29 / 50
第四話 魔法や剣技を教えてもらえるらしい
その四
しおりを挟む
フィス達がラクシ亭に帰って来ると、マリアが泣きながらフィスに抱き付く。
「フィスちゃん! 無事で良かったぁ!」
「えっ⁉ いったいどうしたの?」
訳もわからず面食らうフィス。
「どうしたって、あの爆発音聞こえなかったの? 二つ向こうの山が吹っ飛んだって話よ! また、災害級モンスターが現れたんじゃないかって、町は大騒ぎなのよ」
「ああ……あれね。確かにすごい音だったわね……」
フィスの目は泳いでいたが、マリアには気付かれなかったようだ……
「でも二人とも無事で良かったわ……そうそうお客様よ」
涙を拭きながら、奥のテーブルにいる二人を見るマリア。
「フィスちゃん、お久しぶりー!」
少女の声だ。落ち着いた声だが、フィスと同じ年齢、もしくは少し年上か?
その少女は席から立ち上がり、フィスに向かって手を振っている。
「アリゼ⁉ 帰ってきてたんだ!」
フィスはアリゼと呼んだ少女に抱きついた。
フィスより少し背が高く、灰色の修道服を着ている――ということは、彼女は神官職ということのようだ。
まだあどけなさが残る顔だが、修道服という落ち着いた見た目の効果もあり、フィスより大人びた雰囲気がある。
「今、トルトに帰って来たところなの。真っ先にフィスちゃんに会いたくて、パパのところより先にこっちに来ちゃった!」
「……えっ?」
さすがにちょっと……特にあの子煩悩の父親なら、アリゼが自分より先に別のところへ行った――なんて知ったら、仕事そっち抜けで、アリゼを探しに来るはずだ……
厄介事が増える前にアリゼを教会へ帰らせないと……そう、フィスが考えていた矢先……
店の扉が「バンッ‼」とすごい音で開くと、神父の格好をしたひげ面の男性が入ってくる。
「アリゼっ‼ 帰ってきたのなら、何故、真っ先にパパのところに来ないんだよーーーっ‼」
アリゼの父親、テオドール・グルボアである。彼は、フィスを突き飛ばしてアリゼに抱き付く。
「ただいま……って、もう! 抱き付かないで!」
アリゼはテオドールの頭を手で押さえ付けて離そうとした。
「そんなぁ……パパ、パパっていつもくっ付いて離れなかったアリゼがどうしたんだよぅ?」
「いったい、いつの話をしているのよ⁉」
どんなに仲の良い父娘でも、思春期の娘の扱いは難しいらしい……
まったく、この父娘ときたら……と、頭を掻くフィス。
「おじさん……ところで仕事はいいの?」
フィスがテオドールに話し掛けると、それまで、デレデレだったオヤジ顔が急に引き締まり、僅かな微笑みを蓄えた、クールなナイスミドルの顔に変貌する。
「これはフィスちゃん。今日はどうしてここに?」
「いや、ここ私の家だから……それで、仕事は?」
テオドールはクールさを保ちながら、丁寧に応える。
「大丈夫だよ。フィスちゃん。先ほど、冒険者が一人運ばれて来たけど、ほんの右腕が切り落とされたくらいだから」
校閲で指摘されそうな、補語の使い方はやめてください。
「まあ大変! フィスちゃんまたあとでね」
言葉とは裏腹にアリゼは笑顔のまま、楽しそうに手を振って教会へ帰って行った。まったく、この親にしてこの子あり……である。
この世界では、治癒魔法はもっぱら神官の仕事である。
別に神官でなくても治癒魔法は行える。だが、攻撃魔法に比べ、習得に時間を要することが多い。
また、攻撃魔法は、いつでもどこでも、一人でも練習できるのに対し、治癒魔法は治癒の対照がないと術が発動しない。
そのため、怪我人が運び込まれる教会で修行する方が上達が早くなる。つまり、神官見習いが治癒魔導士への近道になり、必然的に神官の治癒魔導士が多くなる。
また、宗教的な意味合いもある。
この世界で最も信者の多い聖神教は、唯一神でこの世界を創造したと言われる女神アスタリアを信仰する。
死後、アスタリアの住まう神の世界に行くためには、現世で善行を重ねる必要がある――という教えだ。
それを教える神官が、他人を治癒するという善行を行うことで、有難味も増すというモノだ。
アリゼは父の血を受け継ぎ、治癒魔法の才能があった。そのため、小さい頃から治癒の仕事を手伝っていたのだ。
そして十五になる来年の春を前に、ニグレアで二ヶ月修行を行い、洗礼を受けてきた。
宗教的には立派なシスターとなったのだが、職業としては十五になって正式に神官となる。
父テオドールは、元々ニグレアで司祭をしていたのだが、二年前にこのトルトに移り住んだ。将来、司教が約束された身であった――のだが、妻が原因不明の病気になったのを機に、自然豊かなこの地へ、出世を捨ててやってきた。
妻は昨年この世を去ったのだが、彼らはそのままこの地に残っている。
非常に優秀な男で、枢機卿からも一目置かれているらしい。
特に治癒魔法は旧王国でもトップクラスの腕前だ。
彼がこの地にいることは、冒険者にとっても心強い。
ただ、度の過ぎた子煩悩は困りモノで、妻が亡くなった後は特に酷くなった。
「フィスちゃん! 無事で良かったぁ!」
「えっ⁉ いったいどうしたの?」
訳もわからず面食らうフィス。
「どうしたって、あの爆発音聞こえなかったの? 二つ向こうの山が吹っ飛んだって話よ! また、災害級モンスターが現れたんじゃないかって、町は大騒ぎなのよ」
「ああ……あれね。確かにすごい音だったわね……」
フィスの目は泳いでいたが、マリアには気付かれなかったようだ……
「でも二人とも無事で良かったわ……そうそうお客様よ」
涙を拭きながら、奥のテーブルにいる二人を見るマリア。
「フィスちゃん、お久しぶりー!」
少女の声だ。落ち着いた声だが、フィスと同じ年齢、もしくは少し年上か?
その少女は席から立ち上がり、フィスに向かって手を振っている。
「アリゼ⁉ 帰ってきてたんだ!」
フィスはアリゼと呼んだ少女に抱きついた。
フィスより少し背が高く、灰色の修道服を着ている――ということは、彼女は神官職ということのようだ。
まだあどけなさが残る顔だが、修道服という落ち着いた見た目の効果もあり、フィスより大人びた雰囲気がある。
「今、トルトに帰って来たところなの。真っ先にフィスちゃんに会いたくて、パパのところより先にこっちに来ちゃった!」
「……えっ?」
さすがにちょっと……特にあの子煩悩の父親なら、アリゼが自分より先に別のところへ行った――なんて知ったら、仕事そっち抜けで、アリゼを探しに来るはずだ……
厄介事が増える前にアリゼを教会へ帰らせないと……そう、フィスが考えていた矢先……
店の扉が「バンッ‼」とすごい音で開くと、神父の格好をしたひげ面の男性が入ってくる。
「アリゼっ‼ 帰ってきたのなら、何故、真っ先にパパのところに来ないんだよーーーっ‼」
アリゼの父親、テオドール・グルボアである。彼は、フィスを突き飛ばしてアリゼに抱き付く。
「ただいま……って、もう! 抱き付かないで!」
アリゼはテオドールの頭を手で押さえ付けて離そうとした。
「そんなぁ……パパ、パパっていつもくっ付いて離れなかったアリゼがどうしたんだよぅ?」
「いったい、いつの話をしているのよ⁉」
どんなに仲の良い父娘でも、思春期の娘の扱いは難しいらしい……
まったく、この父娘ときたら……と、頭を掻くフィス。
「おじさん……ところで仕事はいいの?」
フィスがテオドールに話し掛けると、それまで、デレデレだったオヤジ顔が急に引き締まり、僅かな微笑みを蓄えた、クールなナイスミドルの顔に変貌する。
「これはフィスちゃん。今日はどうしてここに?」
「いや、ここ私の家だから……それで、仕事は?」
テオドールはクールさを保ちながら、丁寧に応える。
「大丈夫だよ。フィスちゃん。先ほど、冒険者が一人運ばれて来たけど、ほんの右腕が切り落とされたくらいだから」
校閲で指摘されそうな、補語の使い方はやめてください。
「まあ大変! フィスちゃんまたあとでね」
言葉とは裏腹にアリゼは笑顔のまま、楽しそうに手を振って教会へ帰って行った。まったく、この親にしてこの子あり……である。
この世界では、治癒魔法はもっぱら神官の仕事である。
別に神官でなくても治癒魔法は行える。だが、攻撃魔法に比べ、習得に時間を要することが多い。
また、攻撃魔法は、いつでもどこでも、一人でも練習できるのに対し、治癒魔法は治癒の対照がないと術が発動しない。
そのため、怪我人が運び込まれる教会で修行する方が上達が早くなる。つまり、神官見習いが治癒魔導士への近道になり、必然的に神官の治癒魔導士が多くなる。
また、宗教的な意味合いもある。
この世界で最も信者の多い聖神教は、唯一神でこの世界を創造したと言われる女神アスタリアを信仰する。
死後、アスタリアの住まう神の世界に行くためには、現世で善行を重ねる必要がある――という教えだ。
それを教える神官が、他人を治癒するという善行を行うことで、有難味も増すというモノだ。
アリゼは父の血を受け継ぎ、治癒魔法の才能があった。そのため、小さい頃から治癒の仕事を手伝っていたのだ。
そして十五になる来年の春を前に、ニグレアで二ヶ月修行を行い、洗礼を受けてきた。
宗教的には立派なシスターとなったのだが、職業としては十五になって正式に神官となる。
父テオドールは、元々ニグレアで司祭をしていたのだが、二年前にこのトルトに移り住んだ。将来、司教が約束された身であった――のだが、妻が原因不明の病気になったのを機に、自然豊かなこの地へ、出世を捨ててやってきた。
妻は昨年この世を去ったのだが、彼らはそのままこの地に残っている。
非常に優秀な男で、枢機卿からも一目置かれているらしい。
特に治癒魔法は旧王国でもトップクラスの腕前だ。
彼がこの地にいることは、冒険者にとっても心強い。
ただ、度の過ぎた子煩悩は困りモノで、妻が亡くなった後は特に酷くなった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる