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鳥羽翼
翼とシェア?
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「食堂へ行くのも気が引けるのでしたら、食事は僕がここに運びますので安心してくださいね」
「ごめんね、気を使わせちゃって……」
「いいえっ! 僕も嬉しいんです。あまり友達いないから」
部屋へと到着するなり、いそいそとクローゼットから何かを取り出す翼。
彼の可愛い背中を微笑ましく見つめながら辺りを見回すと、きちんと整えられ掃除が行き届いた部屋であることに気づき、感心のため息が漏れる。
(どこもかしこもピカピカ……ベッドメイキングも完璧だし)
部屋の造りは、ややこちらのほうが大きいだろうか?
まりあの目には、とあるものが留まり、明らかに違うソノ部分が部屋の大きさの違いを物語っている。
「翼くんは誰かとルームシェアしてるの?」
玄関を入ってまず二足のスリッパが目につき、ベッドやカップ、室内のあらゆるものが二セットずつ置かれているからだ。
「あ、……そうですね。といってもほとんど顔を合わせることはありませんし、新品同然なんで使っちゃって大丈夫ですよ」
「ほら、これとか!」
クローゼットの奥に眠っていた自分と色違いのパジャマを取り出した翼が満面の笑みで近づいてくる。
「サイズは……ちょっと大きいですね」
パジャマを軽くまりあへとあてがうと、小首を傾げた彼は綺麗に畳みなおす。
「もし、あまりに大きいようなら僕、先輩の部屋からパジャマ持ってきますので……」
「ううんっ! ありがとう、大丈夫だよ。でも、お友達に悪いような……」
いくらルームシェアをしていた翼の許可があったとしても、まりあ個人はその彼と面識がないため、断りもなく私物を借りるのは罪悪感が残る。
「…………」
歯切れの悪い言葉を口にしたまりあに、キョトンとした翼はじっとこちらを見つめ、そしてようやく気づいた彼は”あっ”と声を上げた。
「……?」
「すみません、気づかなくて。それなら僕のパジャマをまりあ先輩が着るっていうのはどうでしょう?」
「私が翼くんの……?」
「はい! 先輩は了解を得ていない人のものに袖を通すことを躊躇っているのですよね?」
「うん、そうなんだけど……」
「僕は適当に使っていいって彼に言われてるので、僕が着れば問題ないはずです!」
「あ……そっか、じゃあ翼くんのパジャマ借りてもいいかな?」
「はいっ! これで解決ですね!」
(なんか凄くあたたかい……翼くんが傍に居てくれてよかった……)
養父母が亡くなってから数年。
寂しいと感じたことのないまりあだが、麗や焔、慶の事もあり……自分でも気づかぬうちに少なからず傷心していたようだ。
面倒だと思った人付き合いもこうして優しい翼の心に触れていると、人が恋しいと思えてくるから不思議なものだ。
「あ、もうこんな時間ですね。僕、食事を運んできますので先輩はシャワーでも浴びて待っててください!」
「ありがとう翼くん。何から何までごめんね」
「いいえ、先輩さえよければ……いつまででもこの部屋に居ていいですからね?」
なぜか嬉しそうな翼にまりあは小さく頷く。
「なるべく部屋に戻る努力はするけど、もしそうなったらよろしくお願いします」
「はいっ! もちろんです!」
”じゃあ行ってきますね!”と元気よく部屋を飛び出した彼を見送り、お言葉に甘えてバスルームを借りることにする。翼との楽しい食事の前に、嫌な感触や思考を洗い流したかったからだ。
「明日も明後日も授業ないんだった……」
いくら授業がなくとも、顔を出さない新入生はどうだろう。
このままでは悪い意味で目立ってしまい、溶け込めない自分が容易に想像できる。
「……翼くんが同じクラスの子だったら良かったのにな……」
今日一日の悪い記憶を消し去るように、十六の少女は熱いシャワーにその身を捧げた。
「ごめんね、気を使わせちゃって……」
「いいえっ! 僕も嬉しいんです。あまり友達いないから」
部屋へと到着するなり、いそいそとクローゼットから何かを取り出す翼。
彼の可愛い背中を微笑ましく見つめながら辺りを見回すと、きちんと整えられ掃除が行き届いた部屋であることに気づき、感心のため息が漏れる。
(どこもかしこもピカピカ……ベッドメイキングも完璧だし)
部屋の造りは、ややこちらのほうが大きいだろうか?
まりあの目には、とあるものが留まり、明らかに違うソノ部分が部屋の大きさの違いを物語っている。
「翼くんは誰かとルームシェアしてるの?」
玄関を入ってまず二足のスリッパが目につき、ベッドやカップ、室内のあらゆるものが二セットずつ置かれているからだ。
「あ、……そうですね。といってもほとんど顔を合わせることはありませんし、新品同然なんで使っちゃって大丈夫ですよ」
「ほら、これとか!」
クローゼットの奥に眠っていた自分と色違いのパジャマを取り出した翼が満面の笑みで近づいてくる。
「サイズは……ちょっと大きいですね」
パジャマを軽くまりあへとあてがうと、小首を傾げた彼は綺麗に畳みなおす。
「もし、あまりに大きいようなら僕、先輩の部屋からパジャマ持ってきますので……」
「ううんっ! ありがとう、大丈夫だよ。でも、お友達に悪いような……」
いくらルームシェアをしていた翼の許可があったとしても、まりあ個人はその彼と面識がないため、断りもなく私物を借りるのは罪悪感が残る。
「…………」
歯切れの悪い言葉を口にしたまりあに、キョトンとした翼はじっとこちらを見つめ、そしてようやく気づいた彼は”あっ”と声を上げた。
「……?」
「すみません、気づかなくて。それなら僕のパジャマをまりあ先輩が着るっていうのはどうでしょう?」
「私が翼くんの……?」
「はい! 先輩は了解を得ていない人のものに袖を通すことを躊躇っているのですよね?」
「うん、そうなんだけど……」
「僕は適当に使っていいって彼に言われてるので、僕が着れば問題ないはずです!」
「あ……そっか、じゃあ翼くんのパジャマ借りてもいいかな?」
「はいっ! これで解決ですね!」
(なんか凄くあたたかい……翼くんが傍に居てくれてよかった……)
養父母が亡くなってから数年。
寂しいと感じたことのないまりあだが、麗や焔、慶の事もあり……自分でも気づかぬうちに少なからず傷心していたようだ。
面倒だと思った人付き合いもこうして優しい翼の心に触れていると、人が恋しいと思えてくるから不思議なものだ。
「あ、もうこんな時間ですね。僕、食事を運んできますので先輩はシャワーでも浴びて待っててください!」
「ありがとう翼くん。何から何までごめんね」
「いいえ、先輩さえよければ……いつまででもこの部屋に居ていいですからね?」
なぜか嬉しそうな翼にまりあは小さく頷く。
「なるべく部屋に戻る努力はするけど、もしそうなったらよろしくお願いします」
「はいっ! もちろんです!」
”じゃあ行ってきますね!”と元気よく部屋を飛び出した彼を見送り、お言葉に甘えてバスルームを借りることにする。翼との楽しい食事の前に、嫌な感触や思考を洗い流したかったからだ。
「明日も明後日も授業ないんだった……」
いくら授業がなくとも、顔を出さない新入生はどうだろう。
このままでは悪い意味で目立ってしまい、溶け込めない自分が容易に想像できる。
「……翼くんが同じクラスの子だったら良かったのにな……」
今日一日の悪い記憶を消し去るように、十六の少女は熱いシャワーにその身を捧げた。
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