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求めていた朝食

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「では会議を続けましょう」

 お茶のおかわりも入れ終わり、次の議題に移る。
 次に大事な『生活においての我が家ルール』だ。
 一緒に暮らすなら、ある程度決めておかないと、トラブルになっても嫌だし。


1、暴力は禁止。
 奴隷同士殴り合いは見たくないし。

2、清潔第一。
 早急にお風呂を直すとして、それまでは毎日公衆浴場通いだ。

3、食事はなるべくみんな一緒に。
 私一人で食べろって言われたら、泣くよ? 引きこもり希望だけど、食事はみんなで食べたい。



「とりあえずこんな感じです。質問のある人」

 いくつかの質問に答えて、会議を終えようとした時、ベテランメイドのベルタさん……ベルタが手を挙げた。

「ベルタさ……、ベルタどうぞ」

「お嬢様のお部屋の事です。家主であるお嬢様には一番奥の寝室を使っていただきたいのです」

「ええっ? 広くて落ち着かないです!」

 ヴェロニカも手を挙げてベルタを援護する。

「警備の面からも一番奥の部屋にいてもらえると有難いです」

 ううっ……。みんな頷いてるし。
 多勢に無勢。一対十じゃかないません。典型的な日本人ですみませんねぇ。
 私が望んだ事とはいえ、家の奴隷は適応力ありすぎでしょ。

「……分かりましたぁ。移動しますぅ」

 少し拗ねてもいいよね。
 パウルさん……パウルが「面白いお嬢さんだ」と言ってアルバンと朗らかに笑いあっている。フーゴとルッツ少年の調理場コンビはおろおろしているけど、こっちの反応の方が私は理解出来るよ。

 でも、何だか平穏に暮らしていけそうな予感。

「はい! 会議終了!
 問題があったら、その都度言ってね。
 じゃあ、準備が出来次第、夕飯にしましょう。今日は出来合いの物で悪いけど……明日の朝食からフーゴとルッツでお願いね」

「か、かしこまりました」

「……ま、ました」

 うんうん。
 私は準備が出来るまで部屋を引っ越ししよう。




 大量にテイクアウトした食べ物は、フーゴが温めてくれたようで、出来たてみたいだった。
 
 ロールキャベツのような物。生春巻きのような物。真っ赤な野菜の漬物のような物。それから同じみのパン。
 なぜ「ような物」といちいちつけるかと言うと、見た目は地球の料理と似ていても、味まで同じとは限らないからだ。
 餃子かと思ったら魚のすり身が入っていたり、グラタンかと思っていたらカレー味だったり……ここ数日で学んだ。全部味は美味しいんだけどね。

 テイクアウト品もきちんとお皿に盛り付けたら、見違えるようになる。プロの仕上げだからかな。

「それじゃあ手を合わせて」

「「「いただきます!」」」



 今までより少し美味しい夕食に満足して、本当なら自室でマッタリ……といきたい。でも、あの広い自室に戻るのもなぁ……。狭い方が落ちつくのに。
 結局リビングのソファーで、アルバンと明日の予定をたてることになった。

「明日は、エドガーとヴェロニカを連れて武器屋に行くでしょ。
 お風呂の整備依頼をしたいから、役所で聞いて……。
 午後はみんなで公衆浴場。服屋と食材の買い出し……かな」

「承知いたしました」







 
 黄金のスープにハーブの効いたソーセージ入り。新鮮なサラダには柑橘系の香りがするドレッシング。じゃがいも感強めのポテトサラダ。パンのお供にリエット。デザートにはオレンジジュレ。

「……何、この完璧な朝食は……」

 テーブルの上に並べられた色鮮やかな料理たち。朝から重すぎず、栄養バランスが良さそう。
 朝食がキラキラしている。思わず「宝石箱や~~っ!」と叫んでしまった。
 フーゴとルッツが声に怯えて、ビクリと肩を震わせた。

「マ、マイカお嬢様……。な、な、何か苦手な物でもありましたか?」

 フーゴがビクビクしている。急に叫んだから、怒っていると思われたかな。

「感動してるの! 昨日までの朝食と比べて、本当に素敵すぎて! もうこれ芸術だよ。フーゴ、あなた天才だわ!」

 ポテトサラダくらいなら私だって作れるけど、フーゴが作るとお洒落なレストラン風に見えるってどういうことだ。プロの仕事を見せつけられた。

 そもそも朝起きた時から、生活が激変していたのだ。
 朝起きてルーナが身支度を手伝いに来たときは、正直そっとしておいてくれと思ったけど……。髪の寝癖直しをお願いしたら、いとも簡単に艶々サラサラになった。更に、たいして長くもない髪を手早く結って、私には到底出来ない器用さでサイドを編み込みにしてくれた。
 アルバンに扉を開けてもらい、エドガーが椅子を引いてくれて……今に至る。

 恐ろしく至れり尽くせりだ。これに慣れたら、ダメ人間にならないだろうか。


 素晴らしく充実した朝食の後は、予定通り護衛二人を連れて武器屋に行く準備をする。

「お嬢様、そろそろ乗り合い馬車が丘の下に来る時間です」

 アルバンがにこやかに言う。
 乗り合い馬車? ……つまり、バスってことだよね? そんな便利な物、あったんだ……。街中で馬車が走っていることは知ってたけど、バスがわりの馬車だなんて思っても見なかった。

「そ、そう。じゃあ出かけましょう。
 昼は外で食べて来るので、フーゴに伝えてください。私がいなくてもちゃんとみんなで食べてくださいね」

「かしこまりました。エドガー、ヴェロニカ、お嬢様を頼みます」

「もちろんよ! ね、エドガー」

「ああ」

 護衛二人とも頷いているけど、そうそう護衛の必要な状況にならないと思うよ。平和そうな街だし。

「あ、もしかして、保護者的な目線で言ってるの? アルバン」

「失礼ながら、お嬢様は遠い異国ご出身ですから、大陸の事には疎い様子。外でのことはエドガーとヴェロニカが補佐しますので、問題ありません」

 にこやかにピリッとしたことを言うな、アルバン。まぁ、本当の事だからいいけど。

 ヴェロニカが小声で耳打ちしてくる。

「昨日の夜、マイカが寝た後に奴隷会議開いたの。みんなでマイカの補助を徹底することに決まったんだ」

 パチンとウインク一つ。ヴェロニカ姉さんは素敵すぎて、何も言い返せません。みんな私の為を思ってくれてるみたいだから有難いけど。

「じゃ行ってきます」
 
「「「行ってらっしゃいませ」」」

 いつの間にかアルバンの後ろにメイド三人が立っていて、まさしくお嬢様よろしく見送られた。

 庭に出ると、景色が一変していた。

「ええっ! ここはどこ……」

 謎の蔓植物に侵食された庭は、玄関からアーチ門まで見違えるようになっていた。
 蔓植物がすべてなくなって、おどろおどろしい感じが消え失せ、すっきりした庭に変わった。庭の整備はまだ手付かずだろうけど、蔓植物がなくなっただけで素晴らしい!

「お嬢ちゃん、お出かけかな?」

 突然パウルさんが出現した。
 えっ、何処から現れたの? 護衛の二人も目を丸くしてるよ?

「パウルさん、この庭すごいですね。
 まさか短時間であの蔓が無くなるとは思いませんでした」

「いやいや、まだ玄関先だけだよ。この植物は悪魔の蔓と呼ばれていてな、明日にはまた元通りになっているはず……根気が必要だよ。しかも蔓が固すぎて普通に鎌で刈ると、刃が負ける。厄介で不思議な植物だ。
 ワシが勝つか、悪魔が勝つか……実に面白い」

 パウルさんの笑顔が……怖い。蔓植物を駆除する話しをしているのに、魔王に戦いを挑もうとするベテラン戦士のようだ。
 いやぁ、実に頼もしいな。

「ポツポツ咲いてる薔薇は残せます?」

「もちろんだとも。お嬢ちゃんは薔薇が好きなのかい?」

「はい。出来ればこの辺は香りの強い種類の薔薇を植えて欲しいです。
 その他もろもろはパウルにお任せしますので、好きにやっちゃって下さい」

「了解、了解。もう馬車がすぐ近くまで来ているな。急ぎなさいな、お嬢ちゃん」

 坂の下にまだ馬車は目視出来ないのに、パウルはどうして分かるんだろう。まあ、アルバンもそろそろって行ってたし、少し急ごう。
 
 パウルに手を振って、急ぎ足で坂を降りた。


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