37 / 60
第二章 盾職人は異世界の起業家となる
第37話 内見となる
しおりを挟む
シャルロット殿下とジェシカさんが持ってきたお話を詳しく聞くために、ボクとアリシアは王宮へ向かった。
「この工房は彫刻師の名人が使っていたのだが、先月、引退して田舎へ帰ったんだ」
ボクたちはスチュワート殿下から直々に工房を案内してもらっていた。
荷物はすでに前の主が持ち帰っていて、残った家具や備品の整理や清掃を終えたばかりだとか。
「ここをボクたちに貸していただけると?」
ボクとアリシアは顔を見合わせる。それは、工房というより小さなお屋敷。部屋の数はざっと十を超えており、前の主がアトリエとして使っていたという居間は、二、三十人ほどの人が集まってパーティーを開けるくらい広い。
「あのう……ちょっと、大きくありませんか?」
アリシアが恐縮しながらスチュワート殿下に申し上げる。
「なに、大きいことに越したことはない。もちろん家賃は取らないよ」
「家賃を払わなくてもいいのですか?」
ここは、王室が支援する芸術家の工房だから、その経費は王室の予算から出るそうだ。
「掃除が面倒だというのなら、使用人を雇えばいい。その給料も王室から出してあげよう」
「えっ? 使用人のお給料も⁉」
「つまり、二人は王室お抱えの職人になるということだ」
「えっ? 王室お抱え⁉」
いままで王室が支援してきたのは、彫刻や絵画、それに音楽家のような芸術家ばかりだった。なので、武器に関わる職人を王宮の工房に招き入れたことは、今までなかったらしい。つまり、初めて王室が抱える職人となるわけだ。
「まあ、それだけヒロト君たちがこの王国にとって重要な人物だと判断してのことなのだよ」
魔盾のウワサは既に他国まで及んでいた。おそらく魔族にも知られていることだろう。魔盾の情報を盗もうと、他国の諜報部員が動いている可能性だってある。「ヒロト君たちの命を狙ってくる者もいるかもしれない――」なんて、殿下は説明するのだった。
「えっ? ボクたちの命を⁉」
「実際に、キミ達の工房近くで不穏な人物を見かけたと、見回っていた衛兵から連絡があった」
「は、はあ……」
きっと、それはタバサのことだな……ボクは苦笑いする。
「という事情もあって、キミ達には一刻も早く、こちらへ移り住んでほしい」
皇太子殿下にそう言われ、もはや断ることもできなくなったボクたち。だからといって、こんなに大きな工房を二人で住むなんて……
そのとき、ボクは「はっ――」と思い、アリシアに耳元でささやいた。
「えっ?」
アリシアは最初、おどろいた表情を見せたが、「それはイイ考えだと思います!」と笑顔で言ってくれた。だから、ボクは殿下にあるお願いをする。
「実は、今日から一緒に仕事をしてくれる人たちができたんです。その人たちも一緒に住んでもらってイイですか?」
もちろん、タバサたちのことだ。
「えっ? うーん。まずはその人たちの素性を確認してからになるな……」
スチュワート殿下は悩ましい表情を見せる。なので、ボクは一緒にいたシャルロット殿下とジェシカさんに、タバサたちのことを説明してほしいと頼んだ。
「そうか……話はわかった。だけど、やはり陛下と宰相の許可を取ってからになる」
まあ多分、大丈夫だという話を殿下がしてくれたので、ボクたちは大喜びする。
「それじゃ、さっそく帰って、タバサたちの考えを聞くことにしよう!」
「この工房は彫刻師の名人が使っていたのだが、先月、引退して田舎へ帰ったんだ」
ボクたちはスチュワート殿下から直々に工房を案内してもらっていた。
荷物はすでに前の主が持ち帰っていて、残った家具や備品の整理や清掃を終えたばかりだとか。
「ここをボクたちに貸していただけると?」
ボクとアリシアは顔を見合わせる。それは、工房というより小さなお屋敷。部屋の数はざっと十を超えており、前の主がアトリエとして使っていたという居間は、二、三十人ほどの人が集まってパーティーを開けるくらい広い。
「あのう……ちょっと、大きくありませんか?」
アリシアが恐縮しながらスチュワート殿下に申し上げる。
「なに、大きいことに越したことはない。もちろん家賃は取らないよ」
「家賃を払わなくてもいいのですか?」
ここは、王室が支援する芸術家の工房だから、その経費は王室の予算から出るそうだ。
「掃除が面倒だというのなら、使用人を雇えばいい。その給料も王室から出してあげよう」
「えっ? 使用人のお給料も⁉」
「つまり、二人は王室お抱えの職人になるということだ」
「えっ? 王室お抱え⁉」
いままで王室が支援してきたのは、彫刻や絵画、それに音楽家のような芸術家ばかりだった。なので、武器に関わる職人を王宮の工房に招き入れたことは、今までなかったらしい。つまり、初めて王室が抱える職人となるわけだ。
「まあ、それだけヒロト君たちがこの王国にとって重要な人物だと判断してのことなのだよ」
魔盾のウワサは既に他国まで及んでいた。おそらく魔族にも知られていることだろう。魔盾の情報を盗もうと、他国の諜報部員が動いている可能性だってある。「ヒロト君たちの命を狙ってくる者もいるかもしれない――」なんて、殿下は説明するのだった。
「えっ? ボクたちの命を⁉」
「実際に、キミ達の工房近くで不穏な人物を見かけたと、見回っていた衛兵から連絡があった」
「は、はあ……」
きっと、それはタバサのことだな……ボクは苦笑いする。
「という事情もあって、キミ達には一刻も早く、こちらへ移り住んでほしい」
皇太子殿下にそう言われ、もはや断ることもできなくなったボクたち。だからといって、こんなに大きな工房を二人で住むなんて……
そのとき、ボクは「はっ――」と思い、アリシアに耳元でささやいた。
「えっ?」
アリシアは最初、おどろいた表情を見せたが、「それはイイ考えだと思います!」と笑顔で言ってくれた。だから、ボクは殿下にあるお願いをする。
「実は、今日から一緒に仕事をしてくれる人たちができたんです。その人たちも一緒に住んでもらってイイですか?」
もちろん、タバサたちのことだ。
「えっ? うーん。まずはその人たちの素性を確認してからになるな……」
スチュワート殿下は悩ましい表情を見せる。なので、ボクは一緒にいたシャルロット殿下とジェシカさんに、タバサたちのことを説明してほしいと頼んだ。
「そうか……話はわかった。だけど、やはり陛下と宰相の許可を取ってからになる」
まあ多分、大丈夫だという話を殿下がしてくれたので、ボクたちは大喜びする。
「それじゃ、さっそく帰って、タバサたちの考えを聞くことにしよう!」
22
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜
フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」
貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。
それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。
しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。
《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。
アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。
スローライフという夢を目指して――。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
婚約破棄された悪役令嬢は最強の冒険者を目指す
平山和人
ファンタジー
伯爵家の令嬢クロエは卒業パーティーの席で婚約者から婚約破棄を言い渡されるが、あっさり受け入れる。
クロエは転生者であり、断罪ルートを迎える運命にあった。それを回避すべく婚約破棄されるように仕向けたのであった。
家を追い出されたクロエは長年の夢であった冒険者になるために冒険者の街アーガスを目指す。
冒険者として活動していく中、クロエは様々なイケメンから愛されるのであった。
創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜
雅
ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】
【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。
異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ!
そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる!
転移した先には絶世の美女ステラ!
ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ!
勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと?
いずれあさひが無双するお話です。
二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。
あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。
ざまぁはかなり後半になります。
小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。
私は途中で仮装をやめましたが、周りはハロウィンが好きで毎日仮装を続けていると思ったら……?
珠宮さくら
ファンタジー
ユズカは、家族で行った旅行先で天涯孤独の身の上になってしまった。10歳の時だった。
病院で途方に暮れるユズカのところに祖父母に世話になったという老女が現れて、彼女をおばあちゃんと呼んで世話になることに決めたことで、歯車はそこで回り続けることになった。
その世界が、ユズカの生まれ育った世界とは違っていることに本人が気づかないまま成長していくことになるとは思いもしなかった。
それこそ、とんでもない勘違いをしたまま、ユズカはその世界で存分に生きることになって、徐々に勘違いも解けていくのだが……。
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった
九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた
勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った
だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった
この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 11/22ノベル5巻、コミックス1巻刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる