上 下
14 / 50
第一章 盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる

第14話 スタンピード! となる

しおりを挟む
 スタンピード――
 魔物が大挙して向かってくる現象のことである。

 一カ月から二カ月に一回、大規模なスタンピードが王都近くまでやってくる。時には王都の城壁内にも入り込んで、大きな被害をもたらすこともあった。

 現地人で構成する騎士団と王都に残る召喚人しょうかんびとの冒険者たちが、防衛のため戦うのだが、毎回、多数の犠牲者が出てしまう。

 前回、王都近くで発生したスタンピードでは、召喚人の冒険者も百人近くが亡くなったそうだ。王都内にも魔物が入り込み、市民にも犠牲者が出る大惨事になってしまったのである。

 だんだんスタンピードの規模が大きくなっているという情報もあり、冒険者ギルド、騎士団が警戒していたのだが――

「こうしてはいられない――」と、ボクは下ろしたばかりの魔盾をもう一度荷車の上に乗せ始めた。

「どうするのですか?」
「ありったけの在庫を持って、城門の外に行くんだ!」

 魔物と戦って、盾が壊れることもある。そんな冒険者のために盾を無償で配るんだと説明する。

「えっ? そんなことをしたら、ヒロトさんが損するんじゃないですか⁉」
「そうだけど、戦いに負けたら、損だなんて言ってられないからね」

 王都を守るために、自分もやれることをやりたいんだ――そう伝えた。

「そうなんですね。わかりました! 私も手伝います!」
 アリシアも盾を荷車に乗せ始める。

「ありがとう! アリシアさん!」
「いえ、私もお役に立ちたいんです!」

 盾を乗せ終わると、二人で城門へ向かう。
 城門近くは、逃げてくる一般市民と、外へ向かう冒険者や騎士たちで大変な騒ぎになっていた。

「危ないだろ! どけ!」
 殺気だった冒険者や逃げ惑う市民たちが、荷車を引っ張るボクたちに文句を言う。

「きゃあ!」
 後方から荷台を押していたアリシアに、逃げてきた中年の男がぶつかってきて、彼女が倒される。
「邪魔なんだよ! このやろ!」
 そう言い捨てて、王都の中心部へと走っていった。

「アリシアさん、大丈夫⁉」
「はい……大丈夫です」

 混乱しているから仕方ないのかもしれないけど、こっちもみんなを守るためにガンバっているのに――そう思うと、ちょっとやるせなくなる。

 気を取り直して、城門の外に出た。すでに魔物の群れがここからでも見える。しかし、応戦する冒険者がどんどん増えてきていた。今は膠着こうちゃく状態というところだ。

 それが一時間くらい続くと、冒険者側にもケガ人が現れ、城門前に運ばれて治癒魔法をかけてもらっている姿が増えてきた。

「よし、ボクらもがんばろう」
「はい!」
 アリシアもやる気を見せている。

「盾が必要な人はこちらを持っていってください!」
「盾あります!」
 そう二人で叫んだ。

「盾をもらえるか⁉」
 剣士の男性冒険者がそう言って、ボクに近づいてきた。
「はい、どうぞ!」
「ありがたい――ん? なんだ、これ? 魔石か?」
「はい! 盾に魔力を込めて使用してください。魔物の敵意が盾に引き付けられます」
 そう伝えると、その冒険者はちょっと顔をしかめる。どういう意味なのか理解できない様子だった――が、「わかった、やってみる」と言って、再び戦線に駆け出した。

「よし、この調子で!」
「はい!」

 それからも、盾をほしがる冒険者が次々と現れる。彼ら全員に魔盾まじゅんの説明をすると、半信半疑ながら「試してみる!」と言ってくれた。
 あっという間に準備した二十枚がなくなる。

 それからは戦況を見守るしかなかった二人だった。だけど、あきらかに魔物を押し返している様子がうかがえる。戦線がココからどんどん遠ざかっていた。

「――どうやら、勝てたようだね」
「はい、そのようです」
 アリシアもホッとした表情を見せる。

 冒険者たちが何人もこちらに戻ってきた。魔物は退散したようだ。
「勝ててよかったですね!」
 アリシアが笑顔で言うので、ボクも「うん、よかった!」とほほ笑んだ。

「じゃあ、帰るか」
 そう言って、荷車をUターンさせた時。こっちに向かってくる冒険者が見えた。

「おいキミたち! 盾をくれたキミたち!」
「えっ? あ、はい?」
「よかった間に合って。お礼を言いにきたんだ」
「お礼?」

 そう言われて、最初に魔盾をあげた冒険者だったと思い出す。
「ああ、この盾スゴいな!」

「――えっ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...