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悠久の王・キュリオ編

アレスの役目Ⅰ

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「キュリオ王、アレスの杖いつでも創れる」

 カイの剣を生成中の魔導書はまだ輝きを放っているが、彼曰く"よほどの熟練者の武器でなければ同時に創ることは可能"だそうだ。

「では奥の部屋に行こうか」

 四人は和やかな雰囲気のなか、連れだって研究室の奥の部屋へと足を進めるが、最後尾のアレスは緊張によるためか強張っているように見える。
そこには吹き抜けの高い天井まで届きそうな勢いの本が無限に並べられており、ガーラントがよく引きこもっている部屋のひとつだった。

 ひんやりとした空気の中いくつもの燭台に火が灯され、中心には彼らの影がはっきりと映し出される。

「アレス、これから君だけの杖をダルドに創ってもらおうと思う」

「は、はいっ! もしかしてそれが新しいお役目と何か関係が……?」

 賢いアレスはさすがに察しがいい。
同席したガーラントはすでにその話について知っているため、遠回しな言い方はもはや必要ない。

「そうだね。ダルド、君にも聞いてもらいたい話なんだ」

「……わかった」

 武器を生成する身のダルドは、その持ち主がどんな任務に就くかなど知ったところでなんら関係のない話なのだが、いつもとは違う話の運びにピリリとした何かを感じたらしい。神妙な面持ちになった彼はキュリオへと全神経を集中させる。

「アレス。数日前の晩……私が精霊の国を訪れた話は知っているかい?」

「は、はい。なんとなくですが……」

 使者としての任務を完了し、道中で起こった様々な体験をガーラントやカイたちと話をしていたあの夜の出来事だ。
彼は魔術師の塔ですでに眠りについていたが、城全体が大きな騒ぎとなったため少なからずアレスの耳にも噂の端々が飛び込んできたのである。


「私には娘がいる。もちろん血の繋がりのない女の赤子だ」

「……っ!」

「……」

「……」

 反応は様々だった。
大きく目を見開いた若きアレスとは違い、キュリオの下した決断へどこまでも従順なガーラントとダルドは表情を変えることなく王の声に聞き入っている。

「彼女を見つけたのは聖獣の森だった。
たったひとり置き去りにされた赤子は調査の結果、悠久に肉親は存在しないことがわかった。そこで君たちに使者として届けてもらった書簡があっただろう? あれは彼女の出生を調べるために他国へ出した協力要請だったのさ」

「…………」

(……聖獣の森……
僕は彼らと言葉を交わすことが出来る? なにか手がかりは……)

ダルドは人型聖獣であるため、なんとかできそうな予感が脳裏を掠めていく。
しかし、彼は聖獣という概念より人間として生きている。そのため聖獣へ近づいたり言葉を交わしたことがないのだ。

「……」

(たしか<冥王>マダラ様のとき……「該当者なし」と言っていた。
他の三国の回答はわからないけれど、少なくとも精霊の国の出であることは考えられない。ということは残り二ヵ国……)

 悠久の国と親交のあるエデン王の治める雷の国か、それとも――……。
書簡の内容をどんなにガーラントに問うたところで口を割らなかった理由がこれだ。もし、その赤子がどこの国の者かもわからないとあれば彼女は将来、心なき民たちにひどい仕打ちを受ける可能性があったのだ。

 そしてキュリオはすでにその赤子を"娘"と呼んでいる。

想像するに彼女の肉親は現れなかったか、出生不明で終わったに違いない。
 キュリオの大きな慈悲の心が垣間見え、ロイ同様アレスは今更に尊敬の眼差しでキュリオを見つめた。

(……キュリオ様はやっぱり凄い。得体の知れない恐れられるかもしれない存在に愛を……)

この世界にはヴァンパイアという種族が存在している。悠久を苦しめたというあの忌まわしい存在だ。

「聡明なふたりならば、おおよその察しはついただろう?」

 ダルドとアレスはキュリオの真剣なまなざしを受け、小さく頷いたのだった。
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