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第2章 コロラドリア王国編
第二十話
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朝起きて、パンと干し肉を食って出発する。
昨日は兎だけだが魔物に襲われたのに、今日は一度も魔物に出会ってない。昼飯を食うために自転車を止めると、
ガサガサガサガサ!!
なんと偶然にも昨日と同じように瀕死の魔物が茂みから出てきた。今度は鹿だった。
「でけえよ……」
躊躇していると、瀕死の鹿は最後の抵抗とばかりに、俺にツノでタックルをかましてくる。すんでのところでよけて、俺は覚悟を決めて鹿を殺す。
「……、やるっつうの……」
ビビる気持ちを抑えて、鹿を捌いてまた一塊だけ食った。意外にも美味かった。
そして夕暮れ、またここまで魔物の遭遇はない。だが、キャンプの準備をしていると瀕死の兎がやってくる。
「……、ふぅ……。まあ、そうだよな……。いや、わかってたけどね」
俺は鈍感系じゃない。流石に昼で気づいた。瀕死の魔物に遭遇するなど一度でも異常なのに、二度あれば誰だって予想がつく。それが三度目だ、これで気づかないなら、そのうち《俺またなんかやっちゃいました?》とか言いかねない。
「ったく、ツンデレかよ。いや、なんだろ、マザコンの子供のママを見ているようだ」
やれと言うのだろう。ならば狩りからやらせろと思わなくもないが、また大軍をけしかけられては敵わない。ここは言葉にするのはやめて置いた、どうせ聞かれているだろうからだ。
ちょっと解体のグロさに慣れた兎を捌いて、一塊を焼いて食う。そして今日は完全に無警戒で寝た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一人旅3日目、今日も安全な異世界旅だ。
「なんだろ、バツが悪いのかな?」
バレバレなのだから出てくれば良いのに。もしかしたら戦ったのがいけなかったのか。いや、あれがあったからこそ今があるのかもしれない。
「まあ、そのうち出てくんだろ」
面白くなってきたので、こっちからアクションは起こさないことにした。
パカラ、パカラ、ゴロゴロゴロゴロ
すると後ろから数頭の馬の足音と、リアカーを転がすような音がしてくる。俺は道を譲るように、踏み固められた街道の端に自転車を止める。
馬車だった。馬4頭に引かれ、その周囲を鐙をつけた馬に乗った男たちに護衛された馬車だ。
馬車の後部は鉄格子になっている、罪人輸送車なのだろうか。
「……かわくん!」
「ん?」
「……どりかわくん!!」
女の声だ、しかも緑川と言った。久しぶりに自分の苗字を思い出した。間違いなくクラスメイトだな、それも女子か。
どうする、面倒か?いや、絶対後で気になるに決まっている。どうするかは別として無視はない。俺は自転車を立ち漕ぎし、全力で馬車を追った。
4頭立てでも馬車はそこまで早くはなかった。自転車で全力で追いかければ数分で追いつける。
「待て!待ってぇぇぇぇ!!」
虎子との訓練で持久力は上がったが、自転車の全力疾走はなかなかハードだ。この自転車だとスポーツジムにあるエアロバイクより負荷が高くなるので、疲れるのは仕方ない。
馬車が近くに見えてきた。全力疾走しながら鉄格子の中にいる人物を見ると、あれは……、神山か?
「待て!止まれ!」
護衛が俺に気づき、数秒で馬車と護衛たちが止まった。
「はあ、はあ、はあ!」
「なんだ貴様」
自転車を止めて息を整えていると、馬に乗ったままの護衛に囲まれる。さて、なんて切り出すか。
「あの、これは輸送ですか?」
「あん?なんだお前?」
「すいません、教えてくれたらすぐ消えますから。罪人ですか?」
すると違う護衛が、
「元罪人だな。今はうちが買ったから奴隷だ」
「……なるほど」
俺は自転車から降りて、鉄格子に向かう。そこにはかなり憔悴した神山が怯えるように俺を見ている。少々臭う、何日か風呂に入って無さそうだ。
神山の態度は少し意外だった。俺を見つけて呼びつけたくらいだから、もっと大騒ぎするのかと思ってた。しかし神山の態度は、まるで俺を呼んだことを後悔しているような、恥ずかしがっているような、いじめられっ子のような、なんとも言えない態度だった。
逆にそれが俺の興味を引いた。俺の記憶にある神山は、当たり前のように助けろとか命令してきたりギャアギャア騒ぎ立てるような奴だ。そうだとしたら俺はこの出会いをなかったことにしてたかもしれないが、憔悴しきっている神山を見てどうしてこんなになったのか興味が湧いた。
俺は護衛に向き直り、
「これ、売り物ですか?いくらです?」
すると1番恰幅の良い男が俺の前に馬を進めてくる。
「ほう、お客様でしたか」
「値段次第かな」
「そやつはスキルを持ってましてね」
「ほう、スキルを」
「はい、そちらさんも知ってるでしょうが、スキルを持ってるのは1万人に1人か、異界人のみですからな」
なるほど、1万人に1人くらいの確率ならスキル持ちはいるのか。良いことが聞けた。
「なら高いのか?」
男はニヤリと笑い、
「まあここで払える額ではないかもしれませんな。アスタリカのサザークの街で奴隷商をしています。お気になったならそちらで契約いたしましょう」
「用意しなけりゃいけないからさ、だいたいどのくらい?」
「そうですな、では1週間以内に買っていただけるなら、5000万ルクに致しましょう」
「……」
たっか!こりゃ無理だ。この金額じゃあ分割にして払う気も失せる。
「ちなみに罪状は?」
「窃盗です。教国から秘宝を盗みましてな、死罪スレスレでしたな」
「なるほどね」
しかしよく喋る。俺の格好がブレザーなしの制服だからか、金を持ってるように見えるのかもしれない。
俺は鉄格子を見て、
「盗んだの?」
神山は無言で首を横に振る。
「本当に?」
神山は黙って頷く。
はあ……、仕方ない。これで俺もお尋ね者か。しかも行き先を変えなきゃならないな。
俺は男たちを見る。
「なら買うよ」
「ありがとうございます」
「今ここで払う」
「…………、5000万ですが?」
護衛たちが馬から降り出して身構える。そりゃ、ここで5000万払うと言っても信じる訳ないか。
「あんたらの命を5000万で買うよ、安いだろ」
「てめえ……」
「命は取らないから、こいつは置いていけ」
商人風の恰幅の良い男が、軽快に笑う。
「はははっ、……、殺れ」
「おおおおお!」
俺は先制で護衛の1人の鳩尾に、思いっきり前蹴りを食らわす。
「ごばっ!」
そいつは、くの字に折れて1mぐらい浮き上がり、そのまま蹲った。
しかし身体のあちこちが痛い。まだ筋肉痛が取れてない。
すぐに他の護衛が襲ってくる。護衛は剣を抜き、本気で殺しにかかって来ている。虎子の尻尾よりも遅いが、4人同時に相手をしているので、難易度的には同じくらいだ。
「こりゃきついな」
「死ねえ!」
「バズ、ウーンズ、バレッティア、マジョリカ!」
なんとか剣を避けながら、馬車を背にして護衛たちを俺の正面付近に集め、魔法をぶっ放した。少し頭がクラクラする。
護衛たちはマシンガンで撃たれたかのように踊ったが、4人ともすぐに起きあがってきた。
「だめか……」
「馬鹿か!その程度の腕で勝てると思ったのか!」
まあうさぎにも勝てなかったのだ、ダメ元で魔法を使ったが当然のように倒せなかった。俺はため息を吐く。
「仕方ない、奥の手だ!」
「何?」
俺は大きく息を吸い込み、
「虎子おおおおおおおおおおおお!!!」
ドン!!
俺が叫んでから1秒程しか経ってない、どんだけ近くに居たんだよ。
一部鉄格子の馬車の上に、ベンガルトラのような風貌の、巨大なチーターがどこからともなく降りたった。良かった、来なかったらどうしようかと思った。
「なっ!」
「なんだこれは!!」
「ま、魔物だ!」
馬車の屋根に立つ出立ちは、まるで百獣の王のように堂々としている。
ン〝ナ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝!
虎子が太った猫のような咆哮をあげると、馬は虎子の威圧に気圧され嘶くことも出来ずに気絶した。護衛や商人らしきやつも地面に尻餅をつき、小便を漏らしてる奴もいる。
「わるい、虎子。この捕まってる奴に色々聞きたいことがある。ちと手を貸してくれ」
『力も無いのに、馬鹿をするな。それに人の世ではこれは罪ではないのか?』
「罪だな」
『それでもか?』
「それでもだ」
『阿呆が。こんなことで呼びおって。妾をなんだと思ってるのだ』
「一生のパートナーかな」
虎子はぎょっとした顔で俺を見た。
『礼は要求するぞ』
「ああ」
むしろ出てくるタイミングを作ってやった俺に礼を言えと言いたかったが黙っておいた。
虎子が屋根から飛び降りる。
「ひっ!」
「あっ、あっ、はっ、はっ」
怯える者、呼吸困難になる者、既に気を失っている者。虎子はただ現れただけで全てを無力化した。
「あー、とりあえず殺すのは待とうか」
虎子は俺に振り返り、
『……、わかってるのか?証人が残るぞ』
「5000万で命を助けるって言っちまったからな。殺したら契約違反だ」
いくら日本の倫理観から見て、人道的に許されない奴隷商人たちだとしても、この世界では合法的な商売なのだろう。だとしたら悪人はこちらと言うことになる、更に皆殺しにするのは流石に気が引けた。
俺は気絶している商人の服を探り、鉄格子の鍵を手に入れた。そして鉄格子の鍵を開ける。
「……、漏らしてるし」
神山は気絶して小便をもらしていた。俺は虎子を見て、
「……運べる?」
『その臭いのを妾が?』
「ですよね」
虎子は明らかな拒否を顔に浮かべたので、俺は仕方なく神山を肩に担いだ。マジくさい。
そしてまだ意識のある護衛に向かい、
「命が助かっただけ儲けものと思える?」
コクコクコクコク
「なら、さよなら」
俺は自転車を【収納魔法】で収納し、神山を担いで虎子と共に森の中へと歩き出した。一体この3日間で何人の友人が消えたのだろうか。
昨日は兎だけだが魔物に襲われたのに、今日は一度も魔物に出会ってない。昼飯を食うために自転車を止めると、
ガサガサガサガサ!!
なんと偶然にも昨日と同じように瀕死の魔物が茂みから出てきた。今度は鹿だった。
「でけえよ……」
躊躇していると、瀕死の鹿は最後の抵抗とばかりに、俺にツノでタックルをかましてくる。すんでのところでよけて、俺は覚悟を決めて鹿を殺す。
「……、やるっつうの……」
ビビる気持ちを抑えて、鹿を捌いてまた一塊だけ食った。意外にも美味かった。
そして夕暮れ、またここまで魔物の遭遇はない。だが、キャンプの準備をしていると瀕死の兎がやってくる。
「……、ふぅ……。まあ、そうだよな……。いや、わかってたけどね」
俺は鈍感系じゃない。流石に昼で気づいた。瀕死の魔物に遭遇するなど一度でも異常なのに、二度あれば誰だって予想がつく。それが三度目だ、これで気づかないなら、そのうち《俺またなんかやっちゃいました?》とか言いかねない。
「ったく、ツンデレかよ。いや、なんだろ、マザコンの子供のママを見ているようだ」
やれと言うのだろう。ならば狩りからやらせろと思わなくもないが、また大軍をけしかけられては敵わない。ここは言葉にするのはやめて置いた、どうせ聞かれているだろうからだ。
ちょっと解体のグロさに慣れた兎を捌いて、一塊を焼いて食う。そして今日は完全に無警戒で寝た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一人旅3日目、今日も安全な異世界旅だ。
「なんだろ、バツが悪いのかな?」
バレバレなのだから出てくれば良いのに。もしかしたら戦ったのがいけなかったのか。いや、あれがあったからこそ今があるのかもしれない。
「まあ、そのうち出てくんだろ」
面白くなってきたので、こっちからアクションは起こさないことにした。
パカラ、パカラ、ゴロゴロゴロゴロ
すると後ろから数頭の馬の足音と、リアカーを転がすような音がしてくる。俺は道を譲るように、踏み固められた街道の端に自転車を止める。
馬車だった。馬4頭に引かれ、その周囲を鐙をつけた馬に乗った男たちに護衛された馬車だ。
馬車の後部は鉄格子になっている、罪人輸送車なのだろうか。
「……かわくん!」
「ん?」
「……どりかわくん!!」
女の声だ、しかも緑川と言った。久しぶりに自分の苗字を思い出した。間違いなくクラスメイトだな、それも女子か。
どうする、面倒か?いや、絶対後で気になるに決まっている。どうするかは別として無視はない。俺は自転車を立ち漕ぎし、全力で馬車を追った。
4頭立てでも馬車はそこまで早くはなかった。自転車で全力で追いかければ数分で追いつける。
「待て!待ってぇぇぇぇ!!」
虎子との訓練で持久力は上がったが、自転車の全力疾走はなかなかハードだ。この自転車だとスポーツジムにあるエアロバイクより負荷が高くなるので、疲れるのは仕方ない。
馬車が近くに見えてきた。全力疾走しながら鉄格子の中にいる人物を見ると、あれは……、神山か?
「待て!止まれ!」
護衛が俺に気づき、数秒で馬車と護衛たちが止まった。
「はあ、はあ、はあ!」
「なんだ貴様」
自転車を止めて息を整えていると、馬に乗ったままの護衛に囲まれる。さて、なんて切り出すか。
「あの、これは輸送ですか?」
「あん?なんだお前?」
「すいません、教えてくれたらすぐ消えますから。罪人ですか?」
すると違う護衛が、
「元罪人だな。今はうちが買ったから奴隷だ」
「……なるほど」
俺は自転車から降りて、鉄格子に向かう。そこにはかなり憔悴した神山が怯えるように俺を見ている。少々臭う、何日か風呂に入って無さそうだ。
神山の態度は少し意外だった。俺を見つけて呼びつけたくらいだから、もっと大騒ぎするのかと思ってた。しかし神山の態度は、まるで俺を呼んだことを後悔しているような、恥ずかしがっているような、いじめられっ子のような、なんとも言えない態度だった。
逆にそれが俺の興味を引いた。俺の記憶にある神山は、当たり前のように助けろとか命令してきたりギャアギャア騒ぎ立てるような奴だ。そうだとしたら俺はこの出会いをなかったことにしてたかもしれないが、憔悴しきっている神山を見てどうしてこんなになったのか興味が湧いた。
俺は護衛に向き直り、
「これ、売り物ですか?いくらです?」
すると1番恰幅の良い男が俺の前に馬を進めてくる。
「ほう、お客様でしたか」
「値段次第かな」
「そやつはスキルを持ってましてね」
「ほう、スキルを」
「はい、そちらさんも知ってるでしょうが、スキルを持ってるのは1万人に1人か、異界人のみですからな」
なるほど、1万人に1人くらいの確率ならスキル持ちはいるのか。良いことが聞けた。
「なら高いのか?」
男はニヤリと笑い、
「まあここで払える額ではないかもしれませんな。アスタリカのサザークの街で奴隷商をしています。お気になったならそちらで契約いたしましょう」
「用意しなけりゃいけないからさ、だいたいどのくらい?」
「そうですな、では1週間以内に買っていただけるなら、5000万ルクに致しましょう」
「……」
たっか!こりゃ無理だ。この金額じゃあ分割にして払う気も失せる。
「ちなみに罪状は?」
「窃盗です。教国から秘宝を盗みましてな、死罪スレスレでしたな」
「なるほどね」
しかしよく喋る。俺の格好がブレザーなしの制服だからか、金を持ってるように見えるのかもしれない。
俺は鉄格子を見て、
「盗んだの?」
神山は無言で首を横に振る。
「本当に?」
神山は黙って頷く。
はあ……、仕方ない。これで俺もお尋ね者か。しかも行き先を変えなきゃならないな。
俺は男たちを見る。
「なら買うよ」
「ありがとうございます」
「今ここで払う」
「…………、5000万ですが?」
護衛たちが馬から降り出して身構える。そりゃ、ここで5000万払うと言っても信じる訳ないか。
「あんたらの命を5000万で買うよ、安いだろ」
「てめえ……」
「命は取らないから、こいつは置いていけ」
商人風の恰幅の良い男が、軽快に笑う。
「はははっ、……、殺れ」
「おおおおお!」
俺は先制で護衛の1人の鳩尾に、思いっきり前蹴りを食らわす。
「ごばっ!」
そいつは、くの字に折れて1mぐらい浮き上がり、そのまま蹲った。
しかし身体のあちこちが痛い。まだ筋肉痛が取れてない。
すぐに他の護衛が襲ってくる。護衛は剣を抜き、本気で殺しにかかって来ている。虎子の尻尾よりも遅いが、4人同時に相手をしているので、難易度的には同じくらいだ。
「こりゃきついな」
「死ねえ!」
「バズ、ウーンズ、バレッティア、マジョリカ!」
なんとか剣を避けながら、馬車を背にして護衛たちを俺の正面付近に集め、魔法をぶっ放した。少し頭がクラクラする。
護衛たちはマシンガンで撃たれたかのように踊ったが、4人ともすぐに起きあがってきた。
「だめか……」
「馬鹿か!その程度の腕で勝てると思ったのか!」
まあうさぎにも勝てなかったのだ、ダメ元で魔法を使ったが当然のように倒せなかった。俺はため息を吐く。
「仕方ない、奥の手だ!」
「何?」
俺は大きく息を吸い込み、
「虎子おおおおおおおおおおおお!!!」
ドン!!
俺が叫んでから1秒程しか経ってない、どんだけ近くに居たんだよ。
一部鉄格子の馬車の上に、ベンガルトラのような風貌の、巨大なチーターがどこからともなく降りたった。良かった、来なかったらどうしようかと思った。
「なっ!」
「なんだこれは!!」
「ま、魔物だ!」
馬車の屋根に立つ出立ちは、まるで百獣の王のように堂々としている。
ン〝ナ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝!
虎子が太った猫のような咆哮をあげると、馬は虎子の威圧に気圧され嘶くことも出来ずに気絶した。護衛や商人らしきやつも地面に尻餅をつき、小便を漏らしてる奴もいる。
「わるい、虎子。この捕まってる奴に色々聞きたいことがある。ちと手を貸してくれ」
『力も無いのに、馬鹿をするな。それに人の世ではこれは罪ではないのか?』
「罪だな」
『それでもか?』
「それでもだ」
『阿呆が。こんなことで呼びおって。妾をなんだと思ってるのだ』
「一生のパートナーかな」
虎子はぎょっとした顔で俺を見た。
『礼は要求するぞ』
「ああ」
むしろ出てくるタイミングを作ってやった俺に礼を言えと言いたかったが黙っておいた。
虎子が屋根から飛び降りる。
「ひっ!」
「あっ、あっ、はっ、はっ」
怯える者、呼吸困難になる者、既に気を失っている者。虎子はただ現れただけで全てを無力化した。
「あー、とりあえず殺すのは待とうか」
虎子は俺に振り返り、
『……、わかってるのか?証人が残るぞ』
「5000万で命を助けるって言っちまったからな。殺したら契約違反だ」
いくら日本の倫理観から見て、人道的に許されない奴隷商人たちだとしても、この世界では合法的な商売なのだろう。だとしたら悪人はこちらと言うことになる、更に皆殺しにするのは流石に気が引けた。
俺は気絶している商人の服を探り、鉄格子の鍵を手に入れた。そして鉄格子の鍵を開ける。
「……、漏らしてるし」
神山は気絶して小便をもらしていた。俺は虎子を見て、
「……運べる?」
『その臭いのを妾が?』
「ですよね」
虎子は明らかな拒否を顔に浮かべたので、俺は仕方なく神山を肩に担いだ。マジくさい。
そしてまだ意識のある護衛に向かい、
「命が助かっただけ儲けものと思える?」
コクコクコクコク
「なら、さよなら」
俺は自転車を【収納魔法】で収納し、神山を担いで虎子と共に森の中へと歩き出した。一体この3日間で何人の友人が消えたのだろうか。
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