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謎の部屋3

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「なんでだろうな。ここは宍戸先輩の家で間違いない気がする」

 メモのことはあっても、ここに誰が住んでいたかなんて分からない。服に名前が書いてあるわけじゃないんだから。

 だけど、この生活感のない家は、恋人の家を渡り歩いてた宍戸先輩の、ただ寝るための家だとしたら……。
 食事は外食。恋人とイチャイチャ過ごした後、一人になれる時間も欲しいとかそんなタイプの男なら、私と気が合うかもしれない。
 先輩のことは異性としては好きになれないけど。

「こらこらミルク。外には行けないよ」

 玄関らしきドアをカリカリやっているけれど、外を覗く勇気はまだない。
 誰かに見つかったらヤバそうだし。

 私が協力しないことを知って、諦めたミルクは別の場所をカリカリしはじめた。

「にゃーーん、にゃーーん」

「今度はそっち?」

 後を追って灯りを照らすと、また別のドアがあった。

 リビング、キッチン、寝室……次の部屋はなんだろう。

 ミルクに促されるままに開ける。

 先に扉をすり抜けたミルクを追って、私も中に入った。

「ここは……」

 扉がある。

 いや、むしろ扉しかない。

 私のボロ扉と同じようなシンプルな扉が12枚重ねて束ねてあって、朱色に金細工のいかにも高級そうな扉も二枚ある。
 奥の壁には、ドアが五枚並んで立っている。ドアノブが赤、緑、白、金、銀色と色分けされていた。

「ここはもしかして、先輩の作業部屋かな」

 束ねられた扉には、紙切れが貼り付けてあった。

「納品書……6組で2万4000ペリン。
 ケンゴ・シシド様。
 差出人、ロビン・ハルガス……ええっ?
 いきなり証拠が来た!」

 これってつまり、宍戸先輩が扉の製作をロビン・ハルガスさんに依頼したってことか。

「ロビン・ハルガスさんは建具職人なのかな……。そりゃ、宍戸先輩と切っても切れない関係だよ」

 扉を移動扉にする術は分からないけど、そもそも元になる扉がないと加工出来ないものね。普通の人には扉なんて作れないし。ただの板に取ってをくっ付けるだけじゃ扉とは呼べないってことだよね。

 気になるのは壁に添わせた五色の扉。

 鞄の中から手帳を取り出して、ついでにチョコレートを一つ口に入れた。

 手帳を捲って、目的のページを開く。

『赤はジーナ、緑はプリスカ、白はパメラ、金はユリア、銀はイヴリン』

 はい。これだけで何の事か分かります。
 この扉はそれぞれ女性の住む街に繋がっているんだろうね。
 次のページからは、ジーナの煮込み料理は最高だとか、プリスカの歌声は世界一だとか、パメラの巨乳は素晴らしいだとか、女性の情報がびっしり書いてある。
 割愛しますが。

 重要なのはソコじゃない。

 この女性達は全員、別の国に住んでいるってことが問題だ。

 国をまたぐようは移動扉は存在しないというのが、この世界の常識だ。
 通常の移動扉は、馬車で一時間程度の短距離型。役所にある特別な扉は、4~5日の距離を移動できる中距離型。

 存在しないはずの長距離型移動扉がここにある。 

 ミルクが白の巨乳パメラの扉をカリカリ掻いていた。

「開けてみたいのは私も同じなんだけどさ、鍵がないんだよね」

「んにゃ~~ん」

 抗議するように一鳴きして、作業部屋から出て行ってしまった。

 この家のどこかに鍵があるのかもしれないし、ないかもしれない。
 実際、この家に来る鍵は噴水の中で拾ったし。けれど。

「探してみる価値はあるね」

 その為にはもっと準備が必要だ。

 寝室に戻ると、ミルクが移動扉の前でちょこんと座っていた。

「んなぁ~~」

「はいはい。帰るんだね。了解しました」

 私とミルクのこの日の探検は終了した。



「お嬢様……どうしてそんなに埃だらけなんですか」

「ベルタ、これには訳が……」

「この屋敷のどこにそんな埃があったのですか」

「いや、あの……」

 ベルタの表情は口角を微妙にあげた仕事モードで、その顔で詰め寄られると少し怖い。

「私達メイドは毎日、屋敷の隅々までピカピカになるまで掃除をしています。いったいどこにそんなに埃が溜まっていたのか、ぜひとも教えていただきたいです」

「家はいつも通りすごく綺麗だよ。ただーーーー」

「ただ?」

 私の足元をミルクがスルリとすり抜けて、ツンと澄ましながら歩いて行く。

 待って、見捨てないで。

「ミルク~~」

 呟いた声をしっかりと聞きとったベルタは眉をピクリと動かして、次の瞬間。

「んなぁ!」

 ミルクの首根っこを捕まえた。

 ミルクは不満げに鳴いて、なぜか私をキッと睨み付ける。

「まぁ! ミィちゃんったら埃まみれじゃない!
 お嬢様の埃もあなたの仕業?」

「いや、あのね、そうじゃ……」

 一応、ミルクの潔白を伝えようかと思ったけど、「ミルクが汚したならしょうがないわ」という雰囲気になっているから黙っておこう。

 恨めしい目でこっちを見るミルクには、あとで賄賂を渡して……。

「にゃ」

 いつもより低い鳴き声。

「う……ごめんなさぁい! ミルクだけが悪いんじゃないよ~~。
 二人して屋敷から抜け出して汚したの」

 白状したものの、ミルクだけに罪をきせようとした結果、ミルクに許してもらうまで、ひたすら肉をあげ続けることになった。

 ミルクは少しぽっちゃりになった。
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