異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

5-初めての野宿

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ギルドから出ると、多くの人がこちらを見てきた。
奇異なものを見るものが多いが、中にはルナに見とれているような人も。うん、ルナに見とれるのは仕方ないね!
さっきは裏口の方から入ったので人がいなかったが、こちらは表側なのでやはり人が多い。気にしないようにするしかないか。

「クレア、ステラ、暇だっただろう。悪かったね。」
「問題ないわ。暇なのには慣れてるから。」
「……。」
あれ、ステラは機嫌悪いのかな?
「ステラ、ごめんね。機嫌直してよ。」
ステラの頸筋を撫でながら言う。
「っ!別に機嫌悪くないし……。」
あ、余計機嫌悪くなった。撫でたのがいけなかったかな。
「気にしなくて良いわよ。ステラは人の側にいるのが慣れてないだけ。あと、撫でられて照れてるみたい。」
「アタシが照れるわけないでしょ!」
「と、とにかく、服を買いたいからもう少し付き合ってね。そしたら、一旦街を出るから。」
「そう言えば、宿を取らないの?」
ルナがそう聞いて来た。ルナは、そんなことも考えられるようになったんだな。
「さっき聞いていたと思うけど、この辺にはルナ達と一緒に泊まれるところがないらしいからね。ルナ達を厩舎において僕だけ部屋で泊まるのも嫌だらか、野宿にするよ。」
「私は馬なんだから、別に構わないのに。」
「ルナさん。マスターは奥さんと一緒にいたいのよ。察してあげなさい。」
「そ、そうなの?」
ルナが恥ずかしそうにしている。可愛い!
クレアって、魔獣なのに察し良すぎる気がする。
「クレア。鋭いね。もちろん、クレアやステラとも、一緒にいたいよ。」
「あら、嬉しいけど、今夜はお二人でゆっくりどうぞ。私とステラは別の所で休むわ。」
「あ、ありがとう。」
クレア気が利きすぎ。惚れてしまうやろ!ヤバい、ルナがいるのに、取り乱してしまった……心の中だけだけど。
「ちょっと、何一人だけ好感度上げようとしてるのよ。」
「別に、そんなつもりはないわよ。あなた、もしかして妬いてるの?」
「な、なんで、アタシが妬くのよ。」
「ふうん。」
クレアとステラの会話が相変わらず微笑ましい。
ツンデレは苦手だと思っていたが、ステラも可愛く思えてきたな。

話をしているうちに、店が並んでいる場所に来た。
屋台も結構あるな。あ、そう言えば、こっちに来て、ご飯食べてない――というか、お腹空かないな。
「ルナ、お腹空いてない?」
「空いてない。」
「こっちに来る前は、食べてばかりだったのに。」
「うっ!馬はそういうものだから、仕方ないのよ。」
「ごめんごめん。わかってるよ。」
「もう、イジワルね!」
そっぽを向くルナ。あら、クレアとステラが若干引いてる?
「魔獣は食事しなくても良いの?」
ごまかすように、クレアに聞いてみた。
「私達は、基本周りの魔力だけで生きていけるの。ここは街中だから、魔力が少ないみたいだけど、マスターの側にいれば大丈夫みたい。」
「え?」
もしかして、僕はずっと魔力吸い取られてる感じなのだろうか?
「そう言えば、マスターやルナさんも上位種だったのね。それなら、色々と納得できるわね。上位種は、魔物に近くて、食事はあまり必要ないみたいよ。」
「そうなんだ。やっぱり、クレアは物知りだなぁ。」
「そ、そうでしょ?なんでも聞いてね。」
ちょっと照れながらも、胸を張るクレア。ヤバい、どんどん可愛く見えてくる。

服屋で動きやすそうな服を買って、ついでに着替えさせてもらった。
もちろん、肌着を含めて着替えも何着か買った。クレアの魔法で綺麗になるけど、着たきりすずめじゃあちょっとね。使ったお金は35Gだ。金銭感覚はこれから養っていかないといけないな。
僕だけ買うのも悪いかと思ったが、皆は服はいらないようだ。まあ、美しい毛皮があるからね。
「鞄とか買った方が良いかな。」
ふと思ったことを口にすると、ステラが反応した。
「あ、アタシがアイテムボックスに入れてあげても良いわよ。」
「本当?ありがとう。助かるよ。」
アイテムボックスと言えば、転移者に定番のスキルという印象だが、僕は持っていないからな。ほかの転移者は持っていたりするのだろうか?
ステラが持っているのが意外だが、多分、空間魔法の一つなのだろう。

~~~
「どこか良い場所はないかな?」
街を出たものの、野宿に適した場所なんかわからない……僕って、本当に行き当たりばったりだな。
「私がねぐらにしてる場所があるけど。ステラはどう?」
「アタシも一応あるけど……。」
「それじゃあ、マスターとルナさんは、私のねぐらで休んで。私はステラのところに居させてもらうわ。」
「えっ?」
クレアの提案に、ステラが驚いた。
そりゃ、本人の了承を得ずに、勝手に決めたらそうなるよね。
「ダメ?」
「ま、まあ、仕方ないわね。」
「決まりね。マスターもそれで良いでしょ?」
「うん。ありがとう。」
ありがたいけど、ステラは本当に良いのだろうか?
感謝を込めて、クレアとステラを撫でた。ステラは反応が微妙だけど、一応避けずに撫でさせてくれた。
それにしても、クレアがルナをさん付けで呼ぶのが、違和感ありすぎだな。

「そういえば、ステラの空間魔法って、テレポートとか使えるの?」
「使えるわよ。予め設定していたポイントだけだけどね。」
「凄いね!ステラは、冒険者とかに引っ張りだこになりそうだけど、そんなことないの?」
「……。」
「バイコーンが空間魔法を使えることは、あまり知られてないのよ。」
無言になったステラに代わって、クレアが答えてくれた。
「そうなんだ。」
「バイコーンに限らず、スキルを把握されていない魔物は多いようね。」
「閲覧スキル使える人もそう多くないみたいだし、そんなものかもね。」

クレアのねぐらは、森の中の少し開けた場所にあった。雨避けするには良い、浅い洞窟もあった。
「ここ良いね。」
「でしょう!もう暗くなってくるし、私達は行きましょう。ステラ、案内お願い。マスター、ルナさん、また明日の朝ここで会いましょう。」
「わかった。クレア、ステラ、お休み。」

~~~
「今日は色々あったね。」
クレアとステラを見送って、ルナに声をかけた。
「本当ね。でも、私はずっとあなたと一緒にいられて嬉しかったわ。会話もできるようになったし。」
「うん、僕も嬉しいよ。」
確かに、向こうでは、こんなに長く一緒にいることはなかったな。
「そうだ。私は元の世界であなたに教えてもらった運動はちゃんと覚えているわ。向こうでは内容をあまり意識しなかったけど、今の私ならもっと上手くやれると思う。」
「運動は大変じゃない?」
「大変なところはあるけど、あなたと一体になっている感覚が心地良いの。二人で、見る人を感動させるような演技ができるようにしましょうよ。」
嬉しいことを言ってくれるな。涙が出そう。
「そうだね。申し訳ないけど、お願いするよ。」
「ええ。ただし、銜と鞍はなしでね。」
「わかった。僕も頑張らないとね。」
「ところで、クレアとステラも、良い人ね。いや、人じゃなくて馬?」
「馬というにも微妙だけど、良いたちだね。あ、年齢は全然上なのに、『』は失礼かな?」
「年上扱いするより良いと思うわ。それはともかく、ユウマは彼女達とも結婚するのかしら?」
「えっ!?」
ルナは何を言い出すんだ。確かに、彼女達も可愛く思えてきたけど……。
「彼女達も、あなたのこと好きみたい。馬は基本ハーレムを作るものなの。だから、あんたがほかの人と結婚しても構わないわ。」
「……。」
確かに彼女達は可愛いし、会ったばかりだが、ぼくも好きになってきている。
でも、彼女達が僕を好きなのは、加護のせいではないだろうか?
「でも、今は私のことだけを考えてね。」
「ルナ……。」
なんという殺し文句。
僕がルナを見つめると、ルナは目を閉じた。
先ほどは、ここでお預けになっていたが……。
今度は邪魔が入ることはなく、僕はルナと唇を合わせた。

~~~
翌朝、鳥のさえずり……ではなく、おしゃべりで目を覚ました。
しかし、あれだな。翻訳スキルをオフにする機能が欲しいな。
さえずりは、意味がわからないから良いということが、よくわかった。

僕を包み込むように寝ているルナを起こして立ち上がると、クレアとステラがいた。
「おはよう!ゆうべはお楽しみでしたね!」
「お、おはよう。」
誰がクレアにこんなセリフ教えたんだろう。
「何それ?」
「一夜を共に過ごしたカップルにかける決まり文句よ。」
「そうなの?」
クレアさん、ステラに変なこと吹き込まないでください!
「ゆうべはお楽しみでしたね、ユウマ。」
ほら、ステラこういうところは素直なんだから……ん、ユウマ?って、言ってる本人が恥ずかしそうだが。
「ステラ、おはよう。初めて僕のことを名前で呼んでくれたね。」
「もう、じれったいわね。」
「きゃ!」
嬉しくて、ステラをいつも以上に撫でていると、クレアがステラを後ろから押した。
ステラは、バランスを崩して頭から僕の胸にぶつかって来たので、自然と僕はステラに抱きつく形になった。
「あ、ごめん。」
慌てて手を離そうとしたら、
「ユウマ、もう少し、このままで……。」
ステラが僕の胸に顔を埋めたまま、そう言った。どうやら、泣いているようだ。
僕は改めて、ステラの頭を優しく包み込んだ。

ステラが落ち着いたみたいなので、手を離した。
「あ、えーと、ごめんなさい。」
「大丈夫だよ。」
ステラは、今の行動が恥ずかしかったのか、挙動不審になっている。
そこへ、ルナ達が戻ってきた。気を遣って、離れていたようだ。
「良かったわね、ステラ。でも、ちょっと大胆過ぎない?」
「……。」
クレアが、からかうように言った。いや、君がこの流れを作ったんだよね。
ステラは、反論するかと思ったが、何も言わなかった。
「マスター、私も抱いて!」
「えっ、えっ?」
クレアが、頭を擦り付けて来た。角が刺さりそうで怖い。
それにしても、君の方が大胆だろう!『抱いて』って、危ないこと言ってるし……いや、そっちの意味でないことはわかるけど。
クレアが、肩に頭を乗せてきた。どうやら諦めないつもりらしい。仕方なく、頚を抱き締めた。

しばらくすると、満足したのか解放してくれた。
「今日はどうしたの?昨日の冷静な態度はどこにいったの?」
「あら、従魔なんだから、これくらいのスキンシップは普通でしょ?。」
「え?」
いやいや、クレアさん、明らかに過度なスキンシップですよ。
人が見たら、引くと思う。
「あまりくっついてると発情しそうだから、ほどほどにしとくわ。今のところは……。」
クレアが何か言っているが、スルーしとこう。ツッコむと、ろくなことにならない予感がする。
「私達のような長命種は、発情期があまりないんだけど……。」
「続けるんかい!」
思わずツッコんでしまった。スルースキルが足りないようだ。
「相手に会うチャンスも少ないから、良い相手がいたら時期に関わらず発情するの。」
うん。詳しい説明ありがとう。

変な雰囲気になったな……ここは、話を変えよう。
「ところで、やっぱり家が欲しいな。いつまでも野宿はキツいし。でも、皆で住めるような家はかなり高いんだろうな。」
「私達の愛の巣ね!」
「アタシは外でも十分だけど、人間はやっぱり家が良いのよね?」
ステラ、ナイススルー。
「家がどれくらいするのかわからないけど、私の角を一部売れば、十分買えると思うわよ。」
「いやいや、そんなことしないからね!」
クレア、今日は飛ばしすぎだな。
「今のは極端だけど、私の角は利用価値が高いらしくて、僅かでも売ると喜ばれるわよ。前の主もそうしてたし。」
「そうなの、人の役に立つなら考えても良いけど……苦痛とかはないの?」
「大丈夫よ。」
「うーん、ちょっと考えてみるよ。ありがとう。」

~~~
クレアにクリーンを掛けてもらってから、街に向かった。
「今日はどうするの?」
「ギルドに行って、良い依頼がないか見てみようと思う。家を買うために、お金も稼がないといけないし、この世界についての情報収集も必要だしね。」
ギルドの外でも中でも、多くの視線を感じるがスルーする。
受付にはよらず、依頼ボードを見に行こうとすると、
「ユウマさーん!」
受付から声を掛けられた。声を掛けたのは、ノアさんらしいので、僕達はそちらに向かった。
「どうかしましたか?」
「ユウマさんが依頼を受けられるのであれば、この依頼はどうかなと思いまして。」

================
件名:商品輸送の護衛
推奨ランク:C以上
報酬:5,000G
ポイント:500
※人または商品の一部に被害を受けた場合、その分を差し引く。ただし、天災等の不可抗力によるものは除く。
その他条件:人選はギルドに一任する。
================

「この依頼主の商人さんは、信頼できる方ですよ。既に3人パーティーの方が受けられてますが、Cランクの方々なので、もう少し人数が欲しいんです。でも、今は商品の往き来が活発なため、護衛で出てる人も多くて……。出発予定は明後日に迫ってるので、ユウマさんが受けられるならありがたいなと思いまして。あ、もちろん、私見ではなく、ギルドの判断ですよ。」
ノアさんは、すごい勢いで説明してくれた。今日は、ずいぶん熱いな。
まあ、信頼できる商人なら、今後のために顔を売っておくのも良いし、情報収集に関しても期待できそうだ。
「ルナ、どうする?」
「あなたに任せるわ。」
丸投げかよ!って、まあ仕方ないか。
「じゃあ、受けることにするよ。クレアもステラも問題ないかな?」
「「問題ないわ。」」
「皆も問題なさそうなので、この依頼受けることにします。」
「ありがとう。手続きをするから、待っててね。」

しばらく待っていると、ノアさんに呼ばれた。
「これは、依頼達成証明書。依頼を達成したら、依頼主からサインをもらってね。」
「わかりました。」
「あと、今日の午後から、依頼主と護衛を受けてるパーティーとで打合せがあるんだけど、参加できる?」
「はい、できます。」
「じゃあ、五の鐘がなったら集合ね。」
「すみません、鐘とは?」
そう言えば、昨日は時間のことを気にしなかったな。
ノアさんの説明によると、夜明け後1回鳴るのが一の鐘、二の鐘で2回、三の鐘で3回と鳴る回数が増えていき、4回鳴る四の鐘がお昼。
昼休み空けに鳴る五の鐘は1回で、夕暮れの十の鐘までまた回数が増えていくらしい。
「ありがとうございました。基本的なことを教えてもらってすみません。」
「構わないわよ。これも仕事だから。」

ギルドを出ると、3回鐘が鳴った。まだ、打合せまでには時間があるので、不動産屋に行こう。
実際に家を見にいくとしたら、打合せの後だな。

「なかなか良い家がないな。」
売り家はあるが、皆小さい。僕だけで住むなら十分だが、それでは意味がない。ちなみに、それくらいの家で、大体100,000Gくらいだ。元の世界と同じで、大抵分割払いにするらしい。
結局この日は、めぼしい家は見つからなかった。
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