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悠久の王・キュリオ編2
《番外編》バレンタインストーリー12
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その後、女官や侍女にバレンタインデー時のキュリオの様子を聞いたアオイは、こっそり彼女らの協力を得ながら此度の作戦を練っていたのだった。
やはり民からの贈り物は一切受け取らない悠久の王は、この日届いたすべての物を孤児院へと運ばせているというのだ。そして民の中に恐らく含まれる自分の贈り物もキュリオは受け取らないだろう、と考えたアオイは自分が街で見かけた美味しそうなスイーツを食事の場に出してもらったと嘘をつこうと考えたのだ。
(これならきっと、お父様も気兼ねなく口にしてくださるはず……)
受け取れないものを無理に押し付けるわけにもいかず、しかし……初めて作った手作りのチョコレートを食べてもらいたいと願うアオイの心が考えた末の作戦がこれだ。
――そして俯いてしまったアオイを立ち直させるために補足と助言を叫んだミキの言葉がここで役に立った。
「はいっ! お城の皆やダルド様には”友チョコ”を配ろうと思ってます!」
「……友チョコ?」
案の定、流行りの言葉を知らないキュリオはまだその疑いの眼差しを晴らしてはくれない。
(やっぱりお父様も知らない……それならっ!)
「友達にあげるチョコレートを友チョコっていうんです!」
何でも知っているはずのこの完璧なキュリオに言葉を教える日がとうとう来たっ!
アオイはちょっと得意げにミキに聞いたままの言葉を適切なタイミングで発することができたと言えよう。
「……ならば……」
「お前の”本命”はどこにある?」
「え……?」
「この国のバレンタインデーは女性から想いを伝える日でもあると、私も記憶している」
「……」
(本命って一番って意味だよね……?)
キュリオの言葉に微笑んだアオイは彼の空色の瞳を見つめながら心を込めて言葉を紡ぐ。
「私の”本命”はお父様です。いままでも、これからもずっと」
アオイの愛にあふれる言葉と視線を受けたキュリオの顔が幸せそうに和らいでいく。
「私には永遠に意味のない日だと思っていたが……」
「……?」
「お前から愛の証が得られるのならば、私はこの日を喜んで迎い入れよう」
アオイを両腕で抱きかかえたキュリオが椅子から腰を浮かすと――
「きゃっ」
小箱を手にしたまま咄嗟に父親の首元に腕を回したアオイ。
必然に互いの顔は近くなり、キュリオの微笑みが間近に迫る。
「お、お父様……?」
やがて扉へ向かって歩き出したキュリオにアオイは戸惑い、彼の意図を汲み取ろうとその美しい横顔を見つめた。
「今日は想いの通じ合った恋人同士が甘い一日を過ごす日でもある」
「……」
(お父様はきっと一番という意味で恋人同士って言って下さってるんだ……)
「じゃあ、お父様の"本命"も――」
込み上げるあたたかな気持ちがアオイの頬をゆっくり染める。
「いつも言っているだろう? お前を誰よりも心から愛していると」
やはり民からの贈り物は一切受け取らない悠久の王は、この日届いたすべての物を孤児院へと運ばせているというのだ。そして民の中に恐らく含まれる自分の贈り物もキュリオは受け取らないだろう、と考えたアオイは自分が街で見かけた美味しそうなスイーツを食事の場に出してもらったと嘘をつこうと考えたのだ。
(これならきっと、お父様も気兼ねなく口にしてくださるはず……)
受け取れないものを無理に押し付けるわけにもいかず、しかし……初めて作った手作りのチョコレートを食べてもらいたいと願うアオイの心が考えた末の作戦がこれだ。
――そして俯いてしまったアオイを立ち直させるために補足と助言を叫んだミキの言葉がここで役に立った。
「はいっ! お城の皆やダルド様には”友チョコ”を配ろうと思ってます!」
「……友チョコ?」
案の定、流行りの言葉を知らないキュリオはまだその疑いの眼差しを晴らしてはくれない。
(やっぱりお父様も知らない……それならっ!)
「友達にあげるチョコレートを友チョコっていうんです!」
何でも知っているはずのこの完璧なキュリオに言葉を教える日がとうとう来たっ!
アオイはちょっと得意げにミキに聞いたままの言葉を適切なタイミングで発することができたと言えよう。
「……ならば……」
「お前の”本命”はどこにある?」
「え……?」
「この国のバレンタインデーは女性から想いを伝える日でもあると、私も記憶している」
「……」
(本命って一番って意味だよね……?)
キュリオの言葉に微笑んだアオイは彼の空色の瞳を見つめながら心を込めて言葉を紡ぐ。
「私の”本命”はお父様です。いままでも、これからもずっと」
アオイの愛にあふれる言葉と視線を受けたキュリオの顔が幸せそうに和らいでいく。
「私には永遠に意味のない日だと思っていたが……」
「……?」
「お前から愛の証が得られるのならば、私はこの日を喜んで迎い入れよう」
アオイを両腕で抱きかかえたキュリオが椅子から腰を浮かすと――
「きゃっ」
小箱を手にしたまま咄嗟に父親の首元に腕を回したアオイ。
必然に互いの顔は近くなり、キュリオの微笑みが間近に迫る。
「お、お父様……?」
やがて扉へ向かって歩き出したキュリオにアオイは戸惑い、彼の意図を汲み取ろうとその美しい横顔を見つめた。
「今日は想いの通じ合った恋人同士が甘い一日を過ごす日でもある」
「……」
(お父様はきっと一番という意味で恋人同士って言って下さってるんだ……)
「じゃあ、お父様の"本命"も――」
込み上げるあたたかな気持ちがアオイの頬をゆっくり染める。
「いつも言っているだろう? お前を誰よりも心から愛していると」
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