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ホワイトデー編

アオイのお願い

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「…………」

 強制的にベッドへ寝かされてしまったアオイ。硬めのシーツと枕のカバーは適度な快適さを保ちながらも、なかなか安眠を与えてはくれなかった。

(さっきカイが言ってたのってこういうことかな……)

"貴方を縛り付けておくことが許される、唯一のお方だから――"

(いままでお父様に守られてる自覚はあったけれど、縛られているなんて思ってもみなかった……)

"判断を誤る年端もいかない子供を管理するのは親の役目だ"

(でも、お父様の言われることも間違ってなくて……)

 頭と心を整理しきれないアオイはアランに扮したキュリオに背を向けながら真っ白なシーツを頭から被る。

(……この息苦しさは、なに……?)

 無理矢理目を閉じてみても、沸々と湧き上がる不安定な感情が胸をざわつかせる。
 持て余した想いが溜息となって唇の端から零れると、わずかに軋んだベッドに体が強張る。

――ギィッ

「……っ!」

(……嘘、アラン先生……?)

 まさか学校のベッドで枕を共にしようというのか? 
 揺れ動いた背後へ意識を集中させながらも色々な考えが脳裏をめぐる。
 いつ急病人が入室してくるともわからない保健室で、いくらなんでもそれはないだろうと自分に言いきかせてみても、彼をよく知る頭は警鐘を鳴り響かせる。

「…………」

 しかし、それっきり動く気配のないアラン。
 やはり教師を語っているだけあって、その辺は取り越し苦労だったと安堵していると、視界を覆っていたシーツが取り払われ……

「ひとりで眠れないのなら添い寝をしようか?」

 首元を寛げたアランが、溢れる色香を存分に放ちながら目の前で微笑んだ。
 アランに囲われるようにベッドへ身を沈めたアオイは、返事に迷いながらも小さく首を振って答えた。

「……いまは添い寝も睡眠も必要ありません。私は……勉強がしたいんです」

 切実に訴える幼い瞳。しかし、そんな言葉はすべてお見通しとばかりに伸びてきたアランの指先が、アオイの前髪を愛おしげに梳いた。

「わざわざ遠いこの地へ足を運ばずとも勉強はできるだろう?」

「……っ今日の遅刻を数えても、お父様との約束にはまだ届いていないはずです!」

 激しく"イヤイヤ"で訴える愛娘を宥めるように、まわした腕で背を撫でながら耳元で呟く。

「私が何故こんな教師の真似事をしていると思う?」

「そ、それは……」

(……そんなのひとつに決まってる……)

 わかっていても口にするのは躊躇ってしまう。それは"自惚れ"という名の"甘え"だからだ。

「お前が城の中で大人しくしているなら私の手間も省ける。それでも外の世界が知りたいというのなら共にどこへでも足を運ぼう」

 アランが翳した手の中で蜃気楼のように光るのは、見たこともない悠久の大自然や歴史的価値のある古びた建造物たちだ。

(……そうじゃない、私は欲しいのはっ……)

 どこかズレてる父親との想いが親子の愛情ではない何かを感じさせる。

「……お父様、お願いです。お城の中でワガママはもう言いません……だから、それ以外のところでは……もう少し自由にさせて頂けませんか?」



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