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黒宮(くろみや)炎(えん)

タイムアウト

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「この……っくまブラ!! 勝手に出歩くなっ!」

「……っっ!?」

 ズイと間近に迫った顔はどうやら焔のものらしい。
 聞き慣れた不機嫌そうな低い声は嫌でも忘れることができない。

「聖はどうしたっ! なんでお前がここにいる!?」

「……っい、一度にあれこれ質問しないでっっ!」

 強く掴まれた腕を思いきり振りほどきながら焔を拒絶すると、焦ったような足音と声が後方から近づいてくる。

『まりあっ!? まりあ!!』

「っ! ……お父さんっ!」

(もうそんなに時間が……)

「その様子だと聖の目を盗んで出てきたみたいだな……」

「……なんで……なんで行動を制限されなきゃならないの……?」

「こんな時間に出歩くなんてまともじゃないだろ。お前んとこの門限は夕方六時だろうが」

「そんなの聞いたことないし!!」

「黙れ非行少女」

「……なっ!!」


――バタバタッ……ダッ!!


 痴話喧嘩のような言い合いをしていると、大きく踏み切った足音が背後から聞こえた。

「まりあ! ……焔さんっ!?」

 美しい髪を振り乱した聖は愛娘と……彼女に詰め寄る焔の姿をその瞳にとらえた。

「おとう、さん……」

 いまとなっては突き放された言葉以外に、黙って部屋を出てきた罪悪感もある。あまりの気まずさから視線を下げる。

「……よかったまりあっ……」

 焔からその身を隠すように広い胸の中へ強くまりあを抱く聖。まわされた腕は微かに震えており、いけないことをしてしまったのだと深く思い知らされる。

「……ごめんなさい……」

 心からの謝罪の意を込めてあたたかい胸に頬を寄せる。

(……心臓まで震えてる……そんなに私のことを心配して……)

 さらに彼の背に腕をまわそうとして気づいた。

「あ……」

「……? どうかした?」

 咎めるでもなく、優しい声が耳に落ちる。

「これ……」

「……これは……翼さんのパジャマ?」

 暗闇に慣れてきたまりあの目にも抱えられたものがはっきり見える。

「うん……」

「そっか、ごめん。僕がずっと仕舞ったままにしてたから……」

 聖はまりあを責めることなく微笑み、乱れた娘の髪を優しく梳いた。

「……んなもん明日にしろ。とにかく夜は出歩くな」

 大げさなため息をついた焔はシッシッと厄介払いするように小さく手を振っている。

「……部屋に戻ろう。まりあ」

「うん……」

 聖に肩を抱かれ、元来た通路を歩いていくふたりの姿が見えなくなると――

「なにかわかったか?」

 目を閉じた彼はまるで独り言のように呟いた。

「……えぇ」

 焔の呼びかけに現れたのは朧だった。暗がりの中で、ずっとまりあの後をつけていたふたりは彼女の一挙一動を監視していたのだ。

「……彼女は内なる心の声にようやく耳を傾け始めたようです。人間らしい感情を少しですが垣間見ることができました」
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