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第四章 王宮
第四十五話
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その男がラングレー家に現れたのは一カ月ほど前――母親の愛人だと説明する。
「母親の愛人だと?」
母親は商売で父親が家を留守にしていることをイイことに、男を連れ込んで遊んでいた。男はそんな愛人の一人だった。母親にはルガーと名乗っていたその男、いかにも怪しいので、彼女に男の心を読んでもらった――ここからはエリオットの作り話――
「そしたら、『プレセルタ』という言葉が何度も出てきたらしいです。そういえば、アレスト校長暗殺がどうのこうのという話もしていたとか――」
「な、なんだと!?」
王立学校校長で魔法省長官でもあるヘルマイヤ・アレストの暗殺未遂事件は公表されていない。その話が出てきたということは……どうやらこの少年、ウソをついているわけではなさそうだ――そう、メックリンガーは考える。
「……その男がマスケラなのだな?」
「はい、おそらく――」
おそらくとはなんだ? と急かすメックリンガー。
「屋敷に出入りしていたルガーとは鼻と唇の印象が違っていたのですが、きっと、『幻影』のスキルで顔の印象を変えているのでしょう」
「幻影だと? そんなレアなスキルを持っているのか?」
闇属性のスキルをいくつか獲得しているようだ――そう、自分の考えを伝える。
「そして、『精神支配』のスキルも――」
「な、なんだと!? ヤツは魔族なのか!?」
「落ち着いてください、将軍。そんな大声を出されては、外に聞こえてしまいます」
エリオットは執務室に入るときに人払いをお願いした。今、注目されている国務尚書の正体についてである。内密にするのは当然だ。
「魔族ですか……実のところ……」
「実のところ? いったい、なんなんだ?」
メックリンガーの問いに、「いえ、なんでもありません」と伝えて――
「そのような人物が国務尚書に任命された――ということは、国王陛下も『精神支配』されているのでは――と、僕は危惧してます」
うーん……と唸るメックリンガー。魔族のスキル――そんなものが実在するのか? いや、しかし、この少年の言っていることが正しいのなら、マスケラを失脚できる。それどころか、陛下を誑かした罪で極刑になることは間違いない。
メックリンガーもマスケラが怪しいと思っていた。思いたかった。この少年のネタは願ってもない。だからといって――
「……おい娘、本当に人の心が読めるのか?」
「えっ? え、えーと……」
しどろもどろになるタバサ。ただ、それは想定内だ。
「彼女は極度な人見知りなんで――そうですね。なら、ここで証明してみましょうか? 例えば、将軍の知られたくない秘密とか……」
「なっ!」
急に顔が青ざめるメックリンガー。それを見たエリオットはタバサだけに思念を送る。
『タバサ、赤ちゃんプレイ――て、言ってみて』
「……? 赤ちゃんプレイ……ですか?」
「う、うわ――――っ!」
その言葉を聞いたメックリンガーが取り乱す。ニヤリとするエリオット――『他にはね……』とまた、思念伝達で話す。
「……まだ、他にもあるんですか?」
「わ、わかった!! 信じる! 信じるから、もうやめろ!」
軍のトップである人物が小娘の前で両手をバタバタさせた。
「……なかなか、良い趣味をお持ちのようですね……将軍」
清々しい笑顔を相手に向ける。メックリンガーは、魂の抜けたような表情だ。
「――少年、ひとつ聞いてイイか?」
エリオットが「何でしょう?」と言うと――
「なぜ、マスケラのことを私に教えた?」
そういう疑問も出てくるだろうということも想定済みだ。エリオットはこのように話す。
「僕の弟が行方不明という事件は知っていますか?」
そう聞いてメックリンガーは「ああ……」とつぶやく。ラングレーという名に聞き覚えがあるのはそのためか――と納得する……ラングレー子爵の息子が数日前から行方不明だと、衛兵隊本部から報告を受けていたのだ。
「もう、弟は死んでいます」
「――なぜ、そう思う?」
「だって、僕からルガーに弟を殺してほしいと頼んだのですから」
「――なっ!?」
話はこうだ――
ルガーがプレセルタの一員であることを知ったジークフリードは、それを口外しないことを約束する代わりに、ルガーに弟の殺害を依頼した――
「わかりましたか? 僕が衛兵ではなく、将軍へこれを伝えにきた理由を――」
「マスケラ――ヤツの真実を教える引き換えに、自分が弟殺しの共犯であることを隠蔽してほしい……ということだな?」
「話が早くて助かります」
ジークフリード――しつこいようだが、中身はエリオット――は白々しく頭を下げた。
メックリンガーは思考を巡らす。相手は貴族の息子。自分の恥ずかしい嗜好も知ってしまった。下手に衛兵へ渡すわけにもいかない――
「――わかった。そこはウマく取りはからう」
「ありがとうございます」
「し、しかし、あのこと――儂の……は絶対に内緒にするのだぞ」
「もちろんですよ、将軍」
はあ……とため息をつくメックリンガー。
「話はそれだけか」
エリオットが「はい」と伝えると、退室するように言われた。
「……あ、もう一つイイですか?」
「ま、まだあるのか?」
「ロードスター伯爵に面会させてほしいのですが?」
自分は伯爵家と面識があるので、顔が見たいのだと伝えた。
「なんだ、そんなことか……」
メックリンガーは自分のサインを入れたメモを渡した。
「どうも、ありがとうございます」
頭を下げ、二人は執務室を後にした。
「母親の愛人だと?」
母親は商売で父親が家を留守にしていることをイイことに、男を連れ込んで遊んでいた。男はそんな愛人の一人だった。母親にはルガーと名乗っていたその男、いかにも怪しいので、彼女に男の心を読んでもらった――ここからはエリオットの作り話――
「そしたら、『プレセルタ』という言葉が何度も出てきたらしいです。そういえば、アレスト校長暗殺がどうのこうのという話もしていたとか――」
「な、なんだと!?」
王立学校校長で魔法省長官でもあるヘルマイヤ・アレストの暗殺未遂事件は公表されていない。その話が出てきたということは……どうやらこの少年、ウソをついているわけではなさそうだ――そう、メックリンガーは考える。
「……その男がマスケラなのだな?」
「はい、おそらく――」
おそらくとはなんだ? と急かすメックリンガー。
「屋敷に出入りしていたルガーとは鼻と唇の印象が違っていたのですが、きっと、『幻影』のスキルで顔の印象を変えているのでしょう」
「幻影だと? そんなレアなスキルを持っているのか?」
闇属性のスキルをいくつか獲得しているようだ――そう、自分の考えを伝える。
「そして、『精神支配』のスキルも――」
「な、なんだと!? ヤツは魔族なのか!?」
「落ち着いてください、将軍。そんな大声を出されては、外に聞こえてしまいます」
エリオットは執務室に入るときに人払いをお願いした。今、注目されている国務尚書の正体についてである。内密にするのは当然だ。
「魔族ですか……実のところ……」
「実のところ? いったい、なんなんだ?」
メックリンガーの問いに、「いえ、なんでもありません」と伝えて――
「そのような人物が国務尚書に任命された――ということは、国王陛下も『精神支配』されているのでは――と、僕は危惧してます」
うーん……と唸るメックリンガー。魔族のスキル――そんなものが実在するのか? いや、しかし、この少年の言っていることが正しいのなら、マスケラを失脚できる。それどころか、陛下を誑かした罪で極刑になることは間違いない。
メックリンガーもマスケラが怪しいと思っていた。思いたかった。この少年のネタは願ってもない。だからといって――
「……おい娘、本当に人の心が読めるのか?」
「えっ? え、えーと……」
しどろもどろになるタバサ。ただ、それは想定内だ。
「彼女は極度な人見知りなんで――そうですね。なら、ここで証明してみましょうか? 例えば、将軍の知られたくない秘密とか……」
「なっ!」
急に顔が青ざめるメックリンガー。それを見たエリオットはタバサだけに思念を送る。
『タバサ、赤ちゃんプレイ――て、言ってみて』
「……? 赤ちゃんプレイ……ですか?」
「う、うわ――――っ!」
その言葉を聞いたメックリンガーが取り乱す。ニヤリとするエリオット――『他にはね……』とまた、思念伝達で話す。
「……まだ、他にもあるんですか?」
「わ、わかった!! 信じる! 信じるから、もうやめろ!」
軍のトップである人物が小娘の前で両手をバタバタさせた。
「……なかなか、良い趣味をお持ちのようですね……将軍」
清々しい笑顔を相手に向ける。メックリンガーは、魂の抜けたような表情だ。
「――少年、ひとつ聞いてイイか?」
エリオットが「何でしょう?」と言うと――
「なぜ、マスケラのことを私に教えた?」
そういう疑問も出てくるだろうということも想定済みだ。エリオットはこのように話す。
「僕の弟が行方不明という事件は知っていますか?」
そう聞いてメックリンガーは「ああ……」とつぶやく。ラングレーという名に聞き覚えがあるのはそのためか――と納得する……ラングレー子爵の息子が数日前から行方不明だと、衛兵隊本部から報告を受けていたのだ。
「もう、弟は死んでいます」
「――なぜ、そう思う?」
「だって、僕からルガーに弟を殺してほしいと頼んだのですから」
「――なっ!?」
話はこうだ――
ルガーがプレセルタの一員であることを知ったジークフリードは、それを口外しないことを約束する代わりに、ルガーに弟の殺害を依頼した――
「わかりましたか? 僕が衛兵ではなく、将軍へこれを伝えにきた理由を――」
「マスケラ――ヤツの真実を教える引き換えに、自分が弟殺しの共犯であることを隠蔽してほしい……ということだな?」
「話が早くて助かります」
ジークフリード――しつこいようだが、中身はエリオット――は白々しく頭を下げた。
メックリンガーは思考を巡らす。相手は貴族の息子。自分の恥ずかしい嗜好も知ってしまった。下手に衛兵へ渡すわけにもいかない――
「――わかった。そこはウマく取りはからう」
「ありがとうございます」
「し、しかし、あのこと――儂の……は絶対に内緒にするのだぞ」
「もちろんですよ、将軍」
はあ……とため息をつくメックリンガー。
「話はそれだけか」
エリオットが「はい」と伝えると、退室するように言われた。
「……あ、もう一つイイですか?」
「ま、まだあるのか?」
「ロードスター伯爵に面会させてほしいのですが?」
自分は伯爵家と面識があるので、顔が見たいのだと伝えた。
「なんだ、そんなことか……」
メックリンガーは自分のサインを入れたメモを渡した。
「どうも、ありがとうございます」
頭を下げ、二人は執務室を後にした。
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