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第2話 告白と沈黙

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 毎週決まった時間に待ち合わせて、二人で時間を過ごす。
 他愛ないおしゃべりをしたり、流行りのお店を冷やかしたり、一緒に大道芸をみたり、屋台の食べ物を分け合ったり。

 レンは相変わらず無表情。話し方もぶっきらぼうだった。

 でも、時々、ご褒美のように表情を崩す。私はその一瞬を見逃したくなくて、彼から目が離せない。

 レンの、やさしくない話し方が好き。飾らない仕草が好き。

 からかうとすねて視線を逸らすところとか、私がちょっと機嫌を悪くすると、無表情なのに困り切って自分の手を握りしめてるところとか(それですぐに許してあげるんだけど)もう、かわいくてたまらないのだ。

 一度かわいいと言ったら、口をきいてくれなくなってしまったので、かわいいは禁句だ。心の中で言うだけにしている。
 年下の守ってあげなくてはならない男の子だと思ってたのに、時々はっとするほど大人びた行動をとる。そのギャップも好き。



 もう半年、こんな毎日が続いてる。

 確かめたわけじゃないけど、レンも私のこと、好きなんじゃないかなって思う。

 じゃなきゃ、こんなに何度も会ってくれるわけない。はじめは、年上の恩人に対して断れないのかもと思って、さりげなーく会う頻度を減らそうか、とか提案したのだ。

 でも、レンはひどく嫌がって、1週間に1度のペースは守られることになった。

 その時の彼の無表情を崩して必死になる様にも、もちろんかなりやられてしまった。



 なにするのも楽しくて。
 レンと一緒にいるだけで、毎日が満たされて。

 ずっと一緒にいたい。私はレンとの将来を夢見るようになっていた。

 私は、男爵家の3女。もう18だ。平民に嫁ぐとかお父様はいい顔をしないと思うけど。
 でも、私が幸せになるなら目をつぶってくれると思う。それくらいには愛されてる自信がある。

 レンは、魔術の師匠のところに通っているという。魔術師を目指しているのかもしれないし、魔道具関係の商いをしているのかもしれない。
 詳しくは教えてもらっていない。魔術師は協会により守秘義務が厳しく定められていて、そのあたりのことはあまり話せないのだ。
 でも、平民でも魔術関係の仕事はそれなりに認められている職業だ。あまり心配はいらないと思う。



------------------

 そして、今日。

 ちょっと遠出をして、街を見下ろす丘にある公園で、私はレンにキスをされた。

 一緒に街を見下ろしていたレンはいつの間にかずっとこっちを見ていたらしい。
 視線を感じて私が顔を向けると、無表情だった彼はちょっと微笑んで。

 その貴重さに見惚れていると、彼の顔が近づいてきて、そして離れていったのだった。

 「こっここここんなのだめよ!」 

 何をされたか気が付くと顔に熱が上がってくる。
 あ、ダメとか言っちゃった。ほんとはうれしい。
 いや、でもこういのはいけないことだ。頭の中はしっちゃかめっちゃかだ。

「こ、婚約するまでこういうのはダメなの」

 というか、告白すらされていないのに私は何をいっているのだ?
 あれ? これって逆プロポーズ? 私の方から催促しちゃった?

 もうお互い駄々洩れだったとは思うけど、私ってばなんてことを!!
 さらに熱があがる。

「ってことは婚約者いないんだ」
「うっ」

 18で婚約者がいないのは、確かにほめられたことではない。
 そのせいで夜会とかいっぱいすっぽかしてる。

 からかってる? 違う、うれしそう。

「安心した。じゃあ、俺と一緒にいてよ。俺と婚約しなよ」

 告白すらスキップして婚約を申し込まれてしまった。

 ぶあっと体から顔から熱が広がった。
 いつもはぶっきらぼうな彼がはく甘い言葉に体がどんどん毒されていく。

 私は、こくんと頷いた。

 レンはそれはそれは素敵な笑顔で笑ってくれた。私はまたやられてしまった。

「レイアの家に挨拶に行くから、名前、教えて」

 彼がまた近づいてきて、耳元でささやかれる。

 そういえば、ちゃんと名乗ったことすらなかったんだ。レンも話せないことが多かったから、私も悔しくってあんまり話さなかった。
 彼も、私も、今日一歩進むんだ。

「レイア=ジェン=ボノセッティ」
「ボノセッティ……ボノセッティ……男爵家?」

 沈黙が下りる。
 一瞬、沈黙の理由がわからなかったが、はっとする。

 忘れてた。
 というか、気にしたこともなかった。

 平民にとっては、たとえ男爵家だったとしても、貴族は雲の上の存在だと思われてることを。

 顔を上げるのが怖かった。
 でも、レンは、レンなら、ちょっとびっくりしただけで、そんなこと気にしないって言ってくれるはず。
 私は意を決して顔を上げた。

 レンは……無表情だった。さっきまでの笑顔はどこに行ってしまったんだろう。

 私が欲しくて欲しくて、一生懸命引き出した彼の笑顔と彼の素顔が全くなくなってしまっていた。

 真っ白になった。耳鳴りがする。幸せのあとに、どん底に突き落とされたみたい。
 何も聞こえない。
 誤解をとかないと。うちのお父様は、平民でも、私が幸せになるならきっと許してくれる。簡単じゃないかもしれないけど、レンが、望んでくれるなら。二人で頑張れば。

 あれ? 頑張らなきゃ、いけないの? 私が頑張るのはいい。当然だ。
 でも、レンに頑張らせるのはどうなんだろう?

 レンは頑張りたいって思ってくれるのだろうか?
 レンはもしかしたら、頑張るほどじゃないって思ったのかも。レンの気持ちがそこまで強くないのかも。

 それでも私は言えるのだろうか?
 私がレンと一緒にいたいから、私のために頑張ってって。
 そんなの。そんな勝手なこと。
 そもそも私にはレンに頑張ってもらうだけの価値はあるんだろうか? 
 年上だし、貴族なんてめんどくさいだけかもしれないし。


 レンは、私をあきらめてしまうかもしれない。


 怖くて、怖くて、それ以上何も言えなくなって、私は駆け出してしまった。


 祈るしかできなかった。

 レン、私をあきらめないで、と。





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