異世界でも馬とともに

ひろうま

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第4章 大侵略の前兆

閑話9~神竜様と模擬戦~(エレン視点)

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長かったリーソン滞在を終え、昨夜セラネスに戻って来た。
今日はギルドマスターのボルムさんに、活動に関する報告をする日だ。
久しぶりのギルドには大勢の人がいた。私たちが来ることを知って集まった人がほとんどだろう。
私にしてみれば、あまり気持ち良いものではないが、何度も経験したので慣れてしまった。

「あら?」
アリスが何か見付けたらしく、急に人混みの方へ歩き出した。
アリスは何か気になると周りが見えなくなるようで、こういうこともしょっちゅうだ。
私は慌てて追いかけた。
向かっている先には小さいドラゴンがいた。アリスは可愛いもの好きだから、多分あれがターゲットだろう。
「可愛いドラゴンですね……はっ!神竜様!」
「神竜様!?」
一瞬アリスの言葉が理解できなかったが、近くに行くと、確かにそのドラゴンは神竜様に間違いなかった。
神竜様は封印されていたはずではなかったのか?
頭を下げながら、そんなことを考えていた。

信じられないことに、神竜様は人間――ユウマというらしい――の従魔になったようだ。
私は彼に向けて殺気を放ったが、彼は全く動じていなかった。
さすが、神竜様を従魔にするだけのことはあるなと関心し掛けたところ、神竜様が殺気を放ってきた。
こ、これが、神竜様……私たちとは格が違う。
周りの冒険者も巻き込まれてしまたようだが、ユウマは全く気にせず神竜様を諫めていた。
悔しいが、彼の力は確かなようだ。
それに、彼のことは、ボルムさんも認めているように見える。
私は彼に興味を引かれ、模擬戦を持ちかけた。
彼は戦闘は得意ではないということだったので、私が3回全力で攻撃して彼がそれを耐えるという形にした。
後から思うと、そんなことをしなくても私は彼を認め始めていたのだが、竜人としてのプライドが無条件に人間を認めることを良しとしなかったのだろう。

ボルムさんへの報告が終わった後、ユウマと対峙する。
と言っても、彼は表情一つ変えていない……強者の余裕なのか?
まずは、スキルを使用しない通常の一撃。『通常の』と言っても、大抵の相手はこれだけで倒れる。
まあ、これは耐えるか……これで倒れたら、正直期待外れだったから、耐えてくれて良かった。
次は、ブースト(力・素早さ)スキルを用いての全力攻撃。
これは力と素早さを一時的に3倍にするスキルだが、次の行動の後は能力値は戻り、クーリングタイムも長い。使い所が難しいスキルだが、今回は打って付けだろう。
彼はこれも耐えた。ただし、ユウマは戦闘向きでないというのは本当の様で、速さには全く付いて行けていない感じだ。
しかし、ある程度予想はしていたものの、本当に全くダメージを与えられないのは驚いた。
これは、何からのダメージカットスキルを持っているとしか思えない。
神竜様のブレスも耐えたと言っていたので、物理のみに対応している訳ではなさそうだ。
ということは、もう手がない?
いや、ダメージを与えるのではなく、状態異常はどうだろうか。
私のブレス(雷)は、耐性が無ければ確実に麻痺にさせる追加効果を持つ。
セコいと言われそうだが、ここは麻痺にさせて『耐えられなかった』と言い張る作戦にするしかない。
後は、彼が麻痺耐性を持っていないことを祈るだけだ。
ブレスを吐くためには、準備の時間も必要だが、今回は時間の制限はないからこれは問題ない。
それより、ブレスを吐くには竜化しなければならないのが問題だ。
多くの人に竜化するところを見られるのは恥ずかしいし、竜化したら裸になってしまうため元に戻るのが困難になるからである。
だが、この際仕方がないだろう。

私は、晒のみになると、竜化してブレスを吐くため、魔力を蓄えていった。
必要な魔力の量が膨大であることが、準備の時間が掛かることと並び、ブレスを実戦で使い難くしている要因だ。
ようやく準備が整ったので、私は思いっきりブレスを吐いた。
どうだ……?
彼が固まっているが、これは麻痺しているのか?
これはもしかしたら、と思った直後、少し緑がかった白い光が彼を包んだ。これは、キュアの魔法!
私は、ガックリと膝を着いた。

「私の負けだわ。」
彼が私に近付いて来たのがわかったので、私は彼にそう伝えた。
「ありがとうございます。キュア掛けても、一度麻痺したから、それを突かれるかもしれないと思ったんですが。」
「……。」
実は、それも一瞬頭をよぎったが、さすがにそこまでやると自分のプライドにも傷が付くと思い直したのだ。
「ところで、元の姿に戻らないんですか?」
「あれを見て、それ言えるの?」
私は、破れた晒を見ながら、そう言った。
「し、失礼しました。」
「まあ、大勢の目の前でこんなことした私が悪いんだけど……。で、私に何を要求するの?」
「特に考えてなかったんですけど、エレンさんの可愛い姿を見て、お願いしたいことができました。」
「可愛い?バカにしてるの?私は今ドラゴンの姿なんだけど。」
この姿を可愛いという奴なんかいない。
「ドラゴンの姿だから可愛いんじゃないですか。」
「……。そ、それでお願いとは?」
彼の言葉に、一瞬引いてしまったが、気を取り直して話を進めた。
「撫でさせてください!」
「何それ!?公開処刑なの?でも、言い出したのは私だから、仕方ないわね。好きにどうぞ。」
「ありがとうございます!」
私を撫でようとした者は、これまで誰もいない。なので、ちょっと緊張する。
しかし、彼が撫で始めると、すごく心が落ち着いていく。何これ、気持ちいい!
ところが、あまりの気持ち良さに身体が警戒したのか、ビクッと動いた。
すると、反射的に、彼は撫でるのをやめてしまった。
でも、もっと撫でてもらいたい!
「も、もう少し撫でさせてあげても良いわよ!」
無意識に、そんな言葉が私の口から溢れた。
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