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第一章 ゲハルトの大森林

第三話

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『オマエ……ヲ、……ベタイ……』

(……………………えっ?)
 なんかしゃべった!

『オマエヲ、タベサセロ……』

 うわっ……気持ち悪い……
 だんだんと人の形になり、手らしきモノが伸びてきた!

(これって……悪霊?)

 ウワサには聞いていた。魔力が満ちた場所で命を落とした者が、悪霊化して人を襲うと……それにしてもデカい! 巨人トロールほどの大きさだ。
 悪霊の手をかわす。カラダがない分、こっちも身軽だ!

『タベタイ!』

 なんか、相手の動きも良くなってきた。このまま逃げ回っていてもラチが明かない。
 攻撃する方法はないのか? 試しに魔法を使ってみる。

(――フレイム)

 ボウッ!
 悪霊に炎がまとわり付く!

『ウギャー!!』

 悲鳴らしき声が響く! 魔法が効いているようだ。

(良し! いけるぞ!)

 何度かフレイムを打ち込むと、相手の『気』が小さくなっていると察した。
(このまま、相手を『消滅』させよう!)
 ありったけの魔力を打ち込もうとしたとき、相手の悪霊がボウッと明るくなる――

「……………………」

 何かつぶやいている。魔法詠唱っぽいが――次の瞬間、激しい衝撃に襲われる。

(うわあぁっ!)

 カミナリの直撃を受けたような――といっても、実際に受けたことはないが……そんな、電撃に似たイメージだ。(これって――)
 今の魔法陣、そして光の色。最近、学校の授業で見た覚えがある。

(まさか、ホーリー?)

 もう一度、悪霊が詠唱を始めた!
(なんで、悪霊がホーリーを使うんだよ!)

 光属性は信仰系魔法と言われるくらい、聖職者が得意とする魔法。その攻撃魔法であるホーリーは、アンデットやゴースト系のモンスターには特に効果があった。

『ウギャー!!』

 再びホーリーを受けて、思わず悲鳴をあげてしまう。

(マズい、マズいぞ……何か手を打たないと……)

 ホーリーは射程範囲の狭さが欠点なのだが、今、自分は半径十メートル圏内から出られない――つまり、ホーリーの格好な餌食だ。

(逃げられないなら、防御魔法を!)

 強化魔法の一つ、防御魔法の『プロテクト』を発動させる。数回なら物理攻撃でも魔法攻撃でも防げる。その間に、相手を弱らせるのだ。何度かフレイムを打ち込む間に、相手もホーリーで攻撃してくる――が、防御魔法の効果で、ダメージはほとんどない。

(良し! 肉体がなくても防御してくれるぞ!)

 しだいに相手が疲弊し、攻撃してこなくなった。
(勝負ありだな――)
 これで最後――というときに、悪霊が何かをつぶやいているのを聞いた。

『俺ヲ吸収シロ……』

 ……キュウシュウ?
 どういう意味かわからない――もう少し聞いてみる。

『コノママ、消滅ハイヤダ。恨ミヲ晴ラサズニ終ワレナイ――吸収デ俺ヲ取リ込メ』

 それって、この悪霊を自分の中に取り込め――っていうこと? そんなことをして、大丈夫なのか? 自分の自我は保てる? そもそも、どうやって取り込む?
 もっと、初心者でもわかるように説明してもらえないだろうか? そんなことを考えるが、コミュニケーションが取れるような相手でもない。

(えーい! もうどうなっても知らないからな!)

 吸収――取り入れる、摂取、食べると連想する。そこで、口からモノを食べるイメージで悪霊を飲み込んだ。

『アリガトウ――コレデ、オレノ……』
『ワタシノ……』
『ボクノ……』
『オモイトチカラヲキミニ託ス!』

(うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)

 たくさんの記憶が入り込んできて、パニックになる!
(なんなんだぁ!?)

 ――パーティーを守って大ケガをしたのに、見捨てられた冒険者。
 ――魔物に追われ、足の速い前衛は逃げてしまい、取り残された後衛。
 ――最初っから魔物のとして連れて行かれた荷物運び役。

 さまざまな恨みつらみがいっぺんに取り込まれたのだ!

(これって、全部この悪霊の記憶なのか!?)

 何十人というこの世に未練のある魂が、長い年月でひとつひとつ取り込まれ、大きな悪霊となったのだろう――そして、それによってはっきりしたこと――

(僕ってやっぱり――『悪霊』なのか?)
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