上 下
45 / 60
第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第45話 赤毛の少女は謎だらけ――となる

しおりを挟む
 一時間後、王都物産にひとりの女性が現れる。ボクが面接したいと頼んだからだ。

 想像していたより若い。おそらく、二十代前半だろう――やせ形で、背はボクよりちょっと低いくらい。だから、百七十センチ弱だと思う。
 ただ、それよりも目についたのは髪の色。真っ赤――紅玉のようなツヤのある赤だった。それをボブカットにしてある。

「えーと、それじゃ最初にお名前を――」
 ボクは、その女性に質問した。

「メルダと言います」
「そのう、ファミリーネームは?」
「ファミリーネームはありません」

 ――えっ?

 となりに座る若ダンナを見る。すると、彼はうつむき、小さく頭を横に振った。
 どうやら、彼も同じことを言われたようだ。

「はあ……王都に来る前は帝都の帝国商会で働いていたということですが、その前はどちらに?」
「申し訳ありません。答えたくありません」

 うーん、これは本当に厄介だ。

「では、質問を変えます。帝都商会にはどのような経緯で働くことになったのでしょう?」

 大陸随一の商社ギルドである帝都商会が、このような身元不明な人物を雇うとは思えない。このような質問をすれば、ウソをついているかどうかわかると思ったのだけど――

「――五年前、帝国領の国境付近で、彷徨さまよっていた私をたまたま帝都商会のキャラバンが助けてくださり、キャラバンのリーダーであった方が、商会で働くように勧めてくださったのです。それから、商会であきないについて勉強させていただきました」

 もっともらしく語られるのだが――

「帝国の国境付近で彷徨っていた――ということですが、どうしてそんなところにいたのですか?」
「――答えたくありません」

「それじゃ、キャラバンのリーダーだった人の名前は?」
「ピーター・アブラハムさんです」

 若ダンナにその人物を知っているか、たずねると――

「はい、アブラハムさんは知っております。商会でナンバーツーだった人で、王国にも何度かやってきたことがあり、私もお会いしたことがあります」

「ナンバーツー?」
「アブラハムさんは三年前に一線を退しりぞき、今は帝国の郊外で小さな牧場を営んでいます」
 メルダという赤毛の女性はそう応える。

「――はい。私も別の人から同じ話を聞きました」と若ダンナ。
「そうですか……」

 女性のしっかりした受け答えから、口から出まかせを言っているようには思えないのだけど――
 答えない部分以外は――

「では、もうひとつ質問をさせてください。どうして、帝国商会をお辞めになり、王都にまでやってきたのです?」

「――すみません。それもお答えできません」

 ボクは「はあ……」とため息をついてしまう。

「ありがとうございました。私からの質問は以上です」
 そう伝えると、突然、彼女は頭を下げる。

「お願いです! どうか、私を雇ってください! 商会では商いの勉強をさせてもらって、発注業務と会計をやっておりました。かならずお役に立てるはずです! ですからどうか――」

 悲痛なまでの懇願に、ボクも戸惑ってしまう。

「だけど、何も答えてもらえないと――」
「あやしまれるのは当然です。ですが、私にやましい気持ちはありません! ですから、どうか――」

 ボクは頭を抱えてしまう。ふつうに考えれば、とても雇ってイイ相手ではない。だけど、これだけ一生懸命な相手を信じてみたいという気持ちもある。だから――

「わかりました。アナタを雇うことにします」
「――えっ?」
 メルダと若ダンナが同時に声を出す。

「ちょ、ちょっとヒロト君、こちらに――」

 そう言って、若ダンナはボクを部屋の外に連れ出した。

「本当にイイのか? 私からの紹介だからという気持ちで雇うのなら、そんな必要はないんだぞ?」
 そう言ってくれるのだけど、ボクは頭を横に振る。

「彼女のことを信じたくなったのです。これだけ強い気持ちで働きたいと言ってくれる人なんて、そうそういるとも思えません。たしかに、あやしいところばかりですけど、答えてくれた部分にウソはないと思うのです」

 若ダンナは少しだまったあと――

「わかった。ヒロト君の判断を尊重しよう。もちろん、紹介した私たちの責任を放棄するつもりはない。帝国商会の知り合いから、彼女のことについて情報を集めることにしよう」
 ボクは若ダンナの好意に「ありがとうございます!」と頭をさげた。

「いやいや、実は私も彼女の熱意に心打たれてね。キミが断ったら、ウチで雇おうかと考えていたところだったんだ」
「そうだったんですね」
 それを聞いて、ボクの考えは間違っていなかったとホッとする。

 それから、小部屋に戻ったボクたちは、メルダにあらためて雇う意志を示した。

「ありがとうございます!」と彼女は何度も頭を下げたあと――

「差し出がましいことはわかっているのですが、ひとつお願いしたいことが――」
 そう言われるので、ボクは身構えてしまう。

「え、えーと――なんでしょう?」
「私を住み込みで雇ってもらえませんか?」

「――えっ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

少女剣聖伝~伯爵家の跡取り令嬢ですが、結婚は武者修行のあとで考えます!~

白武士道
ファンタジー
「そなたは伯爵家の跡取りだ。元服した後は速やかに婿を取り、男児を産む義務がある」 地方貴族であり古流剣術の宗家でもあるベルイマン伯爵家の一人娘、ローザリッタ。 結婚を期待される年齢となったが、彼女は大人になったらどうしてもやりたいことがあった。 それは剣の道を極めるための『武者修行』。 安全・快適な屋敷を飛び出し、命を懸けた実戦に身を投じることだった。 猛反対を受けても自分を曲げない娘に痺れを切らした父は、ローザリッタに勝負を持ち掛ける。 できれば旅立ち。できなければ結婚。単純明快な二者択一。 果たして、ローザリッタは旅立つことができるのか? そして、そこまでローザを武者修行に駆り立てるものは何なのか? 令嬢と銘打つものの、婚約破棄も悪役令嬢もざまぁもありません。ごりごりの剣技だけで無双するお嬢様の冒険活劇、ここに開幕! ※カクヨム様(原作版)、小説家になろう様にも掲載しています。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

偽勇者扱いされて冤罪をかぶせられた俺は、ただひたすらに復讐を続ける

大沢 雅紀
ファンタジー
勇者の血を引きながら、戦闘力がないせいで偽勇者扱いされ、照明師として新たに召喚された勇者光司にこきつかわれていたライト。やっとの思いで魔王を倒し、国に凱旋したとき、身に覚えのない冤罪をかけられて奴隷に落とされてしまう。偽勇者として国中を引き回された後、故郷の村にもどされるが、そこには新たなダンジョンができていた……。勇者が魔王に転生するとき、すさまじい復讐の嵐が王国を襲う。魔王になってしまった勇者による復讐記 目次 連載中 全53話 2022年11月15日 08:51 更新 冤罪編

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...