その香り。その瞳。

京 みやこ

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(113)SIDE:奏太

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 斗輝の舌と指で丁寧に愛撫された僕の両乳首は、ぷっくりと膨らんでいた。
 なにをされても気持ちがよくて、それこそ、息を吹きかけられただけでも感じてしまう。
 さっきまでいくらか敬語を使えていたのに、すっかり蕩けてしまっているため、舌っ足らずな甘え口調になっていた。
「斗輝……、気持ち、い……。もっとして……、もっとぉ……」
 シーツを掴んでいた手で、彼の髪に触れる。
 指を艶やかな黒髪に差し入れ、キュッと握り締めた。
 快感に溺れているせいで大した力は入らず、きっと斗輝は痛みを感じないはずだ。まぁ、多少痛みがあっても、彼のことだから笑って許してくれるだろうけど。
 僕はゆっくりと息を吐き、自分のものよりも少し硬い髪に指を絡めた。
 すると、僕の乳首を愛撫している斗輝がクスリと笑う。
「こんなにも可愛くおねだりされたら、応えないとな。いや、強請られなくても、目いっぱい気持ちよくなってもらうつもりだが」
 彼が笑った拍子に、その吐息がこれまでたっぷり舐めしゃぶられていた右の乳首にかかる。
 くすぐったさを越える快感が、乳首からジワリと生まれた。
「ん……」 
 鼻を鳴らして小さく喘ぐと、彼がフウッと強めに息を吹きかけてくる。
 体が跳ねるほど大きな快感ではなかったものの、気持ちよさはしっかりと得られた。
「は、あ……」
 僅かに体をくねらせ、僕は熱のこもった呼気を吐く。
 そんな僕の様子に、彼はさらに苦笑を零した。
「真っ赤に熟れて、大きくなった奏太の乳首、すごく美味そうだ」
 そう言って、彼はそれぞれの乳首を交互に強く吸い上げる。
 時折、甘噛みされるのが、たまらなく気持ちがいい。
「あ、ああ……、ん……」
 小さく体を震わせて喘ぐものの、次第に物足りなさを感じてきた。

 それは、彼の愛撫に対してではない。
 愛撫だけでは物足りないということだ。

 乳首は十分に弄ってもらえたから、体の奥深いところで斗輝と繋がりたい。
 彼の硬くて太くて大きなペニスで、僕のナカを突き上げてほしい。
 自分が気持ちよくなりたいという思いもあるけれど、斗輝にも気持ちよくなってほしい。

 僕は震える指にソッと力を入れ、彼の髪を引っ張った。
 左の乳首に吸い付いていた斗輝は、静かに顔を上げる。
「どうした?」
 優しく艶っぽい笑みを浮かべている彼を、僕はジッと見つめた。
「斗輝、抱いて……」
 頭が完全に蕩けている僕に、気の利いた誘い文句が言えるはずはない。
 いや、もともとそういった方面の経験値が皆無なので、まっすぐすぎる言葉しか口にできなかった。
 それでも、彼は形のいい目を嬉しそうに細める。
「分かった。だが、もう少し、奏太のことを気持ちよくさせてあげたいんだ」
 そう言って、上体を起こした彼は、右手を下のほうへと伸ばした。
「今度は、ココで気持ちよくなってくれ」
 斗輝は大きな手で僕のぺニスを優しく握ると、緩やかな仕草で扱き始める。
 数回上下に擦られただけで、半勃ち状態から、あっという間に完勃ち状態になった。
 僕はブルリと体を震わせ、腰を揺らす。
「ん、ふっ……」
 彼の手による刺激はかなり気持ちいいけれど、今の僕が求めているのは『それ』ではなかった。
「や、あ……、斗輝、ちが、う……」
 首をフルリと振って、彼に訴える。
「違う? ああ、そうか。分かった」
 僕の言葉を聞いて、彼は手の動きを変えた。
 上下に擦る動きはそのままに、ペニスを握る力を強めたのだ。
 根本から先端に向ってギュッギュッとリズミカルに扱かれ、腰の奥から頭の先に向けて快感が走り抜ける。
「ひゃ、あ……!」
 ビクンと腰を跳ね上げ、僕は甲高い声を上げた。
 まだ手の中にあった彼の髪を、思わず握り締めてしまう。
 今度こそ痛みがあったかもしれないけれど、斗輝はなにも言わないし、僕のペニスを扱く手も止めなかった。
「奏太が気持ちよさそうにしてくれると、すごく安心する。ほら、可愛い声をもっと聞かせてくれ」
 彼は速度を上げて、僕のペニスを扱く。
「あ、うぅ……」
 僕はブルリと激しく首を振り、さらに強く彼の髪を掴んだ。

 もちろん、さっき以上に気持ちがいい。
 それでも、僕が求めているのは、やっぱり『これ』ではない。

 震える唇を動かし、僕は彼に声をかける。
「ち、がぅ……、斗輝、やだぁ……」
 気持ちばかりが焦ってしまって、目の奥がジンと熱くなった。
 せり上がってきた涙がポロリと零れたところで、斗輝はハッと息を呑む。
「奏太、これではないのか? なら、こちらは?」
 彼は扱くことをやめ、僕のペニスの先端に親指の腹を宛がった。
 そして、小さな孔付近でクルクルと円を描きながら擦り始める。
 もちろん、その刺激もとんでもない快感を生み出しているものの、僕の心は彼と一つになることを願っているのだ。
 快感に体を震わせつつも、僕は首を横に振り続ける。
「そうじゃ、な、い……。僕、抱いてって、言った……、あ、あん……」
「だが、奏太はこうされるのが好きだろう? 今も、気持ちよさそうに体を震わせているじゃないか。ああ、先っぽがヌルヌルしてきたぞ」
 斗輝はクスッと小さく笑い、さらに親指を強く早く動かす。
 彼が言うように、先走りを滲ませてしまうくらいすごく気持ちがいい。

 それでも、やっぱり違うのだ。

「斗輝……、ちが、う……、ち、が……」
 快感によるものではなく、否定の意味で首を横に振る。
 僕の目からは涙が次々と溢れ、頬を濡らしていった。
 斗輝は手の動きをピタリと止めると、僕の顔を覗き込む。
「奏太?」
 不安そうな声音で名前を呼ばれた僕は、スンと小さく鼻を鳴らした。
「きもち、い……けど、今は、ちがう……。ぼく、抱いてって、言った……」
 すすり泣きながら、ジッと彼の瞳を見つめる。
 斗輝は申し訳なさそうに、形のいい眉毛をしょんぼりと下げた。
「そうか。奏太を気持ちよくさせてやりたかったが、違ったんだな。すまない」
 暗い声で謝ってくる彼に向って、僕は力が入らない手を伸ばす。
 彼の首に腕を回し、僕はゆっくりと口を開いた。
「あの、ね……。今は、そうじゃないって、いうだけ……。謝らないで……」
 淫熱によって潤んだ目で見つめたら、斗輝は僅かに口角を上げる。
「そうか……」
 一言零し、フッと短く息を吐いた。
 彼の表情からしょんぼりとした感じが消えて、僕はホッとする。
「そうだよ……。今は、斗輝と一つになりたいって、思ったんだ……」
 フニャリと頬を緩ませると、彼は僕の唇を軽く啄んだ。
「なら、奏太の希望通りにさせてもらおう」
「うん、早く抱いて……。お願い、早く……」
 羞恥心が欠片も残っていない今の僕は、腰を振っておねだりをする。
 そんな僕の様子に、斗輝はいっそう目を細めた。
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