコルボ鳥のソテーと焼き野菜に、とろりと溶かしたアスのチーズをかける。
 コーンスープにクルトンを浮かべて、パセリの香りをプラス。
 野菜とトマトソースのニョッキ。

「さすがコルボ鳥、高級食材なだけあるね。筋肉質なのに、柔らかい!」

 デザートはカラフルで可愛い、フルーツポンチ。



 夕食は裏庭でバーベキューの予定だ。



 ずいぶん国際色豊かな食事になったなぁと、トウモロコシ茶をすすりながら一息ついた。

 いつの間にか鼻歌を歌っていたようで、マリンから「面白いメロディーですね」と言われてしまったよ。
 私、学校の校歌も口パクでのりきったくらい、歌には自信がないんです。それなのに、ついついお茶のCMで流れていた曲を口ずさんでいたなんて……しかも思いきりうろ覚えで。

「あ……」

「どうしました?」

「マリンはカルルーク出身だよね」

「はい。カルルークの田舎町出身です」

「音楽の国でしょ? マリンも小さな頃から歌をうたってた?」

「そうですね。気付けば口ずさんでました。
 町中みんな、歌ってましたよ。洗濯をする時も、掃除をする時も。だから今でも時々、歌っちゃうんです。この間も、仕事中は駄目だって姉に怒られちゃいました」
 
 てへ、と舌を出すマリンは、特に反省した様子はない。
 別に口ずさむ程度、何の問題もないよ。大声で歌いながら掃除しているなら、ちょっと引くけどね。

「町の広場では、いつも誰かが自由に演奏してました。私も飛び入りで踊ったことがあるんですよ」

 クルリと軽快にターンする。

「歌はうたわなかったの?」

「ふふ。私、歌は好きですが、上手じゃないんです。広場で歌うのは、歌に自信がある人だけですから」

 とはいえ、大きな舞台で歌ってみたいという憧れはあったと、マリンは笑った。

 いつでも自由に演奏出来る広場。そんな場所がどの町にもあるらしい。

(コンクールみたいなことをやりたいな。賞品をガッツリ出して)

 平民からスターが生まれれば盛り上がるだろうし、夢も膨らむ。
 純粋に歌の技術を競う部門と、エンターテイメント性を競う部門に分ければ、歌に自信がなくても参加出来る。
 地球にも、歌がうまくなくても、何故か人を惹き付けるアイドルっていたものね。
 面白いパフォーマンスで、注目を集めたグループもいた。

 誰もが挑戦できるステージを作ろう。
 


※※※※※※※※※※※※※※※



 この国では、カルルーク語を話せると、ずいぶん優遇される。
 私は普通に話しているつもりなんだけど、どうやらお役所の人達には、流暢なカルルーク語を話しているように聞こえるらしい。
 最初はちょっと嫌な感じ……なんて思ったものの、お願い事をするには都合がいいって気がついた。

「音楽のイベントをやりたいんですけど~~」

 私のカルルーク語の一言で、簡単に役所の協力を得た。

 広場のステージを借りる許可がおりた。
 更に、私はスポンサーというポジションに落ち着いて、その他のことは役所でやってくれるらしい。正直、一からイベントをプロデュースするのは、私には荷が重いって思ってたから、ありがたい。

 イベントのコンセプトは、『次世代のスター発掘』。
 地球では、使い古した感があるけど、異世界では珍しいみたいだ。役所の人が何度も、有名歌手じゃなくていいのかと聞いて来たから。

 自由に歌ったり演奏したり出来る広場があるのに、マリンみたいに歌は好きだけど自信がない人は、見てるだけ。そんな人を賞品で釣っちゃおう!





 まだ成人したての若い少女が三人、髪に揃いの赤いリボンを付けて、クルリと回った。

「こんにちは! 私、ケイリーです」

「こんにちは! エラよ」

「モニカです! 応援してね!」

 元気な自己紹介から始まった。
 呼吸を整えた少女達は、お互いの顔を見ながら、声を出した。

「あ~~「あ~~「あ~~~」」」

 三人の声が重なって、綺麗なハーモニーが生まれる。

 伴奏が始まると、観客は「あっ」と声をあげた。

「この曲、知ってる! 昔、流行った曲だよね」

 彼女達が歌ったとたん、観客は首を傾げた。

「この歌、こんな歌詞だったか?」

「歌詞が違うじゃないか」

「いや、でも……悪くないな」

 彼女達の歌は、片思いの相手を思ってドキドキしちゃう! という、年頃の少女らしい可愛らしい歌だった。
 元々の歌は、浮気した夫をホウキで追いかけまわす、コミカルな曲らしい。

 簡単なステップを踏みながら、三人の声は絶妙にハモる。

「あなたの視線に~~」

「私の胸がキュンキュンしちゃうの~~」

「こっちを見て、ねぇ」

 パチリとウインクすると、観客から男性達の歓声があがった。

(あれ? この子達……)


 数日前、イベントの参加者を呼び込んでいた私は、広場の隅で暗い顔をしていた、少女達に声をかけた。

 お手製のチラシを渡すと、揃ってじっとチラシを見る。字が読めない人も多いので、簡単な説明を加えると、とたんに瞳が輝いた。

「「「お金が貰えるの?」」」

 声がピタリと揃った。

「あ、うん。入賞すれば賞金が出るよ」

 参加賞にお菓子が貰えると伝えても、それには興味がないようだ。若い女子なのに、珍しいな。

「優勝賞品があれば!」

「金一封があれば!」

「私達、売られないんじゃない?」

 なかなか物騒な事を言う三人に、私は思わず「ええっ?」と大きな声を出してしまった。

 聞けば、貧しい生活をしていた彼女達は、家の借金の為に娼館に売られる予定らしい。成人したての若い女性は、娼館で高値で買い取られる。
 読み書きが出来れば、貴族や富裕層の元で働くことも出来るけれど、貧しい育ちではなかなか働き口が見付からないものだ。

「でも私、そんなに歌がうまくないわ」

「歌は好きだけど……」

「優勝なんて無理よね」

 再び暗い顔で言うから、つい口を出してしまったのだ。

「無理じゃないよ! うまいヘタで決まるコンクールじゃないからね。大事なのはインパクトだよ。あなた達の若さと可愛らしさで、観客を味方につけたら……優勝も狙えるって。
 とりあえず、ウインク一つで若い男は落ちるよ」

 って言ったんだっけ。


 ステージで歌う少女達は、抜群に歌がうまい訳じゃない。実際、一つ前のしっとりとバラードを歌った、セクシーなお姉さんの方が歌はうまかった。
 だけど。

「いいぞ~~っ、ケイリーちゃ~~ん!」

「エラちゃん! かっわい~~!」

「モニカちゃん! こっちを向いてくれ~~!」

 若い男性中心に、声援は止まらなかった。

 歌に厳しい、カルルーク国民。年配の人は眉を潜めている。
 それでも若者には「可愛い」は有効らしい。
 カルルーク国民が、音楽のエンターテイメントを初体験した瞬間だった。




 結果、彼女達は成人の部門で三位入賞した。
 金一封の中身は一人金貨三枚。借金完済にはならない金額かもしれない。それでも抱きあって喜んでいた。

 成人の部門優勝者は、野に咲く草花で全身を飾り、観客に花びらを撒き散らしながら歌った、小さな酒場の女将さんだった。
 酒場は連日、新たな歌姫誕生に湧いたらしい。

 あの少女達三人組が、その後どうなったのかは私は知らないけれど、カルルーク国では、これを機に、歌って踊るブームがやって来たらしい。

 
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