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第二章 王都ブリド

第三十一話

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 ここから脱出する方法はある――エリオットは居間にいる全員に作戦を説明した。

「どうした! 返事がないのなら、ドアを破壊するぞ!」

 ずいぶんと乱暴なことを言う衛兵。エリオットはその声に聞き覚えがあった。
(たしか、王都警備隊長のゲルツ――)、冒険者から衛兵へ転身した人物だと聞いている。
 入隊後もさまざまな作戦に参加して異例の出世をしたそうだ。ギルバートの話では「打算的だが、自分に利益があると考えた相手は裏切らない男」らしい。それにしても――

(なんだ? このムカムカした気分は……)

 ゲルツの声を聞くだけで、何か憤りを感じ苦しくなる――

「エリオット? どうしたの?」

 セシルが心配して声をかけてきたのだが、『大丈夫』と応えて――

『それではクラウスさん、お願いします』

 中から返事がないため、「かまわん。ドアをたたき壊せ!」と、中年太りで口ひげを生やしたゲルツが指示すると、衛兵がおのを持ち出す。それを振り上げたタイミングで――
 突然ドアが開き、クラウスを先頭に使用人たちが一斉に出てきた!

「な、なんだ!? どうした!?」
「お、男が屋敷に侵入してきて、夫人とご令嬢を人質に立てこもっています!」
「な、なんだと――!」

(ヨシ! これで少し時間が稼げる――)いくら国王の勅書があると言っても、事件となれば別だ。状況を確認するまで数分は入ってこないだろう。
 その間に裏口から逃げ出す――という魂胆だ。

「ちょっと……裏口も衛兵がいっぱいよ」

 セシルが小声で伝えるが、エリオットは想定内だという――

『アンリエッタさんは気配遮断を使いながら殿下と一緒に飛び出してください。僕はおばさん、セシル、タバサと出ます』

 エリオットの指示にアンリエッタは「それじゃ、ダメだ!」と焦った声で言う。

「気配遮断でも見えていると言っただろ! 見張りに気配遮断は効かない!」
「大丈夫です――これで――」

 そうエリオットが言った途端――

 バタバタっ!

 裏口を見張っていた衛兵が全員倒れる!

「ど、どうしたんだ!?」
『眠ってもらいました』
「――えっ?」
『メリーという羊の姿をしたモンスターを知ってますか?』
「ああ、相手を眠らせる厄介なモンスター……ってまさか――」

 そのまさか――である。エリオットは『誘眠』という『アビリティー』を使ったのだ!

 裏口の状況を表にいる衛兵たちが気づかないうちに、全員屋敷から飛び出した。王都の城門もやはり『気配遮断』で突破する。

『もう大丈夫だ』

 王都から一キロほど離れた小高い丘までやってきて、一息ついた。

「――ねえ……あれって火事?」

 セシルが気づき、エリオットにたずねる。街中に煙が上がっている。

『ちょ、ちょっと待て……あの場所って……』
「そ、そんな……私の家……なの?」

 間違いない――ロードスター伯爵の屋敷が燃えているのだ。呆然ぼうぜんとするマーガレット夫人に、セシルが抱き付いて泣いた。

『ま、まさか……そこまでやるとは……』

 エリオットは悪霊になって初めて――と言ってイイ――怒りの感情が溢れてくる。

(ルガー……お前だけは絶対に許さない――)
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