異世界でも馬とともに

ひろうま

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第4章 大侵略の前兆

48-アランとの対話

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その夜、ルナとお風呂に入ったが、ルナが不機嫌なように感じた。
なんとなく話し掛けにくいが、何か言わないと……。
湯槽に浸かってから、ルナに話し掛けた。
「ルナ、体調はどう?」
「問題ないわ。」
「そう……。」
ヤバい。会話が続かない。これは、思い切って聞く方が良いだろうか。
「あのー。もしかして、何か怒ってる?」
「別に怒ってないわよ。」
「それなら良いけど……。気に入らないことがあったら言ってね。」
「じゃあ、言わせてもらうわ。」
「……。」
やっぱり、何か不満があったのか。
「皆と仲良いのは良い事だけど、あなた私と距離を置いてない?」
「えっ?そんなこと……。」
『ない』と言い掛けたが、少し心当たりが有った。
元の世界を含めて、子供ができたのは初めてだ。
妊娠中の妻に刺激を与えてはいけないという思いから、近付き過ぎない様にしていたように思う。
「私の体を気遣ってくれてるんだろうけど、私は馬なんだし、そんな柔じゃないわ。乱暴なことしなければ、大抵のことは大丈夫よ。」
「ごめん。ちょっと意識し過ぎてたみたい。」
そう言って、ルナの頚をそっと抱いた。
「良いのよ。私も、早く言えば良かったんだろうけど、言い難くくて。」
そういうルナの顔は優しかった。

~~~
翌朝……。
「マスター、おはよう。」
「クレア、おはよう。」
「前にこっちを見ていた鳥が来てるわよ。」
「鳥?」
エスシーのことだろうか。
そういえば、ドゥフデイさんが帰ってから、見掛けてないな。
「窓の外にいるけど、話をしてみる?」
「そうだね。行ってみよう。」
「あ、待って。『クリーン』。」
「ありがとう。」

行って見ると、確かにエスシーが窓のすぐ外に居た。
窓枠に掴まっているらしく、苦しそうな体勢だ。
わざわざ玄関に回ってもらう必要もないので、窓を開けてシービーを部屋に入れた。
「おはようございます。」
「おはよう。エスシーさん、どうしたの?」
「え!?あ、アランがユウマさんに会いたがっています。」

「ただいま!」
アランさんの家に着くと、エスシーはアランさんの胸に飛び込んでいた。
「エスシー、おかえり。お疲れ様。」
アランさんはエスシーを優しく抱いて撫でた。
微笑ましい光景だ。
周りを見ると、まだ見たことがない鳥が2羽居た。
その2羽は、エスシーより少し小さい感じだ。
恐らく、どちらもアランさんの従魔なのだろう。
「アランさん、はじめまして。ユウマです。こっちは……。」
「ボクは、ヴァミリオだよ!よろしく!」
「俺は、アラン。ユウマさん、来てくれてありがとう。その、ヴァミリオというのはもしかして……。」
「ヴァミリオは、フェニックスですよ。」
「やっぱり!フェニックスをこの目で見れるなんて!」
予想通り、アランさんは喜んでくれた様だ。
ヴァミリオを連れて来て正解だったな。
「でも、フェニックスってそんない小さいのか?」
「いえ。元はもっと大きいのですが、小型化してもらっているんです。」
「そうなのか。えーと……元の大きさに戻ってもらうことはできないかな?」
「ヴァミリオ、どう?」
「良いよ!」
ヴァミリオは、元の大きさに戻る。
この家の天井が高くて良かった。普通の家ならつっかえているだろう。
アランさんの方を見ると、口をあんぐり開けていた。
3羽の鳥は揃って下がり、頭を下げている。
普段のヴァミリオを知っているからあれだが、やっぱりフェニックスというのは特別な存在なのだと思う。

「アランさん、もう良いですか?」
「あ、すまない。もう良いよ。」
放っておくと、いつまででもその状態が続きそうだったので、声を掛けさせてもらった。
ヴァミリオが小さくなると、鳥たちも復活した。
「良いものを見せてくれて、ありがとう。紹介が遅れたが、これは俺の従魔たちだ。先ず、もう知ってると思うけど、ソニック・クロウのエスシー。」
「改めまして、エスシーです。」
「黄色いのが、クイーン・カナリーのキューシー。」
「キューシーよ。よろしく。」
「白いのがナース・ピジョンのエヌピーだ。」
「エヌピーです。」
命名ルールが徹底してるな。すごい不自然に感じるんだけど……。
声からして、残りの2羽も皆メスの様だ。
というか、クイーンとか付いているのは、メスしかいない種族かも知れない。ナースは微妙だけど……。
「しかし、フェニックスの見た目と話し方のギャップはすごいな。」
「僕も最初そう思いました。」
「やっぱりか!」
「なになに?ボクのこと?」
アランさんは、日本人ではないと思うが、ヴァミリオの話し方は似たように聞こえるんだろう。
海外でも、「ボクっ娘」みたいな言葉があるんだろうか?

「それで、僕にお話とは何でしょうか?」
「ああ、すまない。フェニックスがあまりにも衝撃的で……。先ずは、勝手に監視したことを謝りたい。」
「そうですね。鳥たちの監視は気にしてませんが、ドゥフディさんの件はやり過ぎかなと思います。」
「申し訳ない!」
「なぜ、あそこまでしたんですか?」
「その理由を説明する前に、僕のことを話そう。」

アランさんの話の内容は次の様なものだった。
アランさんは勇者になったが、行動が制限される環境を嫌って、勇者を辞めた。
一番の要因は、従魔術を持っているのに、従魔を保持できないことだった。
今の従魔たちとは、エラスを出てリーソンに住んでから、契約を結んだ。
「それで、ここからが重要なのだが……。エラスが神獣の封印地を囲ったのは、ユウマも知ってると思う。」
「はい。もちろん、知ってます。」
「エラスは、あの神獣の封印を解き、勇者の従魔としたいと考えている。」
「それはわかります。」
まあ、そう考えるのは不思議ではないな。
「俺は従魔術を持っているので、もし封印が解けたら、その神獣と契約する候補だった。」
「……。」
「でも、解ける見込みはないということで、俺は特に止められることもなく、勇者を辞めることができた。」
「そうなんですか。ですが、それと僕を監視することに関係があるように思えませんが……。」
「これまで、誰も解けなかった神獣の封印を解いた者がいたら、警戒するのが普通と思わないか?」
「あ……。」
「あまり自覚がないようだが、ユウマがしていることは常識ではあり得ないし、とても危険なことだ。既に3体もの神獣を従魔としているのだから、その気になればエラスでも攻め落とせるかも知れない。」
「まさか。」
さすがに、それは言い過ぎだろう。
「いや、ユウマは神獣を過小評価している。そのフェニックスもそうたが、ユウマは神獣たちと家族の様な関係になっているから、凄さがわからないのだろう。」
「そういうものですか?」
「そうだ。話を戻すと、そんな危険な存在にエラスは気付いていない。エラスの人たちは自分たちが最も優れていると信じて、外には興味を持たないからな。しかし、俺はユウマの存在を知ってしまい、放っておくことができなかった。」
「アランさんは、正義感が強いんですね。」
「そういう訳ではないよ。自分の脅威となる存在かどうか確かめたかっただけだからね。」
「そうですか。まあ、何となくわかりました。」
「それで監視していたんだが、どうしてもユウマの目的がわからなかった。そこで、ドゥフディに近付いてもらうことにしたんだ。」
「……。」
「彼女は気が進まなかった様だが、僕の頼みに嫌と言えなかったのだろう。今では、申し訳ない事をしたと思っている。でも、もしかすると、ユウマと会ったことは彼女にとって良かったのかも知れない。彼女は俺の元を去る時に言ったんだ。ユウマに直接話をしたらどうかと……。」
「……。」
そこはミノンの話には無かった気がする。
「監視していた相手に会うのはどうかという思いもあったが、結局会うことに決めた。もしかすると、ユウマの欲しい情報を提供できるかも知れないからな。」
「僕が欲しい情報ですか?」
「神獣の封印地についての情報だ。」
「えっ?」
確かにそれは欲しい。
「だが、その前になぜユウマが神獣の封印を解いて回っているか教えて欲しい。」
まあ、それは当然だろう。
僕は、勇者転移に巻き込まれて、ルナと共にこちらに転移したことと、その時に調停者から神獣を解放するように言われたことを話した。
「なるほど。神獣を解放する事自体が目的ということか……。」
「そんな感じですね。なぜ、僕にそんなことを頼んだのかはわかりませんが……。あ、そういえば、神獣が揃ったら獣神様が話をしてくれるらしいですから、その時に理由がわかるかも知れません。」
「獣神様?」
「はい。直接言われた訳ではなく、カラドリウス経由ですが……。」
「カラドリウス!?」
あ、凄い食い付いた。さすが、鳥好きだけあるな。
「ここからずっと東に行った所にある山に棲んでます。いや、魔物とかじゃないから、棲んでいるという表現は適切ではないのですが。」
「魔物じゃないのか。」
「はい。鳥神の分身みたいな感じですね。」
「そうなのか?一度会ってみたいな……。それは置いといて、その話からすると神獣が揃っても、俺たちの脅威になる訳ではないな。」
「僕の話を、そう簡単に信じるんですか?」
普通は、僕が嘘を吐いている可能性も考えるんじゃないだろうか……。
「ドゥフディも言ってたが、ユウマは嘘は吐けそうにないからな。俺も実際話してみてそう感じた。」
「はあ。」
これは、喜ぶべきことだろうか?
「ということで、神獣の封印地について話そう。」
「あのー。それ、情報料とか要ります?」
「特に考えてなかったが、くれるというならもらっておくぞ。」
「そうなんですか?では、なぜ僕にその情報をくれるんでしょう?」
「エラスのやり方を見ていると、奴らに神獣を渡すと碌なことはないと思うからな。それよりも、ユウマと一緒にいてもらった方が良いと思う。」
「そんなに信用してもらって恐縮です。」
「動物好きに悪い奴はいないからな。では、話をしよう。」

神獣の封印地に関する情報は、次の通りだった。
・封印地は、エラスの西の端にある。
・封印地の周りは壕が掘られている。
・壕には橋が一本だけ架かっており、交代で警備している者が居る。
・壕の内側には物理結界が張られており、空からも侵入できない様になっている。

西の端にあるのは予想が付いていたが、それ以外は初耳だ。
しかし、思った以上に厳重だな。
街に入るのも儘ならない状況なのに、これは厳しい。
「少し質問して良いですか?」
「良いよ。」
「西の壕の外はどうなってるんですか?」
「そっちは見ていないので、はっきり言えないが、街の外壁があると思う。」
「その外はどうなっているかわかりますか?」
「山が見えるが、外壁との間がどれ位あるかわからない。」
「そうですか……。ちなみに、街に空から入ることは可能ですか?」
「確かに街の上には壁もないから、入ることは可能だろう。ただし、気付かれたら、迎撃されるだろうな。とは言え、ユウマがドラゴンで襲撃したら防ぎ切れないと思うぞ。」
「いや。そんなことしませんよ。」
エラスを襲うのが目的ではないからね。
「他に質問はある?」
「いえ。貴重な情報をありがとうございました。」
「少しは役に立ちそうかな?」
「少しどころではないです。少ないですが、これはお礼です。」
僕は、500Gをアランさんに渡した。
「こんなに?」
「少なくとも、それ位の価値はあると思いましたので。」
「そうか。では、遠慮なくもらっておこう。」

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