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ホワイトデー編
眠り続けるキュリオ
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王の寝室には女官や侍女らが待機していたが、キュリオのベッド脇にはガーラントが控えていた。
「お父様!」
この時ばかりはノックすることも忘れ、キュリオの私室へと飛び込んだアオイ。
いつもならば銀縁のソファに腰掛けたキュリオが微笑んでくれるはずの光景が今日はない。それどころか、日の高いうちにベッドへ身を横たえる見慣れない王の姿が遠くに映った。
「お帰りなさいませ、アオイ様」
古びた杖をつきながらアオイを出迎えた<大魔導師>。彼の表情からはキュリオの容態は詳しく伝わってこない。
「……っ先生、お父様は……」
「むぅ……それが儂にも原因がわからんのです。ご覧の通り、姫様がお出掛けになった後にキュリオ様も御準備されまして、その直後――」
ガーラントの言葉を聞きながらキュリオへと視線を下げると、羽織っていたらしい上着こそ脱がされているが、首元から見える寛(くつろ)げられた白襟はまさに教師としての服装だった。
「お父様……」
アオイはシーツの中に沈むキュリオの左手を両手で握りしめた。
元より体温が低めのキュリオの手はひんやりと心地よかったが、それが今は大きな不安を掻き立てる。
「ごめんなさいお父様……私のせいでっ……」
(お願い……目を覚まして)
王を欠いた悠久の国が数日のうちにどうなるわけではないが、そんなことよりキュリオの心身が無事であるようにとアオイはひたすらに祈る。
(お父様を失うくらいなら学校に行けなくていい……。アオイはずっとお傍に居ります。お父様――)
『――このぬくもりは……』
自分のものではない、あたたかなものが触れた感覚に銀髪の王は自身の左手を見やる。
悠久に似た風景でありながら、人の手が加えられていない大自然のありのままの姿を映した不思議な空間にキュリオの意識は留まっていた。
『…………』
彼の隣で片膝を立てて腰を下ろしていた金髪の青年。
翡翠の色を瞳に宿した彼は神秘的な容貌を裏切ることなく宝石のような瞳からは感情を読み取ることができないほどにその心は無に等しい。親しき仲である悠久の王にさえ大して気に留めた様子もなくただその光景を横目で見ていた――。
「お父様!」
この時ばかりはノックすることも忘れ、キュリオの私室へと飛び込んだアオイ。
いつもならば銀縁のソファに腰掛けたキュリオが微笑んでくれるはずの光景が今日はない。それどころか、日の高いうちにベッドへ身を横たえる見慣れない王の姿が遠くに映った。
「お帰りなさいませ、アオイ様」
古びた杖をつきながらアオイを出迎えた<大魔導師>。彼の表情からはキュリオの容態は詳しく伝わってこない。
「……っ先生、お父様は……」
「むぅ……それが儂にも原因がわからんのです。ご覧の通り、姫様がお出掛けになった後にキュリオ様も御準備されまして、その直後――」
ガーラントの言葉を聞きながらキュリオへと視線を下げると、羽織っていたらしい上着こそ脱がされているが、首元から見える寛(くつろ)げられた白襟はまさに教師としての服装だった。
「お父様……」
アオイはシーツの中に沈むキュリオの左手を両手で握りしめた。
元より体温が低めのキュリオの手はひんやりと心地よかったが、それが今は大きな不安を掻き立てる。
「ごめんなさいお父様……私のせいでっ……」
(お願い……目を覚まして)
王を欠いた悠久の国が数日のうちにどうなるわけではないが、そんなことよりキュリオの心身が無事であるようにとアオイはひたすらに祈る。
(お父様を失うくらいなら学校に行けなくていい……。アオイはずっとお傍に居ります。お父様――)
『――このぬくもりは……』
自分のものではない、あたたかなものが触れた感覚に銀髪の王は自身の左手を見やる。
悠久に似た風景でありながら、人の手が加えられていない大自然のありのままの姿を映した不思議な空間にキュリオの意識は留まっていた。
『…………』
彼の隣で片膝を立てて腰を下ろしていた金髪の青年。
翡翠の色を瞳に宿した彼は神秘的な容貌を裏切ることなく宝石のような瞳からは感情を読み取ることができないほどにその心は無に等しい。親しき仲である悠久の王にさえ大して気に留めた様子もなくただその光景を横目で見ていた――。
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