異世界でも馬とともに

ひろうま

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第6章 最後の神獣

65-ジェイダの過去

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僕は、さっきセルリアがジェイダを連れて行ったのが気になっていた。
セルリアからすれば、ジェイダの態度が気に入らなかったのだろうが、無理に協力してもらおうとは思ってない。

そんなことを思っていたら、ジェイダが戻って来た。
が、何と声を掛けて良いかわからず、黙って近付いて来るのを待った。
「また、魔力もらうわよー。邪魔者がいなくてちょうど良かったわー。」
ジェイダは、そう言うといつものように巻き付いて来た。
邪魔者というのは、ヴァミリオのことだろう。
いつも、ジェイダが巻き付いて来ると、文句を言うのだ。
ただ、文句を言うだけで、やめさせようとはしないんだけだけど……。
そのヴァミリオは、今は皆と一緒にルナの子供を見ている。
「セルリアに何か言われた?」
「別にー。あ、そうだ。今日ユウマと一緒に寝るのを代わる様に言われたわー。」
「えっ?」
まさか、セルリアがそんなことを言うとは思わなかった。
セルリアは、僕とジェイダの関係を何とかしたかったのだろう。
気を遣わせて申し訳ないな。

~~~
という訳で、ジェイだと一緒に寝ることになったのだけれど、何か気不味い。
ちなみに、一応ジェイダにお風呂はどうするか聞いてみたが、予想通り遠慮するという返事だった。
「じゃあ寝ようか。」
「……。」
ジェイダに声を掛けてベッドで横になると、ジェイダも黙ってベッドに上がって来た。
寝ようかとは言ったものの、やはり話しをしないといけないだろうな。
「ジェイダ、僕のこと嫌いなの?」
「別にー。」
「そう?何か僕のこと避けているみたいに見えるけど。」
「そんなことないわよー。結構くっついていると思うけどー?」
「それはそうなんだけど……。何か気持ち的には距離を感じるんだ。」
「……。」
そもそも、ジェイダは僕と目を合わせようとしない。
「セルリアの提案を受け入れて僕と一緒に寝ようと思ったのも、何か言いたいことがあるんじゃない?」
ジェイダは答えないが、沈黙がそれを肯定している。

「わかったわ。それじゃあ、話をするわ。」
「う、うん。」
少し間を置いて、ジェイダは口を開いた。
目線は僕から反らしたままだが、口調が変わったな。
いつもの間延びした様なしゃベリ方は、わざとなんだろう。
「私は人間が嫌いなの。」
「……。」
それは何となくわかっていた。
「昔から、人間には恐れられていて、中には無謀にも挑んで来る奴らもいたわ。それは、他の神獣たちも同じでしょうけど……。」
「……。」
僕は黙って続きを待った。
「でも、他の神獣たちと違って、敬われることは無かったわ。別に、そうされたい訳じゃないけどね。それに……。」
「それに?」
僕は思わず、聞き返してしまった。
ジェイダは、僕と目を合わせて言った。
「私は、封印される前の記憶が微かに残っているの。」
「えっ?」
獣神様に記憶を消されたのに、残っているということがあるのか?
精神力はセルリアやヴァミリオが圧倒的に高いし、ステータスのせいではないだろう。
それ程、ジェイダにとって辛いことだったということだろうか?
「なぜかはわからないけどね。あの屈辱を忘れたくなかったのかも知れないわ。」
「……。」
「それまで、人間に負けたことはなかったわ。まあ、負けたのは私の力不足だから仕方ないけどね。強い者に従うのが、魔物の本能だし……。でもね、私を従えた奴は、私を道具としてしか見ていなかったの。ボロボロになるまで戦わせて、労りの言葉なんかなくて……。そして、戦いが終わったら、契約を解除して私を捨てたわ。」
「酷い……。」
「獣神に封印された時は、ほとんど意識がなかったけど、その中で私は願ったの……。このまま、永遠に封印が解けないようにってね。」
「……。」

暫しの沈黙の後、ジェイダが再び話し始めた。
「封印されてどれ位経ったかわからないけど、ある日意識が戻ったわ。恐らく、傷が癒えたんだと思う。私は、自分で封印を解こうと思ったら解けると感じたわ。」
「……。」
「だけど、私はその意思はなかった。たまに人間がやって来て、色々やってたみたいだけど、興味なかったし……。」
「えーと。話しの途中で申し訳ないんだけど、意識が戻ったなら、暇ではなかったの?」
気になったので、ついつい聞いてしまった。
「意識があるとは言っても、半分眠っている感じで心地良くて、ずっとこのままでも良いかなと思ってた。」
「そうなんだ。」
「そのうち、強引なことする人間もいなくなったから、封印を解くのは諦めたのかと思ってた。そんなところへ、あなたが現れたの。」
「……。」
「時々見に来る人間もいたから、またそうかなと思ったけど、雰囲気が全然違った。しかも、他の神獣たちの気配もしたから、私は警戒したわ。また、私たちを支配しようとする人間が現れたのかって……。」
「うっ……。」
確かに、そう思うのは仕方ないだろう。
「でも、神獣たちの様子は全然そんな感じじゃあなかった。そもそも、神獣同士って、あまり仲が良いとは言えなかったんだけど、なぜか仲良さそうに話してるし……。そして、地狐……レモンが言った言葉に私は共感を覚えたわ。」
「レモンの言葉?」
「『気が許せる相手が欲しかった』という言葉よ。レモンは、人間に敬われることもあって、私とは違うと思ってたんだけど……。結局、同じだったということね。」
「……。」
「そして、他の神獣たちが気を許しているあなたに、興味が湧いたの。それで……あそこで出て行ったのよ。」
「そうだったんだね。」
ジェイダにとっては、かなり勇気が要ることだったと思う。
僕はジェイダを抱き締め……ようとしたが、細すぎて微妙なことになった。
「えっ?」
「ごめん。思わず抱き締めようとしたら……。」
「もう……。これくらいで良いかしら?」
ジェイダは僕が抱き易い様に、少し大きくなってくれた。
「ありがとう。でも、良いの?」
「ええ。これまでは、あなたなら大丈夫と頭では思っていても、人間への不信感が強くてどう向き合って行けば良いかわからなかった。今日、思ってたことを吐き出してすっかりしたわ。だから、私も戦うことに決めたの。」
「そう?無理しないでね?」
「大丈夫。元々、私たちはそういう存在だしね。」
「ありがとう、ジェイダ。」
僕はジェイダを優しく抱き締めた。
「私も戦うんだから、セルリアやヴァミリオと同じように、HPとMPを共有してもらいたいわー。」
「えっ?それって……。」
なぜか、また間延び口調になってるが、それよりも……。
「私とも結婚して欲しいなー。」
ということだよね……。
でも、ジェイダが他の人と話すのを見たことがないんだけど……。
「共有のことは、誰から聞いたの?」
「内緒ぉー。それより、返事はー?」
「僕は構わないけど、そんな打算的な……。」
≪お互いの意思を確認しました。結婚を承認します。≫
『理由では承認されない』と言おうと思ったのに、承認されてしまった。
ジェイダに悪意がないからかも知れないが、基準が甘過ぎないだろうか?

~~~
そのまま、ジェイダを抱いて寝たが、かなり抱き心地良かった。
ちょっとひんやりしてるのはセルリアと似ているが、ジェイダの表面はスベスベしていて、密着感が凄かった。
ひんやり抱き枕みたいで、夏には最適だな。こんなこと言うと怒られるだろうけど……。

「おはよう、ジェイダ。」
「おはよー。良く眠れたー?」
「お蔭様で。」
「良かったー。ちなみに、背中を触らせたのは、ユウマが初めてよー。」
「そうなの?」
確かに、尻尾でいつも巻き付いて来ても、背中は触ったことは無かったな。
しかし、そんな言われ方をすると、ちょっと罪悪感を感じる。

そんなことを考えていると、クレアが入って来た。
「おはよう、ユウマ。」
「クレア、おはよう。」
「ジェイダもおはよう。」
「う、うん。おはよう……。」
ん?ジェイダの反応が微妙だな。
「ジェイダ。私の言った事は役に立ったかしら?」
「あ、え、ええ。」
「え?クレア何か言ったの?」
明らかに、ジェイダの様子がおかしい。
いつもの口調も忘れているし。
「それは内緒よ。」
「内緒?あっ、もしかして!」
あの事を伝えたのは、クレアだったのか。
「そうよー。クレアに聞いた事を利用させてもらったのよー。」
「あ、開き直ったわね?」
「まあまあ。でも、利用って……。」
「な、なんでもないわー。」
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