31 / 59
第二章 王都ブリド
第三十一話
しおりを挟む
ここから脱出する方法はある――エリオットは居間にいる全員に作戦を説明した。
「どうした! 返事がないのなら、ドアを破壊するぞ!」
ずいぶんと乱暴なことを言う衛兵。エリオットはその声に聞き覚えがあった。
(たしか、王都警備隊長のゲルツ――)、冒険者から衛兵へ転身した人物だと聞いている。
入隊後もさまざまな作戦に参加して異例の出世をしたそうだ。ギルバートの話では「打算的だが、自分に利益があると考えた相手は裏切らない男」らしい。それにしても――
(なんだ? このムカムカした気分は……)
ゲルツの声を聞くだけで、何か憤りを感じ苦しくなる――
「エリオット? どうしたの?」
セシルが心配して声をかけてきたのだが、『大丈夫』と応えて――
『それではクラウスさん、お願いします』
中から返事がないため、「かまわん。ドアをたたき壊せ!」と、中年太りで口ひげを生やしたゲルツが指示すると、衛兵が斧を持ち出す。それを振り上げたタイミングで――
突然ドアが開き、クラウスを先頭に使用人たちが一斉に出てきた!
「な、なんだ!? どうした!?」
「お、男が屋敷に侵入してきて、夫人とご令嬢を人質に立てこもっています!」
「な、なんだと――!」
(ヨシ! これで少し時間が稼げる――)いくら国王の勅書があると言っても、事件となれば別だ。状況を確認するまで数分は入ってこないだろう。
その間に裏口から逃げ出す――という魂胆だ。
「ちょっと……裏口も衛兵がいっぱいよ」
セシルが小声で伝えるが、エリオットは想定内だという――
『アンリエッタさんは気配遮断を使いながら殿下と一緒に飛び出してください。僕はおばさん、セシル、タバサと出ます』
エリオットの指示にアンリエッタは「それじゃ、ダメだ!」と焦った声で言う。
「気配遮断でも見えていると言っただろ! 見張りに気配遮断は効かない!」
「大丈夫です――これで――」
そうエリオットが言った途端――
バタバタっ!
裏口を見張っていた衛兵が全員倒れる!
「ど、どうしたんだ!?」
『眠ってもらいました』
「――えっ?」
『メリーという羊の姿をしたモンスターを知ってますか?』
「ああ、相手を眠らせる厄介なモンスター……ってまさか――」
そのまさか――である。エリオットは『誘眠』という『アビリティー』を使ったのだ!
裏口の状況を表にいる衛兵たちが気づかないうちに、全員屋敷から飛び出した。王都の城門もやはり『気配遮断』で突破する。
『もう大丈夫だ』
王都から一キロほど離れた小高い丘までやってきて、一息ついた。
「――ねえ……あれって火事?」
セシルが気づき、エリオットにたずねる。街中に煙が上がっている。
『ちょ、ちょっと待て……あの場所って……』
「そ、そんな……私の家……なの?」
間違いない――ロードスター伯爵の屋敷が燃えているのだ。呆然とするマーガレット夫人に、セシルが抱き付いて泣いた。
『ま、まさか……そこまでやるとは……』
エリオットは悪霊になって初めて――と言ってイイ――怒りの感情が溢れてくる。
(ルガー……お前だけは絶対に許さない――)
「どうした! 返事がないのなら、ドアを破壊するぞ!」
ずいぶんと乱暴なことを言う衛兵。エリオットはその声に聞き覚えがあった。
(たしか、王都警備隊長のゲルツ――)、冒険者から衛兵へ転身した人物だと聞いている。
入隊後もさまざまな作戦に参加して異例の出世をしたそうだ。ギルバートの話では「打算的だが、自分に利益があると考えた相手は裏切らない男」らしい。それにしても――
(なんだ? このムカムカした気分は……)
ゲルツの声を聞くだけで、何か憤りを感じ苦しくなる――
「エリオット? どうしたの?」
セシルが心配して声をかけてきたのだが、『大丈夫』と応えて――
『それではクラウスさん、お願いします』
中から返事がないため、「かまわん。ドアをたたき壊せ!」と、中年太りで口ひげを生やしたゲルツが指示すると、衛兵が斧を持ち出す。それを振り上げたタイミングで――
突然ドアが開き、クラウスを先頭に使用人たちが一斉に出てきた!
「な、なんだ!? どうした!?」
「お、男が屋敷に侵入してきて、夫人とご令嬢を人質に立てこもっています!」
「な、なんだと――!」
(ヨシ! これで少し時間が稼げる――)いくら国王の勅書があると言っても、事件となれば別だ。状況を確認するまで数分は入ってこないだろう。
その間に裏口から逃げ出す――という魂胆だ。
「ちょっと……裏口も衛兵がいっぱいよ」
セシルが小声で伝えるが、エリオットは想定内だという――
『アンリエッタさんは気配遮断を使いながら殿下と一緒に飛び出してください。僕はおばさん、セシル、タバサと出ます』
エリオットの指示にアンリエッタは「それじゃ、ダメだ!」と焦った声で言う。
「気配遮断でも見えていると言っただろ! 見張りに気配遮断は効かない!」
「大丈夫です――これで――」
そうエリオットが言った途端――
バタバタっ!
裏口を見張っていた衛兵が全員倒れる!
「ど、どうしたんだ!?」
『眠ってもらいました』
「――えっ?」
『メリーという羊の姿をしたモンスターを知ってますか?』
「ああ、相手を眠らせる厄介なモンスター……ってまさか――」
そのまさか――である。エリオットは『誘眠』という『アビリティー』を使ったのだ!
裏口の状況を表にいる衛兵たちが気づかないうちに、全員屋敷から飛び出した。王都の城門もやはり『気配遮断』で突破する。
『もう大丈夫だ』
王都から一キロほど離れた小高い丘までやってきて、一息ついた。
「――ねえ……あれって火事?」
セシルが気づき、エリオットにたずねる。街中に煙が上がっている。
『ちょ、ちょっと待て……あの場所って……』
「そ、そんな……私の家……なの?」
間違いない――ロードスター伯爵の屋敷が燃えているのだ。呆然とするマーガレット夫人に、セシルが抱き付いて泣いた。
『ま、まさか……そこまでやるとは……』
エリオットは悪霊になって初めて――と言ってイイ――怒りの感情が溢れてくる。
(ルガー……お前だけは絶対に許さない――)
57
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
世界で俺だけがダンジョンを攻略できるだと?! ピコハン頑張る!
昆布海胆
ファンタジー
村の不作で口減らしにダンジョンに捨てられたピコハンは世界でただ一人、魔物を倒すとその存在力を吸収して強くなれる存在であった。
これは世界に存在するダンジョンを唯一攻略できるピコハンがダンジョンを攻略していく物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
闇属性は変態だった?〜転移した世界でのほほんと生きたい〜
伊藤ほほほ
ファンタジー
女神によって異世界へと送られた主人公は、世界を統一するという不可能に近い願いを押し付けられる。
分からないことばかりの新世界で、人々の温かさに触れながら、ゆっくりと成長していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる