上 下
39 / 53
第2章 コロラドリア王国編

第三十九話

しおりを挟む
 まずは領主のジョージニアにダリアを面通しした。すると、

「お前、氷のダリアか?」
「おや?あたしも有名になったもんだね」
「知らないわけがない。アイシクルランドの伝説の探索者じゃねえか」
「それは昔の話さ。今じゃ細々とやってるだけだよ」

 来ました、二つ名持ちが。
 まさかダリアがそんなに有名だったとは。

「領主様、明日には俺たちランドドラゴンの討伐に行くつもりです。今日、ダリアさんを泊めて貰っても良いですか?」
「もちろん良い」
「ありがとう」
「……良いのかい?」
「当たり前だ、ゆっくりしていけ。って明日出るのかよ」
「助かるよ。領主様」
「ジョージニア、またはジョージで良い」
「ははっ、ありがとう、ジョージ」

 おや?なんだか領主の態度がおかしいのだが。俺たちにそんなことは言わなかったぞ。
 
「それでライト、あたしに見せたいものってなんだい?」

 俺とアリサはニヤリと笑う。それで気づいた領主は苦笑いだ。

「……、ライト、伝説の探索者をいじめるんじゃねえ」
「いじめなんてとんでもない。紹介するだけですよ」
「いじめ?」
「虎子」

 俺が名前を呼ぶと、ここ、食堂のドアが開く。ダリアは気配を察したのか、素早い動きで背中の剣を抜いて、腰を落として構えた。
 そして虎子の姿を見ると、目を大きく見開いてワナワナと震え出した。

「これが俺の相棒、虎子だ」

 アリサもダリアの変わりぶりに、楽しそうな笑顔だ。だがその後のダリアの反応は予想外だった。それになんだか虎子が微妙な顔をしている。

『アキハル、こやつは巨人族ではないか』
「あー、そんなことを言ってたな」

 ダリアは驚きに震え、いきなり床に頭を擦り付けて、ジャンピング土下座した。土下座したもんだから、鎧兼腰巻きのようなミニスカの尻から、黒いパンツが露わになった。

「ははぁー!神獣様ぁ!」
「は?」
「ちょっとダリア、神獣様って何よ」

 ダリアは涙目でアリサを怒鳴る。

「頭が高い!!神獣、千年虎サウザンドタイガー様の御前なるぞ!!」

 全員ポカーンだ。俺はたまらず虎子に聞く。

「お前、神獣だったの?」
『人間の生息域では、もう獣人族を知る者も少ない。妾の故郷は北の方でな。近くには巨人族の集落がいくつもあった。気まぐれで助けてやると神獣と崇められたらしいぞ』
「あー、虎子じゃなくてご先祖か何か?」
『そうだ。しかし妾は故郷には100年ほどしかいない。ほとんどメイリーと一緒だった』
「なるほどね」
「お前!巫女だったのか!!」

 ダリアが俺に巫女とか言ってきた。それにキャラが変わっている。飄々とした、おおらかで陽気なダリアはどこに行ったのか。

「巫女はないわ」
「ああ、巫女はねえな」
『過去にも居たのだな、獣人族と会話出来るものが。初代か?』
「知らねえよ」
「お前ら全員巫女なのか!!」

 ダメだこりゃ。収拾つかねえよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あはははっ!流石にあたしも参ったよ!まさか神獣様のご友人とはね、あははははは!!」
「お前キャラがコロコロ変わるな……」

 領主が酒盛りの用意をさせ、宴会になってしまった。さりげなく領主はダリアを隣に座らせている。

「あっ、そうだ。ライト」
「ん?なんだダリア」
「結婚しよう」

ブゥゥゥゥゥ!!!!

 全員が酒を吹き出した。

「あんた脈略なさすぎなのよ!!」
「な、な、何故ライトなんだ!!」

 領主の返答がなんかおかしい。ダリアはあっけらかんと答える。

「だって神獣様のご友人だぞ?そしたらあたしは神獣様をご友人に持つ男の妻、もうあたしも神獣様のご友人みたいなもんじゃないか!」
「そこまであからさまだと逆にすがすがしいな……」

 やめろ領主。何故俺を睨む。俺は被害者だ。しかも虎子のバーターだ。
 すると虎子がぬくっと立ち上がり、ダリアを倒して踏み潰した。

『妾の許可なしにアキハルとつがいなどさせぬ』
「お前はオカンかよ……」

 虎子も酒を飲んでいる。ダリアは嬉しそうに虎子に踏まれながら、俺に聞いてくる。

「ライト!なんだって?!神獣様はなんだって?!」
「通訳なんて要らないわ。どうせ死ねか殺すぞ、よ。100歩譲ってダメだでしょ」
 
 アリサ、なんでわかるんだよ。やっぱお前異常だよ。

「あー、遊んでやるってよ」
『アキハル!ちゃんと伝えろ!』
「いやだよ、めんどくせえ」

 誰が自分の口からそんなことが言えると言うのか。恥ずかしいわ。

「遊ぶ?!もしかしてあたしもご友人かい?!」
「そうじゃねえの?」
「なわけないじゃない。むしろ敵よ」

 状況がカオスすぎる。付き合ってられん。
 それといい加減にしろ領主、こっちみんな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「なんだって?!神獣様と一緒にお風呂に入るのかい?!よし、あたしも一緒に入るよ」
「ふざけ────」
「ダメに決まってますぅー!!ライト様のお世話は私の仕事ですぅー!」
「シンディさん、黙っててもらえます?。あっ、小刀出すのやめてもらえます?」

 黙らせたいなら殺せだろ?もう本当に嫌。
 とりあえずミスティさんを呼んで、シンディさんは回収してもらった。
 あとはダリアさんだが。

「虎子、こいつなんとか出来るか?」

 すると虎子は、ダリアの目の前で尻尾をみょんみょんさせる。ダリアがそれを見ると、尻尾をあっち向いてホイした。ダリアは釣られてそっちを見る。

ドスッ!

「うっ!」

 瞬間、虎子は尻尾でダリアの腹を突いた。だがダリアは頑丈だった。

『硬いな』

ドスッ!

 前足が出た。それを食らうと、ダリアは意識を失って床に倒れ込んだ。

「大丈夫かよ」
『巨人族だし、大丈夫だろ。それよりブラシは持ったのか?』
「ああ」

 なんだか今日の虎子は酔ってるからか、陽気で過激で素直だった。こんな虎子もあるんだな。

『よし、行くぞ。ちゃんと泡もしろ』
「わかったっての」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 最近では当たり前になってきた、虎子のブラッシング。それなりに慣れて来たようで、身悶えたりしなくなったからつまらない。
 俺はブラッシングしながら、明日からのことを話す。

「虎子、ランドドラゴンってんだけど、虎子が居るとどうしても頼っちゃうからさ。3人だけで行ってみようと思うんだけど」

 すると虎子は、

『ふむ。ランドドラゴンか。今のアキハルとアリサならちょうど良いかもしれんな』
「勝てるかな」
『楽勝とは行かぬだろう。少し苦労するのも大事だ、また勝てぬなら引くことも覚える必要がある。行ってこい』

 おっと。やっぱり虎子は優しいがゲロ甘ではない。3人での依頼に許可が出た。

『2人だと道中が不安だが、巨人族が居るなら大丈夫だろう。奴は旅なれている』
「そうなの?」
『奴の故郷とどれほどの距離があると思っている。ここにたどり着いただけでも旅慣れている証拠だ』
「なるほど」

 ある程度背中側を終わらすと、尻尾を俺の目の前に持ってきた。俺は尻尾をブラッシングする。

『一つ言っておくことがある』
「ん?」
『アキハルは狙われている。人と戦う時は躊躇をするな。必ずトドメをさせ』
「嘘、誰に?」

 虎子がダリアと同じことを言ってきた。ならもう確定だろう。はぁ……、あの気の良いオッさんがそんなことを……。本当、何処に何が落ちてるかわからねえな。人間不信になるわ。

『わからぬ。始めはここの館の者かと思っていた。だが違うようだ。それに魔法ではない力を使っていたぞ。もしかしたら勇者かもしれん』
「……そいつは?」
『殺した』

 殺したか。でも勇者はみんなセントフォーリアのはずだ。そんな簡単に出てくるだろうか。

「黒髪だったか?」
『そう言えば違ったな。ふむ、良かったと言うべきか?』
「いや、どっちでも問題ない。ありがとう」
『構わん。だが注意しろ。戦闘中でも後方に目を向けろ。それとアリサ以外は完全に信用するな。あの巨人族でさえだ』
「わかった」
 
 まあ、ダリアの話と擦り合わせればあのオッさんで確定だと思うが、先入観を持ちすぎるのもよろしくない。何が真実だとしても、禁呪もあるしその場で対応出来るだろう。
 しかしもう虎子とは完全に師弟だな。でも全部大事なことだ。

「よし、じゃあ腹もやったろ」
『何?』
「ほら、仰向けだ」

 虎子は仰向けになろうとしないので、右の前足と後ろ足を持って強制的にひっくり返した。石鹸で泡泡になっているから摩擦が減り、俺の力でも比較的楽にひっくり返せた。俺もなかなか鍛えられたしな。

『し、正気か?』
「ふはは、覚悟しろ」

ビクッッッッ!!!

 腹側の白い毛皮を、顎の下から尻尾方面にブラシを通すと、虎子はくの字に折れ曲った。
 もう一度やろうとすると、虎子に両前足で、顔をむぎゅっと掴まれた。虎子はじっと見つめてくる。

『やめろ』
「遠慮すんな」

ビクッッッッ!!!

 顔を掴まれているから目で確認は出来ない。だがこれだけ巨体の虎子なら見えなくても問題はない。

 また身悶える虎子が帰ってきた。やはりこれは面白い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

教師真由美の密かな「副業」 〜教師と生徒、2人だけの交換条件〜

maity
恋愛
東京で一人暮らしをする高校2年の真壁優也は、担任教師の森沢真由美の美しさに心を奪われていました。 人妻でもある彼女への満たされぬ想いに苛まれる彼にとって、放課後帰りの真由美を尾行し、彼女のプライベートを盗み見することだけが密かな慰めだったのです。 ある日、優也は夕方の繁華街を尾行中に、いつもと違う真由美の行動を目撃しました。それは彼女にとって誰にも知られたく無い秘密…… 「副業」のため、男性相手の性感エステサロンに入る姿だったのです。 憧れの美しい教師の「副業」を知ってしまった優也の決意…… 彼は真由美が働く店で客として彼女を指名し、今まで触れることすら出来なかった彼女の体で、想い描いた性の願いを叶えようとします。 彼は教壇に立つ真由美の美しい後ろ姿を見つめながら、彼女を90分間だけ自分だけのものに出来る「予約」の日を待ち続けるのですが……

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...