その香り。その瞳。

京 みやこ

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(151)SIDE:奏太

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 絶頂を迎えた僕たちは、その体勢のまま、荒い呼吸を繰り返している。

 体を折り曲げている僕に斗輝がのしかかっているので、その分、肺が少し圧迫されて息が苦しい。

 だけど、まだペニスを抜いてほしくなかったし、彼のぬくもりが離れていってほしくなかった。

「と、き……」

 掠れた小さな声で彼の名前を呼ぶと、彼が心配そうに僕を覗き込む。

「今、抜くから」 

 真上から見つめてくる彼に、僕は不格好と分かっていてもなんとか笑みを浮かべて見せた。

「まだ……、このままで、いて、ね……」

 約束通り、斗輝は僕のナカに出してくれた。

 体内に彼の存在を感じながら、その余韻にもうしばらく浸っていたいのだ。

 すると、彼の瞳に浮かんでいた心配の色が濃くなった。

「だが、奏太が苦しそうだ」

 僕よりも圧倒的に体力があるという点と体勢の違いもあって、彼の呼吸はほとんど整っていた。

 僕はいまだにゼイゼイと喘ぎながら、必死に酸素を取り込んでいる。彼が心配するのも仕方がない。

 それでも、このままがいいのだ。

「苦しい、けど……。斗輝と、はなれたく、ない……」

 改めて微笑みかけたら、彼が眉根を僅かに寄せて困ったように笑う。

「俺も離れたくないが、奏太が苦しい思いをするのは嫌だな。別に、この体勢じゃなくてもいいと思うぞ」

「やだ。これが一番深いところで、斗輝を感じられる」

 僕の答えを聞いて、彼は苦笑を深めた。

「それなら、騎乗位や対面座位でも、深く繋がっていられる。なにも、このままの体勢を続けなくてもいいだろ」

「やーだー」

 気遣ってくれる彼の優しさは分かるが、僕はプウッと頬を膨らませてみせた。

 いくらか僕の呼吸が整ってきたものの、頭の芯はグズグズに蕩けたままだ。

 小さな子供のように駄々をこねるせいで、これまでの艶っぽい雰囲気が一気に薄れてしまっただろう。

 それでも彼は呆れることなく、優しい視線を僕に向けている。

「なぜ、この体位のままがいいんだ?」

 問い掛けられた僕は、ちょっとだけ照れくさそうにしながら口を開いた。

「上から斗輝が挿っているから、出してもらった精液が零れないでしょ」

 僕がフニャリと頬を緩ませたら、彼の喉がゴクリと鳴る。

「……こんなにも無邪気な笑顔なのに、俺の官能を直撃してくるとは」

 ポツリと呟かれた言葉が聞き取れなくて、僕はパチリと一回瞬きをした。

 そこで、彼の瞳に妖しい光がふたたびギラついていることに気付く。

「斗輝、なんて言ったの?」  

 話しかけると、形のいい目が緩やかに弧を描く。

「奏太は可愛い上に色っぽくて、最高の番だって言ったんだ」

「ホントに?」

「ああ、本当だ。俺が奏太に嘘をついたことがあるか?」

 僕はフルリと首を横に振る。

「ない」

「そうだろ」

 そう言って、彼はさらに目を細めた。

 そんな彼の黒い瞳が、光を強める。

「奏太が許してくれるなら、頼みたいことがあるんだが」

 静かだけど、キリッとした強さのある声だった。



――僕のわがままをいっぱい聞いてもらったんだから、今度は僕が斗輝のお願い事を聞いてあげなくちゃ。



 なにを言われるのかちっとも見当が付かないものの――まぁ、彼が僕をひどい目に遭わせるなんて、万に一つの可能性もないけれど――、僕はコクンと頷き返す。

 すると、斗輝が少しだけ体重をかけてきた。

「この体勢のまま、軽く動いてもいいか?」

「ふぇ?」

 言われたことの意味が分からなくて、間抜けな一言が僕の口から零れる。

 二回戦が始まるというのとは、どうも意味合いが違うように思えた。単に再開するつもりなら、わざわざ『軽く』なんて言わないだろう。



――それなら、どういうこと?



 蕩けた頭ではまともに考えられないため、彼を見つめて首を傾げた。

 斗輝も僕のことをジッと見つめ返してくる。

「今は、特にアルファの本能が強く出ているみたいでな。早く奏太を楽な体勢に戻してやりたいが、あのように可愛いことを言われたら、本能を抑えることが難しい」

 僕には彼の言葉がやっぱり理解できない。



 だけど、僕を求めていることはなんとなく分かった。

 オメガとしてアルファの彼に応えたいという思いが湧き上がる。



 僕はゆっくりと大きく頷いた。

「うん。斗輝になら、なにされてもいいよ」

 それは、僕の本心から出た言葉だ。

 彼のことが好きで、彼のことを信用しているから。

 本気の本気で、なにをされても後悔しないし、彼を恨むことはない。

 それどころか、斗輝に求められていることが、なにより嬉しいから。

「斗輝、大好き」

 気持ちを込めて囁くと、また彼の喉がゴクリと鳴った。

「奏太は発情期ではないのに……。奏太も、オメガの本能が表れているということか?だとしたら、引きずられないように気を付けないとな。いくら『なにをしてもいい』と言われても、華奢な奏太を壊すわけにはいかない」

 スッと短く息を吸った斗輝は、ゆっくりと体重をかけてきた。

 彼がこれまでよりも前傾姿勢になったので、僕の肺にかかる負担がいくらか増す。

 それでも息ができないほどでもないし、なにより、彼が雄の色を深めた瞳を僕に向けていることが嬉しい。

 斗輝はユルユルと腰を前後に動かしながら、僕の首裏に腕を回してきた。

 そして、囲い込むように僕を抱き締める。

 誰にも渡さないとばかりに逞しい体にすっぽりと覆い尽くされた僕は、苦しいのに満足感でいっぱいだった。

 彼のペニスが抽挿されるたびに、繋がっている部分からはヌプッヌプッと、かなり粘ついた水音が零れる。

 それは僕が出した分泌液だけではなく、彼が放った精液も合わさっているからだ。

 おかげで、満足感が倍増した。

「は、あ、ぁ……、んん……」

 甘さに満ちた喘ぎを零す僕に、斗輝が囁きかけてくる。

「番であるオメガの体の一番深いところに己が放った精液を擦り込むのは、匂い付けの意味と、自分の子を孕ませるためだ。どんなに時代が変わろうと、どんなアルファであろうと、この本能には抗えない。大学を長期間休むことができない奏太にはこの前のように薬を飲んでもらうから、すぐに妊娠することがないのは、少々残念な気もするがな」

 優しい声音の彼が、優しく優しく腰を揺り動かす。

 そんな彼の言動に、胸で溢れた幸せが温かい涙となって僕の目から零れ落ちた。
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