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第二章 盾職人は異世界の起業家となる
第49話 男の嫉妬は見苦しい――となる。
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新しいメンバーが入ってから、早くも一週間が経過した。
メルダさんが来てくれたおかげで、滞りなく魔盾の生産が進んでいる。
ディーノさんもさすがS級冒険者だけあって、むずかしい『魔石に魔法を封じ込める作業』をいとも簡単にこなせていた。
マリーさんは――相変わらずドジっ子のままだけど、タローとサリアの助けもあって、なんとか仕事をこなせるようになっていた。
つまり、工房の経営はとても順調であるのだけど――
「そんなことができるんですね! ディーノさん、スゴいです!」
そんな声が奥から聞こえてきた。
「今日もアリシアさん、ご機嫌ですねぇ」
ボクのとなりで作業しているサムさんが、アリシアとディーノさんが楽しそうに会話しているので、苦笑いしながらそんなことを言ってくる。
「うん、そうだね」とボクは素っ気なく応えるのだけど、内心は穏やかではない。
ディーノさんの仕事ぶりになにか問題あるわけではない。だけど、あんなふうに仕事中、アリシアと話し込んでいては、彼女が他のことをできなくなる。
それに、他の人も彼らの会話のおかげで、気が散ってしまう。
ここは、経営者として、しっかり言わなければ――
そう、自分に言い聞かせて、二人のところに向かう。
「ディーノさん、調子はどうですか?」と、まずは当たり障りのない言葉をかける。
「はい、何の問題もありません。アリシアさんの教え方がウマいので、すぐにできるようになりました」
「教え方がウマいなんて、そんな――ディーノさんの理解力があるからですよ」
アリシアもうれしそうで、その様子を見てるとなんかイライラしてしまう。
「そう――」
「それと、ディーノさんからこれをもらいました!」
「――えっ?」
ディーノさんから?
見せられたのは木型。片面になにやら描かれているのだけど――
「これ、魔方陣の押し型なんです」
「魔方陣の押し型?」
「はい! こうして、地面の押し付けると――」
木型の模様が地面に転写され、魔方陣の一部が現れる。
「魔物の敵意を引き付ける魔法陣のいちばん細かい部分がこれであっという間に描けるんです!」
なんか、とても興奮している。
「これがあれば魔方陣を描く時間が一気に短縮できます。今までよりたくさん魔石が準備できますよ!」
「へえ――そうなんだ」
きっとスゴいことなんだということはボクにも理解できる。だけど、ディーノさんが作ったということで、素直に喜べなかった。
「いやあ、仲間の魔導士が魔方陣を描くのが面倒だからって、木型の魔方陣を作っていたんですよね。それをマネてみただけなんだけど――アリシアに喜んでもらってうれしいです」
アリシアって呼び捨てにするので、ムッとしてしまう。
「それじゃ、もうディーノさんだけで魔石の準備はできるということだね」
ボクはアリシアにそうたずねる。
「――えっ? ええ、そうですね。大丈夫だと思います」
「――そうか。なら、アリシアはマリーさんを手伝ってもらえるなか?」
「あ、はい。そうですね。そうします」
「それじゃ、よろしく――」
ボクはぶっきらぼうにそう伝えると、その場を離れた。
ああ――なんで、あんなふうにイヤ味っぽい言い方をしてしまったのだろうか――
そんなことを考えると、なおさらイライラしてしまうのだった。
今日はそんな感じで仕事が終わる。
そして、夕飯となった。
住み込みになったメルダさんも含めて、六人で食卓を囲んでいる。
「それでですね。ディーノさんがおもしろいんですよ。フ、フ、フ――」
アリシアがディーノさんの話題を出してきたので、思わず――
「ちょっと、黙って食べられないかなぁ?」とボクは言ってしまった。
「あ、すみません。そうですね……」
アリシアが申し訳ないと頭を下げる。
「なんだよ、ヒロト。イイじゃないか。食事はたのしくしゃべりながらのほうがおいしいだろ?」
タバサが文句を言う。いや、タバサのほうが正しい。ボクは、ディーノさんの話題が出たから、イライラしてそんなことを言ってしまったんだ。ボクのほうが悪いとわかっているのだけど、素直に謝れない。
なので、食べ終わる前に席を立ってしまう。
「なんか、食欲がない」
そう言って、ボクは自分の部屋へ行ってしまうのだった。
ああ――なんて、ボクは狭量な性格なんだ。自分でもイヤになる。
メルダさんが来てくれたおかげで、滞りなく魔盾の生産が進んでいる。
ディーノさんもさすがS級冒険者だけあって、むずかしい『魔石に魔法を封じ込める作業』をいとも簡単にこなせていた。
マリーさんは――相変わらずドジっ子のままだけど、タローとサリアの助けもあって、なんとか仕事をこなせるようになっていた。
つまり、工房の経営はとても順調であるのだけど――
「そんなことができるんですね! ディーノさん、スゴいです!」
そんな声が奥から聞こえてきた。
「今日もアリシアさん、ご機嫌ですねぇ」
ボクのとなりで作業しているサムさんが、アリシアとディーノさんが楽しそうに会話しているので、苦笑いしながらそんなことを言ってくる。
「うん、そうだね」とボクは素っ気なく応えるのだけど、内心は穏やかではない。
ディーノさんの仕事ぶりになにか問題あるわけではない。だけど、あんなふうに仕事中、アリシアと話し込んでいては、彼女が他のことをできなくなる。
それに、他の人も彼らの会話のおかげで、気が散ってしまう。
ここは、経営者として、しっかり言わなければ――
そう、自分に言い聞かせて、二人のところに向かう。
「ディーノさん、調子はどうですか?」と、まずは当たり障りのない言葉をかける。
「はい、何の問題もありません。アリシアさんの教え方がウマいので、すぐにできるようになりました」
「教え方がウマいなんて、そんな――ディーノさんの理解力があるからですよ」
アリシアもうれしそうで、その様子を見てるとなんかイライラしてしまう。
「そう――」
「それと、ディーノさんからこれをもらいました!」
「――えっ?」
ディーノさんから?
見せられたのは木型。片面になにやら描かれているのだけど――
「これ、魔方陣の押し型なんです」
「魔方陣の押し型?」
「はい! こうして、地面の押し付けると――」
木型の模様が地面に転写され、魔方陣の一部が現れる。
「魔物の敵意を引き付ける魔法陣のいちばん細かい部分がこれであっという間に描けるんです!」
なんか、とても興奮している。
「これがあれば魔方陣を描く時間が一気に短縮できます。今までよりたくさん魔石が準備できますよ!」
「へえ――そうなんだ」
きっとスゴいことなんだということはボクにも理解できる。だけど、ディーノさんが作ったということで、素直に喜べなかった。
「いやあ、仲間の魔導士が魔方陣を描くのが面倒だからって、木型の魔方陣を作っていたんですよね。それをマネてみただけなんだけど――アリシアに喜んでもらってうれしいです」
アリシアって呼び捨てにするので、ムッとしてしまう。
「それじゃ、もうディーノさんだけで魔石の準備はできるということだね」
ボクはアリシアにそうたずねる。
「――えっ? ええ、そうですね。大丈夫だと思います」
「――そうか。なら、アリシアはマリーさんを手伝ってもらえるなか?」
「あ、はい。そうですね。そうします」
「それじゃ、よろしく――」
ボクはぶっきらぼうにそう伝えると、その場を離れた。
ああ――なんで、あんなふうにイヤ味っぽい言い方をしてしまったのだろうか――
そんなことを考えると、なおさらイライラしてしまうのだった。
今日はそんな感じで仕事が終わる。
そして、夕飯となった。
住み込みになったメルダさんも含めて、六人で食卓を囲んでいる。
「それでですね。ディーノさんがおもしろいんですよ。フ、フ、フ――」
アリシアがディーノさんの話題を出してきたので、思わず――
「ちょっと、黙って食べられないかなぁ?」とボクは言ってしまった。
「あ、すみません。そうですね……」
アリシアが申し訳ないと頭を下げる。
「なんだよ、ヒロト。イイじゃないか。食事はたのしくしゃべりながらのほうがおいしいだろ?」
タバサが文句を言う。いや、タバサのほうが正しい。ボクは、ディーノさんの話題が出たから、イライラしてそんなことを言ってしまったんだ。ボクのほうが悪いとわかっているのだけど、素直に謝れない。
なので、食べ終わる前に席を立ってしまう。
「なんか、食欲がない」
そう言って、ボクは自分の部屋へ行ってしまうのだった。
ああ――なんて、ボクは狭量な性格なんだ。自分でもイヤになる。
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