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第二章 盾職人は異世界の起業家となる
第45話 赤毛の少女は謎だらけ――となる
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一時間後、王都物産にひとりの女性が現れる。ボクが面接したいと頼んだからだ。
想像していたより若い。おそらく、二十代前半だろう――やせ形で、背はボクよりちょっと低いくらい。だから、百七十センチ弱だと思う。
ただ、それよりも目についたのは髪の色。真っ赤――紅玉のようなツヤのある赤だった。それをボブカットにしてある。
「えーと、それじゃ最初にお名前を――」
ボクは、その女性に質問した。
「メルダと言います」
「そのう、ファミリーネームは?」
「ファミリーネームはありません」
――えっ?
となりに座る若ダンナを見る。すると、彼はうつむき、小さく頭を横に振った。
どうやら、彼も同じことを言われたようだ。
「はあ……王都に来る前は帝都の帝国商会で働いていたということですが、その前はどちらに?」
「申し訳ありません。答えたくありません」
うーん、これは本当に厄介だ。
「では、質問を変えます。帝都商会にはどのような経緯で働くことになったのでしょう?」
大陸随一の商社ギルドである帝都商会が、このような身元不明な人物を雇うとは思えない。このような質問をすれば、ウソをついているかどうかわかると思ったのだけど――
「――五年前、帝国領の国境付近で、彷徨っていた私をたまたま帝都商会のキャラバンが助けてくださり、キャラバンのリーダーであった方が、商会で働くように勧めてくださったのです。それから、商会で商いについて勉強させていただきました」
もっともらしく語られるのだが――
「帝国の国境付近で彷徨っていた――ということですが、どうしてそんなところにいたのですか?」
「――答えたくありません」
「それじゃ、キャラバンのリーダーだった人の名前は?」
「ピーター・アブラハムさんです」
若ダンナにその人物を知っているか、たずねると――
「はい、アブラハムさんは知っております。商会でナンバーツーだった人で、王国にも何度かやってきたことがあり、私もお会いしたことがあります」
「ナンバーツーだった?」
「アブラハムさんは三年前に一線を退き、今は帝国の郊外で小さな牧場を営んでいます」
メルダという赤毛の女性はそう応える。
「――はい。私も別の人から同じ話を聞きました」と若ダンナ。
「そうですか……」
女性のしっかりした受け答えから、口から出まかせを言っているようには思えないのだけど――
答えない部分以外は――
「では、もうひとつ質問をさせてください。どうして、帝国商会をお辞めになり、王都にまでやってきたのです?」
「――すみません。それもお答えできません」
ボクは「はあ……」とため息をついてしまう。
「ありがとうございました。私からの質問は以上です」
そう伝えると、突然、彼女は頭を下げる。
「お願いです! どうか、私を雇ってください! 商会では商いの勉強をさせてもらって、発注業務と会計をやっておりました。かならずお役に立てるはずです! ですからどうか――」
悲痛なまでの懇願に、ボクも戸惑ってしまう。
「だけど、何も答えてもらえないと――」
「あやしまれるのは当然です。ですが、私にやましい気持ちはありません! ですから、どうか――」
ボクは頭を抱えてしまう。ふつうに考えれば、とても雇ってイイ相手ではない。だけど、これだけ一生懸命な相手を信じてみたいという気持ちもある。だから――
「わかりました。アナタを雇うことにします」
「――えっ?」
メルダと若ダンナが同時に声を出す。
「ちょ、ちょっとヒロト君、こちらに――」
そう言って、若ダンナはボクを部屋の外に連れ出した。
「本当にイイのか? 私からの紹介だからという気持ちで雇うのなら、そんな必要はないんだぞ?」
そう言ってくれるのだけど、ボクは頭を横に振る。
「彼女のことを信じたくなったのです。これだけ強い気持ちで働きたいと言ってくれる人なんて、そうそういるとも思えません。たしかに、あやしいところばかりですけど、答えてくれた部分にウソはないと思うのです」
若ダンナは少し黙ったあと――
「わかった。ヒロト君の判断を尊重しよう。もちろん、紹介した私たちの責任を放棄するつもりはない。帝国商会の知り合いから、彼女のことについて情報を集めることにしよう」
ボクは若ダンナの好意に「ありがとうございます!」と頭をさげた。
「いやいや、実は私も彼女の熱意に心打たれてね。キミが断ったら、ウチで雇おうかと考えていたところだったんだ」
「そうだったんですね」
それを聞いて、ボクの考えは間違っていなかったとホッとする。
それから、小部屋に戻ったボクたちは、メルダにあらためて雇う意志を示した。
「ありがとうございます!」と彼女は何度も頭を下げたあと――
「差し出がましいことはわかっているのですが、ひとつお願いしたいことが――」
そう言われるので、ボクは身構えてしまう。
「え、えーと――なんでしょう?」
「私を住み込みで雇ってもらえませんか?」
「――えっ?」
想像していたより若い。おそらく、二十代前半だろう――やせ形で、背はボクよりちょっと低いくらい。だから、百七十センチ弱だと思う。
ただ、それよりも目についたのは髪の色。真っ赤――紅玉のようなツヤのある赤だった。それをボブカットにしてある。
「えーと、それじゃ最初にお名前を――」
ボクは、その女性に質問した。
「メルダと言います」
「そのう、ファミリーネームは?」
「ファミリーネームはありません」
――えっ?
となりに座る若ダンナを見る。すると、彼はうつむき、小さく頭を横に振った。
どうやら、彼も同じことを言われたようだ。
「はあ……王都に来る前は帝都の帝国商会で働いていたということですが、その前はどちらに?」
「申し訳ありません。答えたくありません」
うーん、これは本当に厄介だ。
「では、質問を変えます。帝都商会にはどのような経緯で働くことになったのでしょう?」
大陸随一の商社ギルドである帝都商会が、このような身元不明な人物を雇うとは思えない。このような質問をすれば、ウソをついているかどうかわかると思ったのだけど――
「――五年前、帝国領の国境付近で、彷徨っていた私をたまたま帝都商会のキャラバンが助けてくださり、キャラバンのリーダーであった方が、商会で働くように勧めてくださったのです。それから、商会で商いについて勉強させていただきました」
もっともらしく語られるのだが――
「帝国の国境付近で彷徨っていた――ということですが、どうしてそんなところにいたのですか?」
「――答えたくありません」
「それじゃ、キャラバンのリーダーだった人の名前は?」
「ピーター・アブラハムさんです」
若ダンナにその人物を知っているか、たずねると――
「はい、アブラハムさんは知っております。商会でナンバーツーだった人で、王国にも何度かやってきたことがあり、私もお会いしたことがあります」
「ナンバーツーだった?」
「アブラハムさんは三年前に一線を退き、今は帝国の郊外で小さな牧場を営んでいます」
メルダという赤毛の女性はそう応える。
「――はい。私も別の人から同じ話を聞きました」と若ダンナ。
「そうですか……」
女性のしっかりした受け答えから、口から出まかせを言っているようには思えないのだけど――
答えない部分以外は――
「では、もうひとつ質問をさせてください。どうして、帝国商会をお辞めになり、王都にまでやってきたのです?」
「――すみません。それもお答えできません」
ボクは「はあ……」とため息をついてしまう。
「ありがとうございました。私からの質問は以上です」
そう伝えると、突然、彼女は頭を下げる。
「お願いです! どうか、私を雇ってください! 商会では商いの勉強をさせてもらって、発注業務と会計をやっておりました。かならずお役に立てるはずです! ですからどうか――」
悲痛なまでの懇願に、ボクも戸惑ってしまう。
「だけど、何も答えてもらえないと――」
「あやしまれるのは当然です。ですが、私にやましい気持ちはありません! ですから、どうか――」
ボクは頭を抱えてしまう。ふつうに考えれば、とても雇ってイイ相手ではない。だけど、これだけ一生懸命な相手を信じてみたいという気持ちもある。だから――
「わかりました。アナタを雇うことにします」
「――えっ?」
メルダと若ダンナが同時に声を出す。
「ちょ、ちょっとヒロト君、こちらに――」
そう言って、若ダンナはボクを部屋の外に連れ出した。
「本当にイイのか? 私からの紹介だからという気持ちで雇うのなら、そんな必要はないんだぞ?」
そう言ってくれるのだけど、ボクは頭を横に振る。
「彼女のことを信じたくなったのです。これだけ強い気持ちで働きたいと言ってくれる人なんて、そうそういるとも思えません。たしかに、あやしいところばかりですけど、答えてくれた部分にウソはないと思うのです」
若ダンナは少し黙ったあと――
「わかった。ヒロト君の判断を尊重しよう。もちろん、紹介した私たちの責任を放棄するつもりはない。帝国商会の知り合いから、彼女のことについて情報を集めることにしよう」
ボクは若ダンナの好意に「ありがとうございます!」と頭をさげた。
「いやいや、実は私も彼女の熱意に心打たれてね。キミが断ったら、ウチで雇おうかと考えていたところだったんだ」
「そうだったんですね」
それを聞いて、ボクの考えは間違っていなかったとホッとする。
それから、小部屋に戻ったボクたちは、メルダにあらためて雇う意志を示した。
「ありがとうございます!」と彼女は何度も頭を下げたあと――
「差し出がましいことはわかっているのですが、ひとつお願いしたいことが――」
そう言われるので、ボクは身構えてしまう。
「え、えーと――なんでしょう?」
「私を住み込みで雇ってもらえませんか?」
「――えっ?」
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