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おはなし1:モンスター おぶ のーまる
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みっちゃん 今回の主人公。授業はBluetoothイヤホン装着派。
くらすめいと みっちゃんのクラスメイト。流行に遅れないことがステータス。みんな一緒意識。
――――――――――――――――
モンスター おぶ のーまる
教室に這いずる机で出来た蛇の列。
そんな並んだ蛇の右から5番、前から6番、後ろから2番目、蛇の尻尾付近の席。
今日もここは光があたる。
窓の光と、蛍光灯。
窓が光っているのにどうして電気をつけるのか、そう誰かに聞いたら笑われた。
――みっちゃん何言ってるのー?窓は光らないよー。
光っているのに、煌々と。
でも光っていないらしい。
どうやら誰かさんからすると私はお腹がよじれるほど可笑しいようだ。
ケラケラケラ
でも実際、私に窓の光は差している。
だから今日も窓は光っている。
「みてみてー」「うわ、超可愛いー」「新作?」「カーネットの?」「すごーい!」
私の居場所から2マス先、蛇のお腹付近。
たくさんの誰かさんたちが話を始めた。
聞いたことのない言葉が回る巡る。
別言語 not母国語
そもそも言葉なのか。
人なのか。
同じような顔が同じような言葉を同じ笑い方でぶつけあう。
どこかで見たことのある光景だった。
ロボット工場。同じものが量産されていく現場。
そうか、あれ、量産品か。出荷されてきたのか。
みっちゃん、納得。
着ているものだけは、私も誰かさん、ロボットたちと同じだった。
私も出荷品だった。
向こうが不良品で私が成功品なのか、私が不良品で向こうが成功品なのか。
それはどちらも同じことだ。
違いは違うことだけ。
もしかしたら生産ラインが違うのかもしれない。
地域限定品、みっちゃん。
格好悪い『括弧』笑い。
「ねえねえみっちゃん、コレ、見て!」
ウィンウィンガシャン
生産??105 ツインテールが話しかけてきた。
手に持たれたピンクの布はがまぐち型。
「ポーチだよ!新作!」
らしかった。
新作という割にはそれはよく見かけるデザイン。ネットで同じようなものがゴロゴロしていそうだった。もしかしたら新しく取り込まれたロボットのパーツなのかもしれない。
それは無くちゃ困るなー。
「みっちゃん無反応?」
「超可愛くないの?」
「新作だよ?」
「カーネットだよ?」
「すごくない?」
??105に続いて106、107、108、109が一斉に話しかけてきた。
同じ顔が近づいてくるのは不気味だ。花の香りが鼻をつく。香りだけは各々違うようだった。鼻がもげる。
気味悪い。
「あ、もしかしてみっちゃん、このブランド知らないの!?」
「それ超やばい!」
105と106が騒ぎ始めた。読んでいた本をぱしんっと閉じられる。
栞綴じてないのに。
ページメモリー機能なんて私にはついていない。106にはついているのかも。それなら私は不良品だ。
セーブも栞も記録も大事。
「ダメダメみっちゃん、流行はチェックしなくちゃ!」
「みんな持ってるし」
「みんな知ってるもん!」
「「みっちゃんなんかズレてるよ」」
一斉に量産された笑いが響く。笑い声も同じとは驚いた。私はどうやらズレているらしい。それは大変だ。普通が一番だとどっかのロボットが言っていた。
「そうだ!今日一緒にショップ行こうよ!」
「それいい!」
「みっちゃん、放課後空いてる?」
「空いてるよね?」
「よかった!じゃあ決まり!」
パタパタパタ。一斉にロボットたちが散っていった。チャイムが鳴ったらしい。
今し方交わされた約束の本質も考えず、流れっぱなしの音楽が鳴り響く耳にフィットする形状のプラスチックを手にとった。
――――――――――――――――
おはようございます!みなさん今日も普通ですね!普通でありふれていますね!お洒落も音楽も勉強も!普通なものしかないですね!素晴らしい!普通が一番!水は盆から溢れてはいけないのです!みなさん今日も明日も一昨日も!
ありふれたつまらない異常な普通を求めましょう!
――――――――――――――――
今日の蛇は変だった。否、それは普通のことだった。普通と当たり前が溢れていた。でも変だった。
みんな普通だった。筆箱も髪型もペンも鉛筆もノートも教科書の置き方も鞄もランチバッグも足の位置手の動き目線、一挙手一投足何から何まですべてが同じだった。同一。一つも変わったことがない。不変。いや、変ではある。これは変だ。誰も疑うことなく、コンマ1秒数分のズレを見せることなく同じ動きをしていた。
蛇の尻尾付近、私だけ違った。
この空間でズレているのは、可笑しいのは、間違いなく私だった。紛うこと無き異常は、私だけだった。
動かない。私だけ微動だにしない。普通じゃないズレている圧倒的にズレている。
これだけの人が同じ動きをしているなら、そう考えるのが、“普通”だ。みんなしているんだから、揃えなさい。昔からの説教文句。
昔の人の教えは偉大である。
私も、従わなければ。
この前買ったナントカという流行りのブランドのポーチ。その中に入っているのはニュースでたまに見かける、黒い塊。開ければ火薬の臭いが漂う。流行りものが普通というならば、私の手の物は最高に普通だ。よく見かける。マスメディアは信じるべきです。コレ、教訓。
机の上に立ち、スイッチを掲げ、ポーチの中身、即ち黒い塊を、教室の真ん中へ、投げつける。同じ動きで同じ視線が一斉にこちらを向いた。それはまさに量産品のなせる技。同じプログラムを入れられた、つまらない普通の証拠。私だけまったく違う動き。やはり私は普通ではないのかもしれない。
量産品ロボット達の口が一斉に動いた。
何故か、声は耳には届かない。
シャカシャカとした音楽が聞こえるだけ。
これを押せば私も普通だ。
新しい私の始まりだ。
これは未来への導だ。
さあ、未来へのスイッチを押そう
「み ん な 同 じ だ こ れ が 普 通 だ」
そして、蛇は吹き飛んだ。
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