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第七話 追跡したらしい

その四

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 エルの頭の中に、が浮かび上がる。なぜ、洗脳とドボルグが関係あるのか?

 ハーミットがそれについて説明する。

『つまり、フィスをトルトから追い出すことで、フィスに接触し易くなる――そして、突然町を追い出されたという不安、ドボルグに対する怒り。そういった負の感情も生まれる。自分を見捨てた養父母や町のみんなに対する不満も期待したのかもしれない……』

 接触し易くなる――ということは当然エルにも理解できる。しかし、後半は良くわからない。

 確かに不安やドボルグに対する怒りはわかるが……


 ハーミットが説明を続ける。
『対象の精神状態によって洗脳が簡単な場合と難しい場合があるの。不安、怒り、不満。こういった負の感情が強い場合、マインドコントロールが容易で洗脳されやすい……ということね』
 なるほど、そういうことか……洗脳を容易にするために、ドボルグを利用したのだ。

『逆に満足、幸福感、こういった精神状態の時にはマインドコントロールが難しく、より強力な洗脳が必要になる……』
 つまり、ドボルグの件が失敗したことによってフィスを洗脳することが難しくなった――そういうことだろう。

 エルはたずねる。
「洗脳が難しいとわかっているのに、古代聖神教が強硬な手段に出た――ということは、それだけ相手も追い詰められている……ということでしょうか?」

『そうかもしれないし、そうとも言い切れない』

 煮え切らない答えのハーミット――いったいそれは?

『恐らく、組織としてはもう別の策を企てているのかもね……だから、今回は失敗してもいい』

 エルは不思議に思う。別の方法があるなら、白昼の誘拐なんてリスクの高い作戦を強硬する理由がわからない。

 それについてもハーミットが答える。
『しかし、今回の件が失敗で終わると、実行部隊を指揮している者にとって組織の中での立場が悪くなる――それで強硬手段に出た。組織としては失敗しても影響無いから、実行部隊の好きにさせている――そんなところじゃないかな?』

 つまり、自分の出世のために周りを巻き込んでいるということか……何処にでもそういう人間はいるんだなあ……と思うエル。


 別の質問をする。
「……もし、フィスの洗脳が失敗したらどうなるのですか?」

『より強い洗脳をやろうとするだろうね――魔法による洗脳がどのくらい強力なのかわからないけど、フィスは自我が強そうだからね……最終的には精神が破壊されてしまうんじゃないかな?』

 それは大変だとエルは思った。


『最初の質問に戻るけど――なぜ、王国復興という大義が必要か……恐らく、この作戦に加わっている勢力は、ということかな?』

「……それって、帝国と敵対する国――ということですか?」

 敵国を攻める大義に第三国の要請による――というのはよくあることだ。

『国とは限らないけどね。皇帝に逆らう貴族派だったり……とにかく、表の顔があり、その戦力を動かすためには、どんなくだらないモノでも大義という名目が必要な組織』
 ハーミットはさらに付け加える。
『まあ、古代聖神教の戦力だけでは、恐らく帝国に立ち向うことはできない……ということだろうね……テロで世界は動かせない――ということかな?』

 逆に言えば、古代聖神教という、いわゆるテロ集団は、帝国と対等の戦力を持つ国か組織とつながりがあるということだ……


 これは根が深いなあ……と思うエルであった。
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