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第七話 追跡したらしい

その七

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 サバスは考える――

 電撃の効かないメイド姿の女はいったい何だったんだ?


 王女が目的だったのは間違いないだろう――が単身で敵中に入ってきて結果的には呆気なく殺られている。獣人族の身体能力が高いとは聞いていたが、とんだ間抜けだった。

 王女の護衛役だったのか? もしくは自分達以外に王女の身柄を狙っている別の組織なのだろうか……

 捕まえて事情を聞き出してから殺せば良かったが、今からではもう遅い。


 とにかく王女を狙う女は始末できた。しかし――

 代償が大きい。

 馬車を失う羽目になったサバス達。

 勝手な行動をした部下には後で罰を与えるとして、これからがどうするか……

「仕方ない……馬車を奪う」
 サバスは次に通り掛かる馬車を襲うと言う。それまで待てと仲間に指示した……

 しかし――


「すみません――フィスを返してもらえますか?」

 燃え盛る馬車の中から声がした⁉
 それを聞いたサバス達はギョッとする。

 まさかそんな……
 この炎の中で生きているはずはない――なのに、確かに女の声がした。

 グシャア‼

 馬車が焼け崩れる――と、炎の中に人影らしきモノが見えた。

 もちろん、エルである。

 まるで何事もなかったような涼しい顔で現れ、こちらに向かってくる。

「いえ……とっても熱……」
 だからやめなさい……

「バ……バケモノ!」
 一人がそう言葉に出した。他の仲間も同じ気持ちだろう……

「いえ、たぬきですが……いえ、たぬきでもないですが……」
 支離滅裂な説明をするエルだが、もう誰も聞いていない……

「お前……いったい何者だ⁉」
 サバスが言う。

 ――あー。また?

 いったい、このフレーズを聞いたのは何回目だろうか……エルは少々ウンザリしていた。

「フィスの状態はどうですか?」

 エルは小声でハーミットにたずねる。

『呼吸、心拍数は特に……あー、なるほどね』
 エルが「何ですか?」と改めて確認するのだが、『音声に気をつけて』とだけ言われる。

「……?」

 意味が良くわからないが、とりあえずそうするエル。


「それ以上近付くな! これを見ろ!」

 サバスは杖を取り出し、横たわっているフィスのに当てて、そう告げる。

「もし変な動きをすれば、この娘の脳に直接電撃を加える」

 さすがにそんなことをされたら、脳障害が起こる。

 いくらエルが相手の詠唱より速く動けると言っても、敵六人全員の動きを封じてフィスを救出するのはリスクが大きい。ここは相手に従うしかない。


「まずは後ろを向け」

 言われた通りに後ろを向くエル。

 サバスは指示を続ける。

「よし……それではそのまままっすぐ前に向かって歩き続けろ。もし振り向いたり、立ち止まったり、他の動きをしたら、この娘はどうなるか、わかるな?」
 サバスが少々長い指示を出す。

 その時――誰も気付かなかったが――フィスの唇が微かに動いていた。


「……了解しました」
 エルはそう応えると、サバスはエルが従うつもりだと理解したのだろう。少し笑みが溢れる。

 刹那――

 エルが突然振り向きこちらに向かって来た!

 サバスは驚く――こいつ、人質はどうでも良いのか?

 それなら、望み通りにしてやるまでだ。

 サバスは詠唱を開始して、フィスに電撃を加えようと――

「⁉」

 自分の杖の下にいたフィスが忽然と消えた――

 いや、消えたわけではない。エルがこちらに向かってきたタイミングで、フィスは体を捻り、二転三転してサバスから離れたのだ。
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