異世界でも馬とともに

ひろうま

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第6章 最後の神獣

61-作戦決行

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「ルフレ、会いたかったよ!」
別宅に着いた途端、元飼い主がエルミナに抱き着いてきた。
ちなみに、皆馬車で移動して来たのだが、エルミナは当然馬車には乗れないので、僕はエルミナに乗って馬車に着いて来た。
元飼い主は、エルミナが近くにいるのに触れる事もできないので、もどかしかったのだろう。
「あのー……。」
困った様にこちらを見るエルミナ。
『今はその人の好きにさせてあげて。悪い人ではなさそうだし。』
『え、ええ。』

元飼い主は、少し落ち着いたのか、エルミナに話をし始めた。
「ルフレ、ごめん。君が好きなあまり、嫌な事をしてしまったみたいだ。」
「そうですね。それに、あなたは私の手入れとか自分でされなかったですよね。」
「それは、皆が僕にさせなかったからだ。僕は自分でしたかったんだよ。本当だ!」
エルミナは、またこちらを見ている。
まあ、ありがちな話だな。
多分、乗った後に使用人たちが『後は私たちがしますので、お坊っちゃまはお休みになられて下さい。』みたいに強制的に離されたのだろう。
だから、使用人たちの目を盗んで、夜エルミナに会いに行ってたんだな。
少し、同情してしまう。
『エルミナ、その人は嘘は吐いてないと思う。だから、許してあげたら?』
『そうですね。』
エルミナは、元飼い主の方に向き直った。
「事情はわかりました。あなたを許します。」
「本当?」
「ええ。でも、あなたが嫌いである事には変わりないです。」
「ううっ……。」
エルミナ、キツい事言うな。

「お待たせしました。話は着きましたよ。」
トリートさんたちは、僕たちを置いて家の中に入って行ったのだが、今の間に話をしていたらしい。
「どうなりました?」
「明日、馬車を出してもらえるそうです。条件は、セルリアさんの鱗1枚ということで。」
「そうですか。」
矢張り、セルリアの鱗は必要だったか。
ちなみに、セルリアにはあっさり了承をもらえた。
「ちなみに、相手は鱗3枚と言ったのですが、言いくるめて1枚にさせました。ですので、いつでも構わないので私にも1枚譲ってもらえませんか?」
「は、はい。」
トリートさんが、耳打ちして来た。
本当かどうかわからないが、トリートさんにお世話になったのは確かだから、それくらいは問題ないだろう。
「あと、息子さんも明日一緒に来てもらえるということなので、よろしくお願いします。」
「え?」
トリートさんは、元飼い主にそう伝えた。
元飼い主は、急に言われて戸惑っている様だ。
「エルミナ……いや、ルフレさんと行動を共にする、最後の機会ですよ。」
「はい!しっかり、努めさせていただきます。」
トリートさんも意地が悪いが、この人どれだけエルミナのことが好きなんだ。
やっぱり、ちょっと可哀想になって来るな。

~~~
いよいよ、これから作戦を決行する。
作戦を再確認すると、こうだ。
エルミナには、神獣が封印されている場所の近くまで、馬車を曳いてもらう。
この場所は、元飼い主に選んでもらった。
馬車が行ける範囲は制限があるし、荷下ろししても怪しまれない場所は更に限られるからだ。
馬車には、責任者として元飼い主が、御者として僕が乗る。
僕は御者の経験はないから、振りだけだけどね。
実際には、元飼い主に道案内をしてもらって、それをエルミナに念話で伝えるだけだ。
目的地に着いたら、元飼い主がエルミナのハーネスを外す。
ハーネスを外すのは、御者の方が自然ではと思ったのだが、元飼い主がどうしても自分がやると言ったのだ。
まあ、僕は馬車のハーネスは扱ったことはないから、助かるのだけれど……。
そして、ハーネスを外したところで、エルミナが急に暴れだして逃走、神獣が封印された場所に向かう。
馬車の目的地から封印の場所は見えるので、そちらに向かえば良いということだった。
元飼い主は、エルミナを追い掛け、僕は反対側から回り込む。
あたかも、挟み撃ちを狙っているようにだ。
元飼い主は、封印の場所の手前でエルミナに追い付くも、捕まえるのに苦戦している様に見せ掛け、封印地で警備をしている人に助けを求める。
警備の人は二人いるらしいから、一人は動かない可能性が高いが、エルミナに頑張ってもう一人も動かしてもらえれば成功だ。
その隙に、僕が封印の場所に潜入する。
どうしてももう一人が動かない時は、上空で待機しているヴァミリオが降りて来て引き付ける。
更に、街の外には念のためセルリアにも待機してもらっている。
強行手段は使いたくないが、今回のチャンスを逃す訳にはいかないので、いざと言う時は手段を選んでいられない。

皆で作戦を再確認した後、出発した。
エルミナは、最初馬車の感覚に戸惑っていた様子だったが、すぐに慣れた様だ。
荷物を点検される可能性も考えて商品を積んであるので、そこそこ重いだろうが、エルミナは力があるから大丈夫だろう。
元飼い主の指示に従って、僕はエルミナに進行方向を伝えていく。
「ルフレは、凄いな!」
元飼い主は、エルミナが自分で進行方向を変えるのを見て、感動しているみたいだ。
エルミナが褒められると、僕も嬉しい。

しばらくして、目的地に着いたみたいなので、エルミナに止まってもらった。
確かに、ここからだと、封印の場所らしき物が見える。
エルミナは、普通の馬より体力あるのだが、慣れない馬車曳きのせいか、うっすらと汗をかいている。
元飼い主が、降りてエルミナのハーネスを外し始めた。
しかし、何となく手つきがいやらしい。
しかも、エルミナの匂いを嗅いで、恍惚の表情をしている。
やっぱり、この人変態だな。
ルナに、また僕も同じようなものだと指摘されそうだが、僕はここまでではない。
確かに、今のエルミナは汗をかいて魅惑的な匂いがするので、興奮するのはわかる。
しかし、僕は公の場ではそれに惑わされず、しっかり仕事はする。
元飼い主の今の行動は、かなり危ない。
僕でもどうかと思うのだから、僕以外の人に見られたら色々とヤバいと思う。
実際、近くに居る人たちは、見ない振りをしている。

元飼い主が、全てのハーネスを外し切った瞬間……。
「ヒヒィィィィン!!」
「ルフレ!どうした!?」
エルミナが嘶いて立ち上がった。
どうやら、言葉にならない嘶きというのがあるみたいだ。
しかし、元飼い主、本気で驚いていないか?
エルミナの行動は、予定通りだろうに。
いや、もしかして、演技か?
そうだとすると、かなりの演技力だ……って、今はそれどころではないな。
エルミナは、封印の場所の方向へ走り出した。
もちろん、全力ではない。
「僕は、向こうから回り込みます!」
「頼んだ!」
ここまでは、予定通りだが、ここからが正念場だな。

エルミナとは反対方向から、封印の場所に近付いて行くと、門より少し向こうでエルミナが暴れているのが見えた。
ちょうど警備の一人がエルミナの方へ向かっているところだ。
良い調子だな。
『エルミナ、粘ってもう一人も動かして。』
『わかりました。』
なかなか収まらない状況に、元飼い主がもう一人にも手伝いを要請する、という筋書きだったが……。
あっさり、警備の一人に取り抑えられた。
さすが、大事な場所の警備を任されるだけあって、只者ではないらしい。
しかし、こうなったら、次の手段だ。
壕を越えて入れないかと思ったが、無理そうだ。
助走を付けて、浮游と組み合わせれば、越えられるだろうが、壕の向こうは壁が続いていて入れる所がない。
もう、ヴァミリオに来てもらうしか……ん?
なぜか、もう一人の警備の人も、エルミナの方へ向かい出した。
『エルミナ、何かした?』
『誘惑を使いました。今のうちに、お願いします。』
『エルミナ、ナイス!』
エルミナの機転に感謝しつつ、僕は封印の場所に入っていった。
ちなみに、今の状況なら大丈夫そうだが、念のため隠蔽は使っておいた。

~~~
エルミナが、警備の人たちを引き付けてくれた隙に、橋を渡り壁の内側に入った。
エルミナの方が騒がしかったが、大丈夫だろうか?
ちょっと気になるが、今はこちらに集中しなければ。

壁の内側には、お馴染みのドームが有った。
一応、本当に神獣が封印されているか見ておこう。
ドームの中に入って、進んで行くと、これもお馴染みの大きな繭状の物が有り、中が透けて見えた。
爬虫類系ということだったけど、これは蛇かな?
緑色をした蛇の様に長い身体を丸めており、よく見ると背中に翼が有った。
いつものように閲覧してみると……。

================
種族:ケツァルコアトル
性別:―
年齢:―
状態異常:封印
能力値:(封印されているため、閲覧できません。)
スキル:(封印されているため、閲覧できません。)
================

成る程。
ケツァルコアトルか……。
こっちの世界のケツァルコアトルは、こんな感じなんだな。
いや、元の世界には、実在しないと思うけど……。
神獣の存在が確認できたから、一旦退散しよう。
僕は、ドームの外に出て、テレポートポイントを設定できる所を探した。
ちなみに、ドームの外に出る時は、ちょっと緊張した。
僕が中に入ったことが気付かれていて、既に包囲されていた、という可能性もゼロではなかったからだ。
しかし、実際にはそんなことはなかったので、安心したけれど。

テレポートポイントを設定した後、ステラを呼んだ。
今は僕の従魔は皆テレポートを使えるんだけど、1日1回限りなので、矢張りステラに頼ることになる。
そんなことを考えていると、テレポートポイントにステラが現れた。
「ステラ、ありがとう。」
「問題ないわ。家に戻れば良いの?」
「セルリアたちと合流するから、街の外にお願い。」
「わかったわ。」
昨日帰るとき設定したテレポートポイントがあるので、そこに行ってもらった。
今日は、一段落着いたら、その辺りで皆と落ち合うことになっている。
そういえば、僕は街の中に入ったことになっているんだけど、問題ないんだろうか?

テレポートして待っていると、セルリアとヴァミリオがやって来た。
「お疲れ様!」
「ボクの出番無かったけどね。」
「出番無かったのは、良いことだよ。」
「それはそうなんだけど……。」
ヴァミリオは、ちょっと残念そうだ。
そうこうしているうちに、エルミナがやって来た。
「エルミナ、お疲れ様!よくやってくれたね!」
「うまくいったみたいで、良かったです。もう、あの男には会いたくないですけど。」
「無理させて、ごめんね。あの後、どうなったの?」
「警備の二人が喧嘩し始めたんですけど、誘惑を使うのをやめたら正気に戻りました。」
「それで騒がしかったのか。」
馬を巡って二人の人間が争うとは、シュールだな。
「元飼い主の男、私と二人切りになったら、変なこと言い出したんです。気持ち悪くて思わず前膝で蹴ったら、気絶しててしまって……。」
思わずって……。
「そ、それで?」
「気付いた警備の一人が慌ててやって来たので、まずいかなと思ったのですが、トリートさんがちょうど来て、収めてくれました。」
トリートさんは、気になって見に行ってた可能性が高いな。
タイミングを見計らって、出て行ったのだろう。
「トリートさん、何か言ってた?」
「あ、そうでした。2日後の朝に街の門前に来るように伝えてくれと、頼まれました。」
「あ……。」
神獣解放ミッションばかりに気を取られて、その後のことを全然決めてなかった。
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