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第三話 未曾有の危機は突然やってくるらしい

その四

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 文明を滅ぼすとされる天災級モンスター、ゴブリンロードを前にして、意気消沈する衛兵と冒険者達。ただ一人、希望を捨てようとしない者がいた。

「だからといって、黙って殺られるつもりはない! 君たちもそうではないのか⁉」
 エドワースがそう叫ぶ。ここにいる者達を鼓舞するように。
 
「畜生‼ やってやる!」

「俺もやるぞ!」

 冒険者も衛兵も関係無く、自分の気持ちを奮い立たせた。


 しかし、その奮起も一瞬で崩れ去る。

 ゴブリンロードが吐き出した高熱のブレス。それが、一直線にエドワースへと向かった!

 不意を突かれ、エドワースの防御が一瞬遅れる。

 辛うじて魔剣で受け止め、ブレスの射線を上空へ向けることに成功――だが、完全な防御とはならない。両手に大きな火傷を負うことになった……

「くっ……」
 エドワースは剣を地面に落とし、膝をつく。


「エドワース!」

 フィスが叫んだ。衛兵も、冒険者も、エドワースが負傷したことで先程までの覇気が失せてしまい、恐怖が先立つようになる。

 ゴブリンロードがもう一度高熱のブレスをエドワースに向けて吐き出した!

 火傷を負ったエドワースの両腕に、剣を握れる力は残っていない。
 向かってくる炎の塊に対抗する手段はなく、エドワースは黙ってそれが届くのを待った――


 バアーーン‼


 物凄い爆発音がエドワースの居た位置から発する!


「うわぁーーーーっ‼ もうダメだあ!」

 冒険者が一斉に逃げ出す。エドワースが負ければ、もう人間に勝ち目などない。


 衛兵と魔導士達はこの国を守ってるという誇りにかけて、その場に留まっていた――が、ゴブリンロードに立ち向かおうという気力はもう残ってなかった。

「ヤハリ、ソノ男ガ人間ドモノカナメダッタカ……シカシ、モウソノ男ハ死ンダ。ドウスル? 人間ドモヨ…………ン?」

 エドワースが居た場所に舞い上がった黒煙と土煙が徐々に晴れる――とそこにエドワースがいた。まだ生きている!

 そしてフィスが――


 ブレスがエドワースにまで到達する僅かな時間に、フィスは魔法障壁を展開した。それも、五重の障壁だ。しかし、三つ目までの障壁は破壊され四つ目も穴が空き、最後の一枚にもヒビが入っていた。

 辛うじて防いだというところだ。

 相手が死んでいなかったことに少し驚いた表情を見せたゴブリンロードであったが、魔法障壁を展開したのがフィスだと気づき、二人に近づく。


「人間ノ小娘ヨ。ヨクゾ私ノ攻撃ヲ防イダ」

 ゴブリンロードは歩みを進めながら、そうフィスに語り掛けた。

「シカシ、残念ダ――モウ、オマエノ頑張リハ無駄ニナル。去ラバダ……」

 天災級モンスターは片足を持ち上げると、その大きな足で二人を踏み潰そうとした。


(もうダメ……)


 フィスは身を屈める……




 しかし、いくら経っても上から押し潰されることはない――

 恐る恐る見上げた――すると、そこに立っている者がいる。

 黒のスカートとニーソックス。

 薄茶色の尻尾がゆっくりと揺れていた。

「エル‼」

「どうも……遅くなりました」
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